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 依頼のいろいろ 

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私がマンガを描くときにどういう依頼や注文がきているか、 ちょっとご紹介してみましょう−−−


昔よくあったのが 「うちは少女漫画誌なので、主人公は女の子にして下さい」
(時代を感じますね、 今はこういうところはほとんどないんじゃないかと思います)

雑誌の企画による場合もあります。 「次号は何々の特集号なんでよろしく」  というやつです。
私はこれが好きで、大喜利の「3題話」みたいでけっこう燃えてしまいます。
「バスカビルの魔物」の単行本に収録された作品は、 ミステリーマガジン誌上で毎回「特集」のテーマがあって、 「今回の特集テーマはこれになりました」  と連絡が来て、それを考えに入れながら毎回「お代拝借」してて、 なかなか面白かったのですが (12月号がどれだったか、単行本で読むとすぐおわかりになるでしょう) 1度、「今回の特集はクライムノベルです」と言われたときは、 クライムノベルを知らない(おいおい)私は「しまったぁ」と頭を抱えました。 これも、単行本を見て探していただければ、どの回だかわかると思います。

これと似た感じで「夏恒例の恐怖と怪奇特集」とかがあって楽しいのが、 双葉社のミステリーJour誌です。
今描いている 「珍犬デュカスのミステリー」 は  「これまでのようなエッセイ風読み切りタイプではなく、 キャラクター性のあるシリーズで、話も会話の掛け合いで終わるんじゃなくて、 何か事件が起こる展開で・・・」  という依頼で考えた設定です。キャラクター性は出ているでしょうか?

さて、他に「主人公が子供ではなく、恋愛物にして下さい」というのとか、 「かわいいファンタジーでお願いします」というタイプの注文依頼があります。 (これは何となく誌風がわかりますね)
私がたまに言われるのは 「表紙の顔の目の中に何か描いておいて下さい」  (ごもっともです)
現在のコミックトムの仕事は 「画面を黒くして下さい」  という注文がついています。
女性の漫画家は男性漫画家と違って画面が白っぽいので本の中で違和感がある、 という事のようで、前回は 「それでは!」 と背景を全部ベタにしたら  「真っ黒でびっくりしました」 と受け取りの返事が来ました。

ちなみに、ベタを背景に使うのは私はけっこう好きです。 むかし夜の話が好きで、「画面が黒すぎて本の印象が重くなるから、 ベタばかり使うのはやめて下さい」 と止められた事があります。 誌風を見てベタを塗らないといけません(反省)

画面に関して言えば 「文字を入れる吹き出しが狭すぎて、 こちらで文字を入れにくいので、もう少しゆったり余裕をつけておいて下さい」 (漫画の文字は編集部が活字を入れてくれます) と言われたので、 次から全体に大きめの吹き出しを描く事にしたところ、 大は小を兼ねなくて、  「吹き出しが大きすぎるので小さくして欲しい」 という雑誌もありまして、 このへんの画面デザインは、誌風のイメージのかねあいもあって、 注文内容は各社ケースバイケースです。

内容的に注文が入るわけではないのですが、ネーム (あまり絵の入っていない、マンガの下絵のようなものです)を見せた時や、 原稿を送ってから相談があったり、「ここをこういう風に変えてくれませんか」  と言われる場合もあります。

私の場合は、こういう共同製作型の内容変更はあまりない方ですが  (なにしろ、作風が 「他人が見てもドーしていいかよくわからない」  というタイプなので・・・) 一般誌では普通の方式です。
いまやっている仕事の中では   「珍犬デュカスのミステリー」 が、「ここはこうしたらどうでしょうか?」 と問い合わせの来る可能性がある、貴重な一般誌のお仕事です。

こういう場合、最初にきちきちに締めてつくってしまうと、 ほんの一言の単純なセリフ変更が効かない−−という欠点があるので、 共同作業が出来るように、全体的には調子を少しゆるめに作っておきます。

「ゆるめ」 に作るというのは、ニュアンスがわかりにくいと思いますが、  「マンガの展開やキャラクターの性格を”自分だけの趣味” できっちり固めてしまわないで、 共同作業の出来る変化(余裕)のハバを持たせて、 後からいろんな角度に変更可能な可動状態に作っておく」  というような事です。 言い方を変えると  「作者の”作風”に依存した表現で仕切らずに、 もっとスタンダードなテクニックで勝負する」 というような事になります。

私は一般誌の仕事が少ないので、 このタイプの制作は「なんだか映画のスタッフになったみたい」 な気がして、けっこうわくわくします。 あんまり多人数で制作したことがないので、 こういう、ある意味でのセッション(?)みたいな状態は、 話を作るときにも、一人で完全完成させるのとは別の、 なかなか面白い感覚があるのであります。

この話は他に、クセの強い脇役と、カーアクションの出来る出演者と、 大道具小道具と、ロケ用カメラがいるとミステリーとして面白いんだけどなぁ・・・ あと「方言指導」(木曜ミステリー劇場なのかっ?!)

余談になりますが 私は多人数で何か作品を作る・・・というのがわりと好きで、
そういう意味では原作つきも面白いし  (自分用に書き下ろしの来るタイプの場合は困りますが、 何かもう完成している作品があって、それを漫画化していい −−−というのは、なかなか解釈や演出の個性が発揮できる面白い作業です)   何人かでやる合作や共作やセッションみたいな物も面白いし、
一度、それこそ映画製作みたいに、 各ジャンル全てに腕利きの受け持ちスタッフがいて、 統合してマンガ作品が出来ないか・・・なんて思う事があります。  原作付きで背景を描くアシスタントさんがいて・・・というんじゃなくて、 それぞれ単独名でスタッフロールが出るような感じのヤツね・・・ 20人くらい(多すぎる?!)

さて注文や依頼の条件ですが、
そういうものが「ついている時」と「ついてない時」では、 どちらが描くときラクかと言いますと、これについては一長一短で−−−

「なんでも好きなものを描いて下さい」
と言われれば、 自分がその本に合うと思うジャンルの中から自由に作れるわけですし
(この場合、「この本にこういうヘンなものが載っていたら面白いのでは?」  などという、一種、編集に参加するような楽しみもあります)
「これこれこういう条件で描いて下さい」
と言われれば、内容の範囲が条件下で絞り込みやすいと言うほかに、 先方の条件によっては、 自分が全然描いたこともない物を描く事ができるチャンスでもあります。


で、「好きなものを描いて下さい」
と言われた場合は、こちらで自由に描く内容を考えるわけですが、 一応相手の誌風は考えに入れます。

ナイショで告白しますと、今まで一番 「ド・ド・ドーしよう・・・」  と思ったのは 「ユリイカ」誌で、 ここは中野美代子先生の「西遊記」の特集でショートマンガを依頼されたのですが、 なにしろ「ユリイカ」なものですから、 まわりがみんなハードな学術論文みたいな感じ(こらこら)。

「好きに描いて下さい」 と言われる意図は十分わかっていたものの、 さすがにキンチョーしてなんだか固くなって、 作品の出来としては非常におとなしいものになってしまいました。

後から考えて 「くやしかったなぁ・・・   せっかくのユリイカの仕事だったのに、 もっとバカな、もっとくだらないものを描けばよかった・・・  私はなんのためにモンティパイソンのファンを長年やっているんだぁ!!」   と、後悔しきりでした。

やっぱり気が小さいのはいけません。



1999.9.9.



カット2枚は 「NightSlumber」 の アイデアスケッチより


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