(70話)

浮かれ猫の絵馬

ところ    上京区出水通六軒町西入七番町

寺町、寺の内と並ぶお寺の町、出水______。この一角に建仁寺派光清寺がある。
その昔、京の町衆を恐怖におののかせ、玉蔵院の応挙幽霊画、観音寺の百たたきの門と
共に出水七不思議の一つ,”浮かれ猫の絵馬”は,この境内の弁財天社に掲げられてい
た。色あせ、木目が浮き上がり、その輪郭さえ、さだかでない絵馬だが、ネコの目だけは
今だにランランと輝いている。 
浮かれネコ絵馬、またの名は真向猫(まむきねこ)と呼ばれるこの絵馬は、宝暦年間、
今から約二百余年前。伏見宮家の鎮守、玉照神社の一すみにかかっていた。宝暦七年、
伏見宮が江戸に移られたとき、光清寺に移されたと寺史にある。この絵馬にまつわる数
奇な伝説は、光清寺に移されたときから始まった。
このあたり、夜のとばりがおりると、人影は絶える。昼間、あれだけにぎわった参拝の人
々もいっの間にか姿を消した。時折り、酔った勤め帰りの人が千鳥足で通り抜けるだけ。
ある夜、光清寺の白壁わきに足を止めた。と、遠くの境内から三味の音が聞こえてきる。
「風流な人もいるものだ!、こんな夜ふけに・・・・・」
職人が耳をすますと、三味の音に合わせて歌声も流れてくる。不思議に思った職人、酔っ
た勢いも手伝って境内わきの門をそっとくぐり、三味の音に近づいた。
深い闇、職人がふと見上げると弁天さんのあたりがぼっと白く浮く上がっている。職人は
腰を抜かさんばかりに驚き。自分の目に映った光景が信じられなかった。たえなる三味の
音に合わせ、白い衣をまとった天女が舞っているではないか。!!!
職人の叫び声に天女の姿はぱっと消え、そのあとに真っ赤な口をあけ、金色の目を光らせ
一匹のネコがうずくまっていた。
以来、夜も静まり人通りが絶える頃になると・・・・決まって三味と歌が流れる。誰言うことな
「浮かれネコ」の仕業と呼ぶようにんなった。町衆もこの寺だけは避けて通った。
思い余った住職・松堂和尚が、加持祈祷の力でネコを封じ、絵巻に金網をかぶせてしまっ
た。ところがある夜、和尚の夢枕に衣冠束帯姿の高士が立ち。しんみりと語りかけるでは
ないか???。
「私は大明神の従者だが、人が来てうれしくなると踊りたくなるんです。和尚の法力でこんな
ありさまになったが不自由でしかたがない。二度と軽率な事をしませんから封をといて頂き
たい」
哀れに思った和尚は金網を取り除き、絵馬を元の弁財天にかけてやった。
 
「ネコも踊り出すほど三味がうまくなる」_____こんな噂が広がり、人気商売にご利益が
あるとして、一時、参拝者が絶え間なくなった時もあった。
光清寺は,慈覚大師作と伝える観世音菩薩立像が安置されています。

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