(51話)

大峰殿

ところ  上京区西洞院通一条上ル西側

簡素で小さいが、みやびた美しい社がとばりを落としてポッンと一つ____大峰殿はぎ
っしりつまった民家の軒のなかに沈んでいた。せまい参道は、近所の子供達の”ちびっこ
広場”にかわり、砂場で遊ぶ子供よりも話しが弾むお母さんたち。
平安時代、一帯は大峰野と呼ばれ、修験者の坊舎・大峰寺があったそうで、大峰殿はそ
の遺跡とか。いま、社のなかに安置される二メートルばかりの赤茶けた石宝塔は、当時か
ら伝わる塚で、一説に「役の行者の塚」とも「僧日円の塚」ともいわれる。また、三条天皇
中宮藤原研子の火葬塚とも。寺は広く知られていたらしく、「今昔物語」が伝える創建の
歴史が見える・・・・・
 
「ぜひ、私を弟子に一枚、お加えください」
若い男は、僧に入門をこうた。僧は法術をよくすると都で評判なのを若い男が聞き、頼み
こんだのである。
「入門が許されるまで、ここを動きませぬ。どうか慈悲を・・・・」
僧言うには。
「お前が真にこのことを習いたいという一念であれば、決して刀を持ってくるな」
と懇ろに言われたのである。
「承知しました」
と言ったものの!!!___若者はなぜか疑心を持った。
「・・・・わしについて参れ」
男の一念が通じたのか、僧は、やおら腰を上げると、スタスタと山にのぼっていく。若い男
もついていった。
山道をずい分奥深くはいって、若い男の足も、いまはクタクタになったときだ。僧の足が
ピタリと止まった。みれば、大きな木々にうまるように、りっぱな坊舎があるではないか。
「ああ、ここが行場か??」
若い男がみとれていると、突然・坊舎のトビラが開いて、老僧が飛び出してきた、老僧
はじろりと若い男を一瞥し。
「刀を持っていないだろうな」
「はい、持っておりません」
老僧は容易に信じようとはせず、僧を呼び寄せ、
「念のためにその男の懐中を調べるがよい」
若い男は、キッと身構え、フトコロにかくし持った刀で、僧に切りかかった。
と____、不思議にも、僧も老僧も、そして坊舎も忽然と消えてしまった。
「ヤヤッ!!??」
それどころか、気を取り直して、あたりを見渡せば、男はいつの間にか、大きな堂内に一
人とじこめられているではないか。
「さては、法術に・・・・・」
堂は一条西洞院、大峰寺であった。
 
大峰寺
三大霊山 の一つ(立山・白山) 天台宗や真言宗のに分れる。
大峰とは奈良県吉野郡十津川の東に聳える大峰山脈の主峰山上ヶ嶽のことで、山上には
蔵王権現を祀った蔵王堂がある。また山中には笙窟(しょうのいわや)、鷲窟、朝日窟と呼
ばれる岩室があって、古来山伏修験者の根本霊場とされている。修験道は役小角(えんの
おづぬ)によって開かれたといわれ、日本古来の山岳信仰に仏教の密教的要素が習合し
て成立した宗教で、山岳に上って修行することにより呪力を得るものとされた。
日円とはあまりわれわれには馴染みのない人物であるが、山伏修験者にとっては役小角
についで渇仰された人物という。

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