驚異のアウトドア調理器具
 『ダッチオーブン』の話

ダッチオーブンという調理器具をご存知だろうか?

アメリカ生まれなのに「ダッチオーブン」という奇妙な名前のついている鉄鍋は、煮る・焼く・蒸すなどの
調理機能を有するアウトドア用の鍋である。中に材料を入れて、焚き火の中で放っておくだけでオー
ブン料理ができるという優れものなのである。鍋が勝手においしい料理を作ってくれるので、これぞ豪
快な男の調理器具といえるであろう。なぜ男かというと、分厚い鋳鉄でできているのでたいへん重く、
か弱き(?)女性が気楽に使えるものではないからなのであるが、最近ではか弱き男性も多いので
この表現は不適切かもしれない。ちなみに私の持っているテネシー州ロッジ社製の12インチ脚付深鍋
は蓋とセットで約10Kgという重さである。

自宅のコンロでじっくり煮込むシチュー料理などにも適しているのであるが、重くて場所をとるので、きっと
邪魔者扱いされることであろう。無理して男の料理と強調するほどのこともないのだが、屋外での調理
に最適なのであえて強調させてもらったわけである。  

もともとは、アメリカの西部開拓時代からカウボーイなどに親しまれてきた屋外料理用の鍋が進化して
きたものだが、ダッチの語源は諸説あるようだ。
オランダ人が熱心にカウボーイや開拓者達に売り歩いたためとか、ダッチは考案者の名前からきている
のではないかといわれたりしているが、定かではない。現在のオランダとはあまり関係はなさそうである。

ダッチオーブンがなぜ優れた調理道具かというと以下のような点があげられる。
熱の保持力が強い
 たいへん分厚い鋳鉄でできているために、一度加熱されるとその熱はしっかりと保持される。そのため
 じっくりと時間をかける煮込み料理にはたいへん適しているのである。蓋に縁(フランジ)がついている
 ので、蓋の上に炭や熾き火を載せると上からも加熱されるため、本物のオーブンと同じような加熱が
 可能となる。後述するローストチキンはこの恩恵をフルに活かした料理といえるであろう。

圧力がかけられる
 蓋がたいへん重い(約3Kg)ため、材料から出てきた蒸気が冷やされて水となり本体と蓋の間にたまって
 シールされたような密閉状態となる。このため中に圧力がかかり、圧力鍋と同じような調理が可能と
 なる。これの応用編として最近私が気に入っているのは、飯盒に代わる炊飯である。昔の大釜に
 重い木の蓋をのせて炊いたようなたいへんおいしいご飯を味わうことができる。適度にお焦げがあり、
 ふっくらとした炊きたてのご飯は絶品である。パエリヤなどの炊き込みご飯などにも応用できる。
 但し、水加減はむずかしいので、何度も失敗を重ねることを我慢してもらいたい。私のような達人?
 になると、そのときの米の質(新米か古米か)、気温、水温、火力、高度(沸騰点)などの条件を
 瞬時に読み込み、適度な水加減ができるようになる。但し、これは飯盒でご飯を炊く経験が豊富に
 あったかどうかが大きく影響しているはずである。

水を使わずに調理ができる
 素材が持つわずかな水分だけで、素材のおいしさを引き出し、栄養分を逃がさない料理ができる。
 その代表格がいも類のローストではないかと思う。洗ったジャガイモやサツマイモをダッチオーブンに
 入れて弱火で加熱するだけで、約30分でふっくらとしたポテトを味わうことができる。

油を使わずに調理ができる
 素材の持つわずかの油を引き出して調理することができるので、ヘルシーな料理ができる。
 ローストチキンは鶏肉の油だけの蒸し焼きなので、添えた野菜類の味も映えてくるのである。

ほったらかしておいても料理ができる
 適度な火力の焚火を絶やさぬようにしておけば、屋外で遊びながら、気がついたらおいしい料理が
 勝手にできているという感動を得ることができる。

以上のように万能ともいえるダッチオーブンだが、使い方を間違えるとたいへんなことになる。
以下のような点に注意する必要がある。
やけどに注意
 肉厚の鋳鉄でできているため、熱の保持力が高く、なかなか冷めずにいつまでも熱い。皮の
 手袋などでガードするなどのやけどをしないような注意をしてほしい。現実に経験したことは
 ないのだが、早く冷やそうとして熱いままのダッチオーブンに水をかけたりすると割れてしまうことも
 あるという。

さびに注意
 アルミやステンレスの鍋になれている人には理解できないかもしれないが、ダッチオーブンは鉄で
 できているため、使用後水分を残しておくとすぐに錆が出てしまうたいへん厄介な代物である。
 特に水分の多い料理の場合には、できる限り早く洗って乾燥し、油を塗っておく必要がある。
 面倒だからといって、明日の朝に洗おうなどと不精をすると、翌朝蓋を開けたとたんに内面に
 びっしりと錆が出ていてびっくりするであろう。日々の手入れをしっかりして、使い込んでいくと、
 鉄の表面に油がしっかりとなじんでくるため、手入れもぐっと楽になってくる。中華鍋の場合と
 同じようにメンテナンスが大事なのである。

腰痛、ぎっくり腰に注意
 たいへん重いので腰を痛めないように十分注意しておきたい。キャンプに行ってぎっくり腰に
 なってしまったなんて恥ずかしいことにならないようにしてほしい。重いというのは大きな欠点で
 ある。なぜならば保管場所に困るし、奥さんの協力は期待できないからである。

ダッチオーブンの弟分に、スキレットという分厚いフライパンがある。これもたいへんいろいろな
仕事を勝手にしてくれる優れもののようだが、これについては私自身の使用経験があまり多く
ないので、別の機会に改めて紹介していきたい。


ダッチオーブンの定番料理ローストチキンのレシピの紹介

ローストチキン(鶏の丸焼き)

材料(5人分):鶏(丸ごと1羽)、ジャガイモ5個、たまねぎ5個、にんじん2本、ゆで卵5個、
         セロリ適量、にんにく適量、パセリ適量、塩、こしょう、香辛料類、オリーブオイル

調理器具:  ダッチオーブン(12インチ深鍋脚付)

作り方:

1.ダッチオーブンの内側にオリーブオイルを塗り、あらかじめ温めておく。
2.セロリ、パセリ、にんにくを粗みじん切りし、フライパンで炒める。塩、こしょう、オールスパイス、
  チリパウダーなどでやや濃い目に  味付けする。これを鶏の腹の中にスプーンで入れ、
  お尻の穴を爪楊枝で縫い付けてふさぐ。
3.鶏をダッチオーブンの中心に入れ、その周りによく洗ったじゃがいも(皮つき)、たまねぎ
  (皮を剥いて半分にする)、にんじん(皮を剥いて大きめにカット)、ゆで卵などを入れる。
4.味付けは、好みで調整してもよいが、あらかじめ塩、こしょうをふっておくと味がしみ込んで
  よい。塩はマジックソルトをお勧めする。
5.蓋をして焚き火の中に入れる。熾き火や炭を蓋の上に載せて、じっくり時間をかけて加熱
  していく。目安は約2時間。上下で常に加熱されている状態を維持する。
6.順調に加熱されると、30分~1時間で煮込まれる音がしてくるが、開けずに我慢して
  火勢を調節する。
7.ローストがほぼ出来上がると、蓋の隙間からロースト臭がしてくる。タイミングを見て蓋を
  開けて中の状態を見る。この時はなるべく短時間で閉めるように心がける。鶏の表面が
  狐色に焦げているようであれば、一旦蓋をして火勢を強め、5分後に焚き火からはずす。
8.蓋を開けて、まず初めにローストチキンの腹をナイフで裂き、手羽、腿などをばらして皆で
  突つきながら食べ始める。味が薄い場合はマジックソルトなどをお好みによって振りかけ
  るとよい。