〜フランス番外編〜

Bill遠方より来たる

(1999/1/13〜1999/1/16)


1999/1/7 Thu. JST

昨年JMEパリ研修で友達になったオランダのBillより、突然電子メールが入る。曰く、「ラスベガス、台北と廻って、1/13〜1/16に日本に滞在するので会いたい。」というものであった。確かにこっちも久しぶりに会いたいのは山々だが、これきりの情報では計画の立てようが無い。相変わらずアバウトだなぁ。日本のどこに来るのか(恐らく東京だろうが)、何というホテルに滞在するのか、仕事なのか観光なのか、都合がいいのはどの日なのかを返信の電子メールで問い合わせると共に、田中さんにもこの情報をフォワードする。

1999/1/9 Sat. JST

数日待っても返事が来ないので、「こちらは東京から遠く離れた九州であり、ウイークデイに会うなら仕事の都合もつけないとならないので早く返事をくれ。」と催促のメールを送る。

1999/1/10 Sun. JST

やっとBillの奥さんから返事のメールが届く。Billは既にオランダを旅立っており、10日にラスベガスから台北へ移動して日本には13日に到着するとのこと。具体的なことは彼の携帯に電話して聞いてくれと、携帯の電話番号が書き添えてあった。おいおい、国際通話でしかも携帯って一体いくらかかるんだよ。また、我々の会社のしかるべき部門とビジネスミーティングをしたいので、コーディネートしてくれという依頼も書いてあった。まったく簡単に言ってくれるなぁ。

1999/1/11 Mon. JST

昨夜Billの奥さんから得た情報をもとに、何とか出張を作って東京へ行こうと1/13の日帰り東京出張を画策する。実は、たまたま東京の本社と打ち合わせを行うべき懸案事項が3件ほどあって、いずれにせよ出張する必要があったので、この機会にせめて旅費だけは浮かせたかったのである(当然ホテル代は自腹)。わざわざ九州から出て行くんだし。田中さんと相談して、日本歓迎の意味を込めて、1/13夜にBillを迎えに行ってどこか食事に行くことにする。それと並行して、Billの奥さんに具体的到着時刻と滞在先のホテル名を再度問い合わせる。何で一度で答えてくれないんだ。本社へビジネスミーティングの件を問い合わせるが、案の定目的がはっきりしないのと段取りするためには日数が足り無いためにあっさり断られる。当たり前だな。もう少し早く言ってくれればいいのに。

1999/1/12 Tue. JST

Billの奥さんからのメールで、滞在先は品川の「メリディアンパシフィック」、成田到着時刻は1/13の20:00であるという情報が入る。げげ、これでは1/13に行っても意味が無いではないか。急遽本社の関係部署3ヵ所に連絡し、訪問日を一日延ばして1/14にさせていただきたいとお願いする。まったく綱渡り状態だ。Billの奥さんへは、1/14の夜7時にホテルへ迎えに行く件と、ビジネスミーティングは不可能である件を、Billから連絡があった時に伝えてくれるようにメールで依頼する。それにしてもメリディアンパシフィックとはリッチだなぁ。

1999/1/13 Wed. JST

昼間、会社にいた私へフランクと名乗る日本語をしゃべる人物から電話が入り、居丈高に「ビジネスミーティングのアポは取れたか?」と聞いてくる。どうやらPTT Telecomのアジア地区のエージェントで、今回のBillの出張の現地コーディネイトをしている人物らしい。こちらもちょっとむっとして、Billの奥さんに既に返事した通りビジネスミーティングは不可能であること、理由は目的が不明なことと準備日数の不足、それに加えて1/14は私自身が別の仕事があること、翌1/15は日本のナショナルホリデイで会社は休みであることを説明した。するとフランクは突然親しげに「そうなんですよ、私も1/15が休みだと今日知って愕然としたんですよ。」と困ったように言う。Billに劣らずこの人もアバウトだなぁ。だいたい、訪問国のナショナルホリデイを調べることぐらい、海外出張の基本中の基本ではないか。とりあえず、明日の夜にホテルに迎えに行って、あくまでも友人としてプライベートに会う用意があることを告げる。成田着が20:00なので、ホテルにチェックインするのは早くても22:00過ぎだろうと、23:00頃にホテルに電話してみる。フロントで調べてもらった結果、無事チェックインしたようで部屋へ繋いでくれた。長い呼び出し音の後、電話の向こうから懐かしいBillの声が聞こえてくる。お互いに「懐かしいなぁ」と挨拶をし、明日の19:00に田中さんと一緒にホテルに迎えに行くからと念を押し、「話したいことは沢山あるけど明日ゆっくりね。」と言って電話を切った。とりあえずほっと一安心である。

1999/1/14 Thu. JST

7:20発の飛行機に乗るために、朝5:00に起きて空港へ向かう。何せ日帰り出張の上に3件の部署と打ち合わせをしなければならないので超過密スケジュールである。今回も台湾出張でおなじみI君が同行する。今回の出張に関係のある某計画についてずっと彼と一緒に検討していて、T大経済学部卒の彼の知恵が必要な場面も出てくるかもしれない。仕事のほうはどうにか満足できる結果を得られて夕方に彼と分かれ、いつも利用しているサンルート新宿へチェックインして荷物を置き、Billを迎えに品川へ向かう。品川駅へ着いて見ると、3年前とはすっかり様子が変わっている。港南口へ出るための広くて明るい高架式のコンコースが出来ているのである。もう、あの暗くて狭い地下道を人の流れに押し流されながら黙々と歩かなくてよいと思うとほっとする。もっとも、今回の目的地は反対側の高輪口なのであるが。高輪口を出ると右斜め前に「メリディアンパシフィック」はあった。いつもはアンナミラーズのあるプリンスホテルのほうについ目が行ってしまうので、しげしげと見るのは初めてだが、見れば見るほど高そうなホテルである。「そう言えばここの信号待ちでRINGの最初の死亡事件が起きたんだよなぁ」等と思いながら歩道橋を渡りホテルへ入る。ロビーでしばらく待っていると程なく田中さんが現れ、再会を喜び合う。「それにしても、出張に引っ掛けてわざわざ九州から出てくるなんてすごい根性ですねぇ」と、いたく感動しておられた。2人でしばらく待つが、7時15分を過ぎてもBillは降りてこない。フロントで呼び出してもらうと、電話で話中だということで少し時間を置いてから再度かけて見ますとのこと。仕方ないので少し離れた所の椅子に座って待っていたら、先ほどのフロントの女性がわざわざ我々の姿を探してやって来て、「連絡が取れましてこれから降りてこられるそうです。」と告げる。流石高級ホテル、サービスが行き届いているなぁ。それから程なくBillは降りてきた。1年前以上経つが少しも変わっていない。握手して再会を喜び合い、どこかで夕食を摂ろうと相談する。折角なら日本らしいものを食べさせたいと考え、前もって「るるぶ」で調べていた近くの地下鉄高輪台駅そばの天麩羅屋へ連れて行くことにする。近いので歩いて行こうということになって歩き出したが、ふと見るとこの寒空にBillはジャケットのみである。コートを取ってきたほうがいいんじゃないのと聞くと、何と慌てて出てきたのでコートを家に忘れてきたというのだ。相変わらずだなぁ。10分くらいで目的の場所へ着くが、いくら探しても天麩羅屋が無い。どうやらつぶれてしまったらしい。3年も前の「るるぶ」を信じたのが間違いであった。周囲によさそうな店も無いので、一旦品川へ戻って作戦を練り直すことにするが、流石にBillが可哀相なので帰りは地下鉄を利用する。品川駅まで戻り、どこかよそへ行くのも面倒なので、駅前の小さな居酒屋がぎっしり詰まっている2階建ての食堂街に入って適当な店を探すがどこも満員である。結局、4人がけのテーブルが二つしかない、狭くて小汚い居酒屋になってしまった。とりあえずビールで乾杯し、刺身、から揚げ、枝豆などを頼んだ後に、やっぱり物足りないので田中さんが海鮮鍋を頼んだ。これは、魚の切り身や海老やホタテや野菜がたっぷり入っていて結構おいしく、Billにも満足してもらえたようであった。別れた後のことや、今どんな仕事をしているかなどの話で盛りあがる。ふと気になって、まぁラスベガスはCES(Comsumer Electronics Show)だろうけど、台湾と日本には何しに来たんだと聞くと、台湾はComputexで日本では何社かの企業と商談をするためだと答えた。本当は今夜も商談先から銀座へ招待されていたのだが、友人である筆者達を優先してそちらは断ったということである。いやぁ、ありがたいなぁ。それにしても我々からはちょっと抜けてる(失礼)ように見えるBillでも、ビジネスの世界では結構やり手なんだなぁと感じた。実はBillは昨年秋に結婚しており、その際はヨーロッパに居るJMEメンバは同窓会も兼ねてお祝いに駆け付けたのだが、日本の我々は都合で行けなかった。そこで家内が結婚祝にと、傘を持った小さな女の子の博多人形を持たせてくれたので、この席上でプレゼントするといたく喜んでくれた。開けてみると、チャンと外国人向けに英語の解説も付いている。良かった良かった。

<博多人形をもらって喜ぶBill>

話がすっかり盛りあがり3時間くらいその店に居たが、おなかも一杯になったので勘定を払ってその店を出る。海鮮鍋が効いたのか、田中さんと2人で割り勘して\8,000/人くらいになってしまったが、これはまぁ仕方ないか。久しぶりに東京で飲んでみるとやっぱり高いなぁと強く感じる。いよいよ別れることになりBillに明日の予定を聞くと、どこかへコートとPCグッズを買いに行くつもりだという。心配なので、私が付き添って両方の目的が果たせる新宿界隈を案内することを申し出てその夜は別れた。

1999/1/15 Fri. JST

朝Billを迎えに再び品川へ向かう。ふと気付くと、山手線の中や駅で何人もの着物姿の若い女性を見かける。あぁそうか、今日は成人の日なんだと気付いた。すっかり縁遠くなってしまったなぁ。ホテルでBillに会って「今日は20歳になった若者達を祝うためのナショナルホリデイで、着物姿の若い女性を沢山見る事ができるよ」と告げると珍しそうにしていた。ホテルの前で記念撮影をして、品川駅から再び山手線で新宿へ向かう。

<ホテル前の記念撮影>

いくつかPCグッズが買いたいというので、ビックカメラ、さくらや、ヨドバシ、ソフマップ等おなじみの店を連れて廻る。台北でSHARP製の銀色で薄型のナイスなノートPCを買ったので、まずそのためのバッグが欲しいという。色々ヒアリングしたり店頭で実物を確認させた結果、どうやらPJ-1らしいのでB5サブノート用のバッグを見せるがどうも気に入ったものが無いようだ。その上、A4サイズかもしれないと言い出す。どうもA4とB5の区別もよく分かっていないようだ。また、「デジカメは買ったかい?」と聞くと結局買っていないというので、デジカメ売り場もだいぶ連れて廻ったが、こちらも高いと言ってあまり興味を示さなかった。あれだけ私のデジカメを買い取りたいと言っていたのに、あの頃に比べるとずっと性能も上がってコストパフォーマンスも良くなっているのに良く分からん。結局何軒ものPCショップを巡った挙句、バッグもデジカメも買わずに、買ったのはPJ-1に合わせたメタリックカラーのUSBマウスとマウスパッドだけだった。相変わらず買い物には慎重だなぁ。そうこうしているうちにすっかり昼になってしまったので、どこかで昼食を摂る事にする。「お世話になったお礼に昼食をご馳走したい、例によってどうせ会社が出すんだから気にしないでくれ」と彼が言うので、ありがたくご馳走になることにする。但しカード払いなのでカードの使える店が条件である。デパートのレストランなら間違い無かろうと、まず高島屋タイムズスクエアの店を見て廻るが日曜日ということもあってどこも長蛇の列である。是非Billに食べさせたかった中華点心の店は特に列が長い。次に三越南館のレストランへ行ってみる。こちらもエレベーターで上がってみると長蛇の列で大混雑しており、一瞬途方に暮れるが、実は同じフロアの催し物会場でやっていた「ミッフィー」展に入る行列であった。それにしても、入場制限が出るほどのすごい混雑である。Billもミッフィーの絵は知っていたが、この混雑を見てどう思っただろうか。とりあえずレストランは空いていたので早速入り、メニューを見てパエリアを注文する。これならBillにも食べやすいだろうが、折角なら日本らしいものを食べさせてあげたかったなぁ。ちょっと量が足りないので、2人とも追加でミルフィーユをオーダーする。どうせ会社が出すんだし(^^ゞ 食事をしながら、Billの求めに応じて日本語を色々と教える。これが後にちょっとしたどたばたの原因になってしまうのだが。早速その場習った日本語を駆使して、Billが「スミマセ〜ン」と追加オーダーをする。デザートを平らげた後に、ウエイトレスさんにお願いして二人の記念写真を撮ってもらった。

<レストランでの記念写真>

午後は、コートを買いたいというBillに付き合って、三越と高島屋、東急ハンズを見て廻る。ここで、ちょっと筆者が油断していると、さっき教えたばかりの日本語を使おうと、案内嬢や店員さんを捕まえては、「ハジメマシテ」と言って廻っているのには参った。言われたほうも困ったような顔をして微笑んでいるし、こっちはこっちで「すいませんねぇ、日本語を教えたばかりで使いたがるんですよ」と、火消しにおおわらわであった。肝心のコートは、ブランド物のコーナーばかり見ては「高い」と言っているので、少しカジュアルな感じの売り場へ連れて行って\2万〜\3万くらいの手ごろなものを勧めるが、安いのでデザインが気に入らなかったり、逆に\3万くらいでも高いと言い、散々まわった挙句に結局買わずじまいだった。そんなこんなで時間が来てしまったので、再びBillと硬い握手を交わして別れた。相変わらず色々振り回されたけれど、やっぱり会いに来て良かった。満足感とまたいつかどこかで会いたいという期待を抱きながら、羽田から飛行機で帰ったのであった。

Fin.


Written by Y1K