73話)

道祖神社

ところ    下京区新町通松原下ル

新町通松原から南へ約10メートル。道祖神社は。かつて織物関係の問屋が並んでいた軒
の間な。小さいながら、手入れの行き届いたホコラだ。
祭神は猿田彦命(さるたひこのみこと)と天鈿女命 (あめのうずめのみこと)。旧無格社で、
いまは付近の人々が守っているが、由緒はきわめて古い。
「宇治捨遺物語」巻一の一にこんな話が残っている。
 
法輪寺に道命という阿闇梨(あじゃり)が住んでいた。慈慧僧正に学び、経を見事に読ん 
だが、どうしたことか、大の女好き。いまは、宮中でも才女のうわさ高い和泉式部にぞっ
こんだった。毎夜のように通っては朝帰りもしばしばである。
阿闇梨、その夜も和泉式部のもとに通うと床をともにした。
夜も更けたころだった。阿闇梨はむっくり起き出すと、急に経を読み出した。式部のことで頭
がいっぱいで、夜のおっとめをすっかり忘れていたのである。
とりあえず八巻を読み終えたのだが、夜はいっしか白々とあけていた。
「どりゃ、もうひと眠りするとするか」。阿闇梨、寝ぼけまなこをこすりながら、横になろうとす
ると、うしろに人の気配がするではないか。
「だれじゃ!!」
「いいえ、決して怪しいものでは御座いませぬ。私は五条西同院に住む翁です」
影はおどろおどろした声で答える。
「・・・・・して、その翁が何用あって」
「ただ今は結構な経を聞かせて頂きました。と申しますのも、いっもあなたの経は梵天、
帝釈天をはじめ高貴な方が聴取されているので、私どもが近くで聞くことができませぬ。
しかし、今夜はあなたが潔斎もなさらずに読経されたので梵天さまらは聴聞されず、私ど
もが聞くことができたのです」
阿闇梨はハッと胸をつかれた。
好色阿闇梨に、読経の心をさとしたこの翁が、道祖神社の道祖神であるというのである。
道祖神とは、道路の悪魔から行人を守護する神様。生者と死者、人間界と幽宴界の境をつ
かさどる神ともいわれる。794(延暦13)年の平安遷都よりずっと前からこの地にあったいま
は商売繁盛の神として、繁盛している。

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