(93話)

円山弁天堂

ところ         東山区円山公園内

後小松天皇(1433年室町時代北朝最後の第6代目)だった。京の町に源照という琵琶法師がいた。
彼には、ただ一つの願いがあった。一度でいいから、天皇の前で、秘曲を演じたい、と願っていた。
源照は、日ごろから信心している円山弁天堂様に願いをかけた。
「何卒、願いを叶えて下さいませ」
くる日くる日も、山を登っては祈った。
そんな願いが通じたのか、ある日、彼のもとに、勅使が届いた。源照は天にものぼる感激だった。
やがて、天聴の当日、精進潔斎した源照、、この日の為に励んだ腕のすべてを琵琶に託し、無心
に弾いた。その音色、語りの妙なる響きは、天皇の心に深く刻みこみ感動させた。
「みごと、みごと。源照とやら、まさに名人!!さらに励めよ」
天皇は源照を険校に任じ、褒美として、紫衣の法衣を授けたのだった。
源照はまた、円山弁天様の霊験を感謝、山に御堂を寄進したのだった。
 
寺伝によれば、堂内の弁財天女は天から降臨せられた秘仏とか。いまも、六十年巳年に一度しか
開帳されない。生涯、一度もその姿を拝することもなかった住職も多い。ある住職が、この弁財天
女に仕え、朝夕、経をあげていたが、お姿を見たことがない。
「住職が本尊のお姿を知らぬとは人に聞かれても恥。もうずいぶんお勤めしたから、満更、罪も
当たるまいて・・・・・」
住職は本殿に上がり、神扉をぱっと開いた。と、住職の目に映ったのは、ふくよかなお姿ではなく、
輝くばかりの後光。
「あっ!!」
住職は、目をおさえると、そのまま、神殿から転げ落ち、気を失ってしまった。目がつぶれたの
であった。
 
健久の年、天台座主慈鎮が安養寺を経営するに当り、辨財天を寺の鎮守として勧請した。吉水と
は元来土地の名で、安養寺境内から霊泉が沸き、「よい水」だから「吉水」と称したと伝わる。
この水は青蓮院宮歴代法親王が灌頂法会を行う時、道中に高張提灯を建て深更に汲みに来ていた
また知恩院や東大谷からも正月の仏前の初水として年々汲みに来ていたという。
三条小鍛治宗近ないし粟田口藤四郎吉光は、辨財天に請願し、当山の石を以って鑪盤とし、辨財
天の相槌を得て、吉水をもって刃の水となして名刀を打ったという伝説があり、今も社壇の下に
鉄砧石が残っている。
慈鎮の石造宝塔があり鎌倉期の作として重要文化財に指定されている。正面に開扉があり、釈迦
・多宝二如来が蓮華座に安置されている。親鸞の娘がこの地に埋葬され、その供養塔であるとい
う説もある。
 
辨財天は、妙音天・美音天とも訳し、金光明経を受持する者を守護している。もともと仏教伝来と
ともに印度から伝わった天女で、サンスクリットでは「湖を有する者」の意を持つ。水は生命を生
み出し、その水を司る神であることから一切世間の母と崇められている。辨財天は七福神の中でも
唯一の女神とされ、容色麗しく、音楽・技芸・福徳・延寿・財宝・弁舌・知恵・恋愛・除敵など、様々な
現世利益を授ける。

HOME *** *** NEXT