(26話)

鶯宿梅

ところ  上京区相国寺塔頭林光院内

名木のツボミは、堅かった。時おり、比延おろしに歓迎された様に小雪が舞いちり冷たい
風が通り過ぎていく春えの坂道。木も又用心深いのか。
禅の名刹相国寺十三塔頭(金閣寺。銀閣寺等)の一つ林光院の梅は、じ〜っと、自らの
”春”を根気よく待っていた。毎年、彼岸になれば、白とピンクのかわいい花をつける梅
この木には別名”鶯宿梅”のながある。
「わたしゃ鶯、主は梅、やがて身まま気ままなるならば、サァ、鶯宿梅じゃないかいな・・・
端唄「春雨」にもうたわれる”鶯宿梅”だが、歌の、木を男女の逢瀬にたとえた粋な文句
にくらべ、、林光院の”鶯宿梅”はいかにも禅寺の庭にふさわしい、みやびたエピソード
を持っている。「大鏡」に伝えられる話である。
 
「まだ、見つからぬのか。春はもうそこじゃというのに・・・・」
村上天皇(946)は、いらいらしながら待つた。というのも、天暦年間の春近いある日
である。内裏・清涼殿前の梅の木がどうしたことか、突然、枯れた。毎年、春近くなれば
ウグイスがたづねてきて、一足先に”春の声”を聞かせ、天皇もいつしか、その声を待っ
ていたのだが、木が枯れてしまっては、ウグイスも来ない。早速に、先の梅の木にも劣ら
ぬ名木を捜させていたのである。が、これぞという木はなかなか見つからない。春は日一
日と近くなるというのに。そんな或る日だった。
使いはたまたま西ノ京のあたりを歩いていて、とある家のかき根からなそく姿のよい梅
をみつけた。花はにをうがばかり、いまがまっ盛りである。
「おお、これじゃ、これをおいてほかにないわ」
使いは家に飛び込んだ。そして、でてきた女主人にわけをはなした。
やがて、梅は西ノ京から内裏の庭に--------。天皇は大よろこび。植付けを待ちかねて
木に近づいたのだが、ふと見上げて驚いた。枝に一首の和歌が結んである。
 
         勅なればいともかしこし鶯の
            宿はと問はばいかが答へん
 
天皇は大いにエゴを恥じ入った。
「それにしても、見事な歌、よほどの身分の女であろう」
と、また素性を調べさせた。女は想像にたがわず、紀貫之の娘・紀内侍だった。梅の木が
もとに帰されたのはいうまでもない。人々は以来、この木を”鶯宿梅”と呼び、長くめで
たのだった。
この梅を、のち植え替えたのが、いま林光院にある梅。寺伝によれば、西ノ京二条にあった
紀内侍屋敷跡に建てられたそううで、寺の移転にともない、庭の梅もここに移されたとか。
木はいま、時代をへて、そのたびに生まれ変わったひこばえが、歴史の重さを感じさせる。
鶯宿梅は謡曲の曲になって親しまれているせいか、謡曲を習っている人には癒しの場である。

HOME *** *** NEXT