(85話)

夜泣止めの松

ところ       上京区智恵光院五辻上ル紋屋町303

信長が天下平定のちょっと前の話
西陣の一角、法華宗真門流総本山 略して慧光山本隆寺にまつわる話、境内本堂わきにある一本
の松別名”夜泣止めの松”にまつわる話である。
その当時、本隆寺に日諦上人という偉い坊さんがいた。ある夜、本堂でおつとめをしていると、若い
女性が乳児を抱いてけ境内に立った。長い黒髪、白いハダの美しい女は、うつむいてしくしくと泣い
ていた。あくる日も、次の日も同じ事が数日続いた。最初は気にも止めなかった上人も。女のあまり
の美しさと涙が気にかかり、ある夜に声をかけた。
「どいしたのじゃ、わけを話してくれんかのう。わしで役立つことならば・・・・・・」
「はい、実はわたくし、一週間前に死んだもので御座います。ところがこの子のことが気にかかり、
成仏できませんだからこうして夜になるとふびんなわが子を抱いて・・・・」
「うん、そうじゃつたのか。よし、わしがその子を預かって、しんぜよう、仏門に入れて立派な坊ささに
育ててつかわす」
「ほんとうに、ほんとうに預かって居ただけるのですね」
女ははじめて笑顔を見せ、また泣いた。そして上人が子供を受け取ると”パッ”と姿を消してしま
った。
その子は寺ですくすくと育ったが、母が居ない為か夜になると、”夜泣き”して上人を困らせた。
そのたびに上人は本堂横の松の木の周囲をお題目をとらえて廻った。すると不思議に子供は泣き
止んですやすやと眠りについた、という。この子はのちに、日修上人という立派なお坊さんなって寺
の繁栄に尽したというお話。
 
この伝説から、松の葉を家に持ち帰り子供の枕の下に敷いてやると夜泣きがぴたりとなをる、と言い
伝えられ、戦前までは松の木が枯れるかと思うほど手のとどく下のほうは葉が持ち帰られ、庶民信仰
でにぎわった。
 

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