(142話)

足抜き地蔵

ところ 上京区大宮寺之内東入ル妙蓮寺前町

江戸末期。京の遊郭島原を舞台にして、西陣の職人と遊女が恋におちた。借金をかたに足かせの名も
ない女郎と西陣といえど下職の若者。愛し合っても、金がない。しょせん結ばれることのない。が、二人
の愛は、日増しにつのり、女郎はついに一大決心をした。〜・〜・〜「足抜きしてあの人と一諸になろう」
しかし、島原には“足止め地蔵”というおそろしい地蔵さんがあって、足抜きした女郎を探すくるわの女
将が参ると必ず三日とたたぬうちに、逃げた女郎がみつかる、という。当時くるわの“足抜き女郎”に対
するリンチは残酷をきわめ、夜中に井戸の中へさかさずり、ムチ打ちと“サド”のきわみで、他の女郎衆
への見せしめとされていた。その女郎も、そうした同僚のリンチや“足止め地蔵”のふ
しぎな、おそろしいご利益を見聞きしていた。「あの憎い地蔵さんさえなくなれば、うまく逃げおおせるの
では」思いつめたその女郎は、ついにある夜こっそり着のみ着のままでくるわを抜け出し、重たい石地
蔵を背中に背おって一路北へ一里半、西陣は恋しい彼氏の待つ大宮寺之内の“灰屋路地”へ急いだ。
夜明け前、くたくたになって路地にたどりつくなり、彼氏の家の前でバッタリ。びっくり、飛び上がらんばか
りの男の介抱で、元気を取り戻し、そのまま二人はしあわせな人生をおくったという。
いつのころからか、そのお地蔵さんは路地の一角に鎮座、その名も“足抜き地蔵”と改められ、灰屋長
屋の守り神となり、現代に生き続けている。
 
昔は「ガチャ、ガチャ」とハタの音の絶え間ない大宮寺之内を東へ進む。南側に、狭くて見過ごしそうな
路地がある。その昔、大きな灰屋の屋敷址だ、という通称“灰屋路地”の中ほどに、この“足抜き地蔵”
はあった。きちんと雨よけされた祠の中に、他の五体のお地蔵さんとともに町内安全の守り神である。
 
この話には後日談がある。昭和になって島原の楼主が路地にきて「この地蔵さんはもともと島原のも
の。ぜひ引き取りたい」と長屋の人たちと交渉、かなりの金を出すというので「売り渡そう」と決ま
った。が、その夜、長屋のある人に地蔵がのり移って「おれは島原へは帰らん。幾多の女郎を痛めつ
けた悪い地蔵、修行のためにこの路地に来たのじゃ。まだまだ修行が足りんので帰さんでくれ」との
お告げ。この一声に感激した長屋の人たちは売る方針をくつがえし、以後守り神としてたてまつった
、という。
 
近くの住人寄れば「この地蔵伝説には”勧善懲悪”の定説がない。弱者の抵抗があり、それが成功し
ている。庶民が育てた伝説だ」と。聞いている。・・・・供花が絶える事はない矛盾した社会情勢に
庶民伝説の抵抗か??!!

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