(37話)

鵺大明神

ところ  上京区知恵光院通丸太町下ル

二条城の北に、児童公園としてはずいぶん広い二条児童公園がある。その公園の北
端に小さい杜(もり)があって、その木立ちにうもれるように小さなおやしろが鎮座する。
日と呼んで「鵺(ぬえ)大明神」____。鵺は夜の鳥、真夜中の鳥である。
 
高倉天皇(1168)の時(一説に近衛天皇)というから八百年も前である。丑の刻(午前
二時)になると、きまって東三条の森の方から、ひとむらの黒雲がわき上がり、天皇の
御殿の上をおおった。しかも雲はあやしげな鳥のような叫び声をあげた。
これが、毎夜である。天皇、この雲の鳴き声が気になって仕方がない、大層おびえ、ノ
イローゼ気味である。
「ええい、にくき鳥。だれぞ、あの鳥を退治せい!!」
怪鳥退治の白羽の矢を立てられたのが、源三位入道頼政。
弓をとっては宮中随一の武将でもあり又歌人としても名を残した人物。
天皇じきじきの命、頼政、はやる心をおさえて待つことしばし、やがて東三条に黒雲が
わき、怪鳥の声高々と。満月のようにキリリとひきしぼった弓、いまはとばかりヒョウと
放った。黒雲は大きな羽音とともに近くの木立の中へ落下、段末魔の声とともにあえな
い最期。みれば、頭はサル、胴体はタヌキ、尾はヘビ、手足はトラというものすごいす
がたではないか。
 
やしろのそばに小さな池がある。俗に鵺池と呼ばれているが、この池、頼政が鵺を撃ち
とめたとき、血のついた鏃(やじり)をあらったところと伝えられる。
 
今、この池に水がないが、周囲を細長い奇妙な形からみても、何かいわくありげである
やしろの中には、池の由来を記した石碑が立っている。すべて漢文。
この鵺大明神と、道ひとつへだてた北側がNHK京都放局。高いアンテナがそびえ立つ。
そらを抜けるアンテナと伝説を秘めるやしろ。妙に対照的だ。
武勇と秀歌にほまれ高い頼政。鵺伝説とともに、人々の口から、このやしろは長く語り
つがれることだろう。
 
源頼政(源三位入道頼政)
保元の乱では源為義・為朝(ためとも)らと戦い,平治の乱では平清盛らに味方した。
のち平氏の横暴な政治に不満をいだき,1180年,以仁王を(後白河天皇の第2皇子)
奉じて平氏を滅ぼそうと兵をあげたが,やぶれて宇治(京都府)の平等院で自決した。

            辞世の句

うもれ木の花咲くこともなかりしに

       

           みのなるはてぞ悲しかりける 

 
藤原俊成の「今の世には頼政こそいみじき上手なれ」
俊恵法師の「頼政卿はいみじかりし歌仙なり」
など高い評価が見える。家集『源三位頼政集』がある。

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