(19話)

地ずれの柳

ところ 中京区六角通烏丸東入ル

門をくぐると、目の前に青い枝がそよかぜにあをられ滝のようにみえる。
大きな柳の木である。枝はゆたかに長く。地面をはっているところから、人呼んで
「地ずれの柳」____。同じ境内の、京都のど真ん中の位置を示す”へその石”
と並んで六角堂____紫雲山頂法寺の名物の一つでもある。
西国十八番札所 「花山天皇(984年)創立者」とあって、参拝者は全国から年中あとを絶
たないがなかでも四月と十月には、この柳を訪れる人でにぎわうとか、枝ぶりがもっ
とも美しいばかりか、古くから「縁結びの木」として信じられていることによるようだ。
「西国札所観音霊験記」には!!。
「み堂におわす観音さまが御慈悲の手を柳の葉に化し給い、快いなよやかさで撫で
給う」と。そして、この信仰の由来が、嵯峨天皇にはじまるとも。
 
嵯峨天皇は六角堂・本尊如意輪観音菩薩を深く信仰していた。本尊は聖徳太子の
護持仏で、身のたけ五センチ。六角堂創建とともに安置された観音さまである。
天皇には、この観音さまに一つの願いがあった。
「容姿美しく、心ばえもまた世に類なき女性を妃として与えたまえ」
祈請して、さて、何日たっだろうか。ある夜、天皇が眠つていると、にわかに観音さま
が夢枕に、たたれて、
「六角堂の境内に勅使、差し向けるならば、御堂前に枝を張る柳の木の下に、一女
のたたずむを見ん。この女を宮中に入れるべし。夢ゆめ、疑うことなかれ」
天皇はぱっと目がさめた。あたりを見渡すと、もうお姿はない。
「不思議なことよ。。。」
それでも、朝になるのを待ちかねて、勅使を六角堂に差し向けた。
すると、一人の女が柳の下に立っているではないか。しかも、なにもかもが夢告の通
りである。
天皇は観音さまのお引き合わせと、早速、妃にするのだった。そして、日を追うごと
に寵愛が深まったのは言うまでもない。
驚いたことに妃は薫香など身にたいたこともないのに、いつも美しいかおりがただよ
い、如意輪呪を唱えるのが日課、人々からもあがめられたのだった。
 
いま境内の柳には、チョウチョウのようにおみくじが結ばれている。嵯峨天皇の故事
にあやかろうというのか。それとも、良縁にすがろうというのだろうか。雨にうたれて
薄黒くなったおみくじは、すでに結ばれたのだろうか。

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