・・・「審判」と悪夢・・・
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・//オーソンウェルズの悪夢について//・


TVでオーソンウェルズの「審判」を観ました。  悪夢のお話らしいのですが・・・

先日、NHK教育で「審判」を放映してました。
いかにも昔のモノクロ映画で、画面がめちゃくちゃキレイなのです。
やっぱりモノクロはこの時代のでないとなぁ・・・今撮ると、 何が違うのかわからないけど、デテールとか色の階調がこうならないですね・・・ もう、光に対するセンスが違うものなぁ・・・

ところで、私はオーソンウェルズとあわないらしくて、今まで面白かったのが 「市民ケーン」だけ、という悲しさ。人気のある「第三の男」なんか全滅状態です。
今回のこれもオーソンウェルズ作品なので、ちょっと迷ったのですが、 でもカフカで悪夢物で面白そうだし、主演はごひいきのアンソニーパーキンスだし、 とりあえず何とかなるでしょう・・・と思って見始めましたが・・・  うははははは、途中でひっかかってしまいましたー!

まず、冒頭の「悪夢」の意味がわからないもんね(これじゃ話にならないではないか)
いや、悪夢だってのはわかるんですけど、主人公がなんで門を開けてほしいのかがわからない (これがわからないと 「門が開かないのなら帰ればいいのに」 とか思ってしまって、 死ぬまで門を開けてもらうのを待っていた主人公が、全然かわいそうじゃないからダメなんです)
で、話がスタートすると、やっぱり身に覚えのない意味の分からない罪状で逮捕されたりして、 主人公に悪夢が襲いかかる訳なんですけど・・・うーん・・・ なんか、あの・・・ストリップ見に行って、 出てきたおねーちゃんがいきなり服全部とって脚開いちゃったみたいで(こらこらこら)

なんというか、直球勝負のストレートで「悪夢ネタ」がガンガン来るんですけど、見ている内に  「でも、これって”悪夢”・・・か・・・な???」という疑問がわいてくるのであります。
ハッキリそれが出るのが、主人公が叔父さんに嫌みを言われる場面で、
工場みたいなだだっ広い職場のデスクで、訪ねてきた叔父さんに「うちの娘がここへ来たのに、 冷たく追い返したそーじゃないか」とねちねち苦情を言われてる主人公が、 「いや、あの、今は勤務時間中ですし・・・」と言い訳したとたん、終業時間になって、 みんなが一斉に立って帰ってしまう・・・
という展開のところ。

見ながら「これ”悪夢”じゃなくて”運が悪い”んじゃないかな」 と、悩んでしまうわけです。
”悪夢”の場合は 「勤務中なので・・・」と言い訳した瞬間に実は「もう」勤務時間が「終わって」て、  (主人公の顔をアップにしてセリフを言わせて、 カメラが引くとみんながわらわら帰って行ってて、主人公だけがデスクの前に座ってるわけですね)  主人公の立場がなくなってしまう・・・ というのが「理不尽な悪夢」の状態ではないかな、という気がするわけです。

「勤務時間中なんです」と言ったのと同時に勤務時間が終了しちゃうのは、 単なる運命の意地悪というか、タイミングと運が悪かった訳で、 わりとよくある(ないですかこんな事?)現実的なバッドタイミング。
「具合が悪いなぁ」 と思うけれども、別に不条理じゃないし ”悪夢”のロジックというのともちょっと違う感じがします。

こういうひっかかりが随所にあって、他にも、誰もいない裁判所で 「僕は法律のことを何も知らないし・・・」と言いながら、 主人公が何か自分の裁判に有利になるような知識を得ようと、 裁判官だか判事だかの分厚い法律書を開いてみると、 中にポルノグラフィのようなものが挟まっていて、あわてて本を閉じる・・・ というような箇所もあるんだけれども、これがなんでポルノグラフィなんだろう・・・?
確かに法廷の机の上でこっそりHなもの見てる裁判長なんかに担当されたらイヤだけど、 わりと現実にいそうだし、特に不条理な感じもしないし・・・
こんな、何で挟んであるか「納得」できるものを挟んでドーする!
ポルノよりも幼児マンガのようなものが挟んである方が、 状況としては怖いような気がするんだけども・・・

という訳で「不条理な悪夢」というよりも「あんまり嬉しくない状況」という感覚強いので、 ではそういう話なのかと思うと、工場と裁判所がドア1枚でつながってたり、 「意味の分からない理由で逮捕される」 なんていう不条理な悪夢度があって、その2種類が混ざっていて統一性がないというか、 状況のリアルさの度合いが合致しないので、見ていてちょっと落ち着かないわけです。
「話によっては助けて上げましょう」という画家さんが「全面無罪というわけにはいかないけれど、 罪が確定しないのはどう? 捕まって、釈放されて、また捕まって、釈放されて・・・って、 一生グルグルしてて有罪にならないやつ」 という所なんかはまさに「悪夢」そのもので、 「全然助かってねーよ!」と突っ込んでしまうくらいイヤーな感じなのですが・・・ で、しんしんと「つまりこういう理由で私はオーソンウェルズの映画を最後まで見られないんだな」 と、ナットクしながらテレビを消そうとしたんですけど(おいおいっ!)  どうでもいいけど主役のアンソニーパーキンスがむちゃくちゃキレイなんです、この映画!

という訳で「きれいなアンソニーパーキンス」に弱い私は、消すに消せず、 けっきょく早送りで最後の爆発の場面まで見てしまいました。

オーソンウェルズという人は、見ていて思わず頭を抱えて 「う・・・うまいなぁ・・・!」とひきつってしまうような、 テクニカルメリットの高い画面をガンガン見せてくれるわけで・・・
背景なんか、いったいどうやって撮影したのかわからないほどの光の扱いがあったりして、 ものが「悪夢」なだけに、室内も屋外も不思議な風景や凝った構図が満載で、 画面は全面めちゃくちゃキレイだし、ついでにアンソニーパーキンスまで超キレイに撮られてて、 もうまるで、最盛期のアランドロンみたい・・・!

・・・うーん、やっぱりこの時代の白黒映画ってキレイですね。(どういう結論なんだ・・・)





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