・・・菊人形・・・ |
子供時代の秋のイベントはこんなのでした・・・ というお話です。 私が生まれたのは大阪の高槻市というところです。 小学2年まで住んでいたのですが、 淀川の堤防沿いの農家でして、川を挟んだ向かい側に枚方市、 そこにある「ひらかたパーク」というところに、 春秋にお弁当を持って1日出かける・・・というのが、 我が家の毎年の伝統行事になっていました。 この「ひらかたパーク」では、秋に「菊人形」というイベントがありまして、 今でもあるのかもしれませんが、私が親に連れられて行っていた当時は、 毎年のテーマは「牛若丸(の名場面集)」みたいなものや、 「平家物語」みたいなものや、 「おとぎ話(御伽草子かもしれない)」みたいなものや、 「孫悟空(西遊記ですね)」みたいなものや・・・ なにしろ大半が、小学校入学以前の記憶なので、 あまり詳しい内容は覚えていないのですが、 当時の大人から子供まである程度場面がわかるような、 そういう「よく知られた名場面集」が多かったのですが、 ある年、「中国の故事/古典」のような、当時の自分 (せいぜいで小一くらいだったと思うのですが)がほとんど内容を知らない、 珍しいテーマの回がありました。 ちょっと当時の会場の様子を説明しますと、 展示は 「大菊人形館」 という会場の中で行われていまして、 入口の外(屋外)部分に、中のテーマに添った場面が2場面ほどあり、 館内は2階建ての迷路のような順路になっていて、 区画ごとに1場面が展示されているのですが、オープンエリアなので、 近くの展示や2階会場の展示も、今見ている場面越しに見えていたりして、 わりと視界のいい「おばけ屋敷」に近いものです。 で、等身大の人形の、顔だけは日本人形のようなものなのですが、 衣装の部分は枠組みの型どりの中にびっしりと小菊を埋め込んであって、 人形館は密室で当時は換気設備もなく、中に入ったとたん、 小菊特有の強烈な香りが鼻の奥から頭蓋骨にかけて突き抜けるような感じで、 一種、匂いに酔ったようになってしまうのであります。 (ちょっとアブナイかも?) |
人形は顔がきれいなのが印象的で、
今で言うと日本人形の秀月とかそういうタイプの物でしたが、
とにかく、珍しく中国の故事特集という事で、
場面の横にその場面のタイトルと、簡単な物語の説明文がついていて、
内容を知らなくても一応概略はわかるようになってはいるのですが、
「項羽と劉邦」なんか、
数行の説明だけでは全然なんだかわからない(そりゃそうですね)
親に聞いても、中国の古典や歴史なんか全然詳しくないのでわからない
(とほほほ) |
とりあえず、「虞美人」とか「楊貴妃」とか「孔子と孟子と老子」とか、
そういう名前だけは覚えて帰ってきたのですが、
とにかくこの回は、よほど内容が好きだったとみえて、
親にねだって、記念の絵はがきまで買ってもらったようです。 参考資料にその写真を勝手に持ち出していますが、 (ほんとは版権のある物だと思いますが、古いので、 資料提示という事で見逃していただきたい) 館内はだいたいこのような感じです。 |
モノクロなのでわかりにくいと思いますが、
衣装の部分は多少の布の他は、ほとんどが小菊のつぼみと花のついた茎で、
部分的な衣装のタッチを出すのに、深緑の荒い苔が多用されているため、
ほとんどが緑色(花が咲き始めているところは、緑の中に白や黄色や紫)。
”貴妃酔酒”の梅蘭芳(メイランファン)の衣装なども、
手前の飾りは金襴と繻子ですが、袖や脇の本体部分は小菊を埋めたものです。 頭痛がするほどの強烈な菊の香の充満は想像力で追加して頂いて、 多少は雰囲気が伝わるでしょうか? |
”司馬温公” の場は会場の入り口近くにあって、
「司馬温公は子供の頃、子供が水瓶に落ちたので、
高価な水瓶を割ってその子を助けました」なんていうエピソードが書いてあって、
入り始めはわかりやすかったのですが、
”桃園の義盟” の張飛や玄徳なんかになると子供にはお手上げで、
”貴妃酔酒” で「長恨歌の楊貴妃が・・・」などと書いてあっても、
中学の漢文だかで長恨歌を習うまでなんだかわからなかった(おいおい・・・)
上に、京劇を知らないので「なぜ酔っぱらっていて、
主人公が梅蘭芳という人なのだ??」
というナサケナイ事態になってたりしました。
(後からわかっただけマシかもしれませんが・・・) |
上の写真の 「虞美人」 の場は会場の二階で、
背景に別場面の屋根などが見えています。 順路の手すりから下をのぞくと、いくつかの場面が上や背後からも見られて、 ちゃんと全方向で見られるように作ってあったのですが、 エピソードによっては、たまに夜の場面などがあって、 その部分はまとめて区切られた場所に暗く灯りを遮られて作られてあり、 闇の中で灯に照らされた静かな夜の場面とか、 夜の炎の中の落城の場面とかあって、 夜の闇の中から抜けると、 いきなり明るい真昼の青空の場面に出くわしたりする 場所の移動による場面転換の演出 が使われていました。 子供の頃の印象というのはけっこう強烈で、 私は毎年、この菊人形館を見るのを非常に楽しみにしていて、 この中ですっかり異世界に没頭した後で、 出口から外に出た瞬間、 一気に現実の世界に戻ってガクゼンとするような感覚に、 毎回強烈なショックを感じていました。 (「ナルニア国ものがたり」 で、 衣装ダンスの中から出た瞬間が、こんな感じなのではないかと思いますが) 「アジア変幻記”塔に降る雪”」(潮出版社)の中の 「桃の村」 で、 主人公が「原のおばさん」に誘われて 「おばけ屋敷」 の ”作り物の桃源郷” に入り込むエピソードは、 この 菊人形 を見た記憶をなぞって描いています。 江戸川乱歩の「押絵と旅をする男(というようなタイトルだったと思いますが)」 も、これに近い「異世界への混入」の感覚を感じるのですが、 江戸川乱歩の生きた頃はテレビもないし、 もっと身近に、強烈に、こういう濃厚な「見せ物」の仮想世界が、 あったのではないでしょうか。 そんな訳で、 単なる秋の行楽お楽しみイベントだった 「大菊人形展」 ですが、 子供のサカタヤスコにはけっこうウケまくっていて、 今でも秋の風の中にいると、反射的に菊の匂いを連想します。 「匂いや香り」 の付随する記憶は人間の中で最も強烈に残るといいますが、 本当かもしれません。 |
ちなみに、この 「ひらかたパーク」 では、
SKD(だと思うのですが)の 「春のおどり」「秋のおどり」
というのがシーズンイベントとして開催されていて、子供の私は、
なぜかそれをずっと、「宝塚歌劇」 なんだと思いこんでいました。(???)
そんなワケで 「さくら咲く国 さくらさくら 花は西から 東から・・・」
という曲を、宝塚のテーマだと思っていました。
(”さくら咲く国(曲タイトルは違うかも?)”は、SKDの代表曲です。
ほとんどの方がご存じだと思いますが、
本当の宝塚の曲は ”すみれの花咲く頃” であります。 しくしくしく・・・) 今考えると、SKDのレビューの方々に悪いことをしたような気がしますが・・・ ともかく我が家では、春は「バラ園散策と春のおどり」、 秋は「菊人形鑑賞と秋のおどり」、 をメインに組んでいたので、私は年に2回、 そういう本物の生のレビューを観る機会に恵まれていたわけで、 今考えると、なかなか環境がよろしかったような(?!)気がします。 この当時のレビューというのは日舞のクオリティが非常に高く、 歌舞伎に代表されるような派手やかな日本の美とか、 舞踊の鮮やかな色彩感覚とか、自然の季節感とか衣装の感覚を、 徹底的に覚えたのはこの時だったような気がします。 いま、時々妙な衣冠束帯や狩衣を描いてしまうのは、 この時の衣装の記憶が残っているのかもしれません。 小さい子供にはとりあえず何でも見せておくものです。 ちなみに、当然ながら、音のほうも生バンドなので、 弦楽器類の強烈な音色とか、管楽器の背骨に来るようなピリピリした感触は、 はっきり体の中に原体験として残っています。 機械の再生音だと耳で聴いて脳に蓄えられますが、 生の音の場合は、体の記憶として残りますね。 |
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