はじめに
最近、ネット上や身近な所で、「海外に行ってホテルから日本にメールを送りたいんだけどどうすればいいの?」という質問を受けることが多くなりました。そこで、筆者がこれまで培ってきたノウハウ(ってほどでもないですが)を下記に公開します。海外で迷える日本人に、少しでもお役に立てば幸いです。なお、前提としてノートPCやWindowsCE機、ZAURUS等の、アナログモデム内蔵あるいはアナログモデムカードの使用できる携帯端末での使用を条件としてお話します。携帯電話やLAN経由のアクセスは対象外です。
警告
一部の例外を除き、日本国内のPCメーカーやモデムのメーカーは、海外での使用を保証対象外としています。従って下記に紹介する方法を試された場合、使用環境によってはあなたのモデムやPCを破損させたり、あるいは最悪の場合現地通信設備に損傷を与えて、あなた個人が弁償の責を負う可能性もあります。筆者は下記に紹介する方法によりあなたがいかなる損害を被ろうとも、一切の補償の責は負いません。あくまでも自己責任にて判断/実行してください。
渡航前に準備するもの(*は必須のもの)
100V〜240V対応のノートPC*
「200Vの国では変圧器を使えばいいじゃん」と言われる向きがあるかもしれません。しかし、一般に旅行店などで売られている変圧器は、あくまでも構造の単純な通常の家電を使用することを前提にしているので、変換後の電圧変動の幅がPC等の精密電子機器の許容範囲を越えることや、悪影響のあるノイズを通してしまうことがあります。\8,000円以下程度の安い変圧器ほどその傾向が顕著なのですが、逆に高性能で高価な変圧器はその分サイズも大きく重量も思いので、PCをもう一台持って行くくらいの負担になってしまいます。また、安くて小型の変圧器は、出力できる定格電流が小さく、一定以上の電流が流れようとすると、発熱のためサーモスタットが働いて電流をカットしてしまうものがあります。筆者は以前、ノートPCと外付けCD-ROMドライブと、ニッケル水素電池の充電器を蛸足で同じ変圧器から取ったら電流オーバーで使えなかったことがあります。だったら最初から、電源電圧100V〜240Vのレンジに対応したノートPC(厳密にはACアダプタが対応)を持っていきましょう。何?持っていない! 海外に行くんだったらこの際買い換えましょう。筆者の知っている該当機種は、IBMのThink Padシリーズ、ToshibaのDynabookシリーズ、SONYのVAIOシリーズなどです。筆者の使用機はVAIO-505GXですが、筆者自身は上記どの会社とも特別な関係にあるわけではないので念のため。なお、ホテルによってはPC専用電源を机の横に用意している所もあります。
<PC専用電源>
(99/8/12追記)先日電気屋さんへ行ったら、「精密電子機器(ノートパソコン、ワープロ)用変圧器」というのが、\8,000円くらいで売ってありました。恐らく上記に述べたような電圧変動やノイズを極力低減してあるのだと思います。筆者は必要無いので買いませんでしたが、世の中進歩しているんですね。
電源ソケット変換プラグ(3個セットで\1,000円前後)*
電圧があっていても、刺し込みプラグの形が違っていたら電気は取れません。国によって、A(北米、台湾、韓国、日本)、B・B3(イギリス、イギリスの旧植民地)、BF(イギリス、イギリスの旧植民地:ヒューズ入り)、C・SE(ヨーロッパ全域)、O(オセアニア、中国)のような種類があります。訪問先の国毎に違うプラグを用意する必要がありますが、同じ国でもホテルによって違うタイプを使っていることもあるので油断できません。筆者の経験では、上海のホテルで同じ部屋の中にO型とA型が混在していることもありました。結局行って見るまで分からないので一通りの種類の揃ったセットを持ち歩く必要があるのですが、最近では1つで色々なタイプのプラグに対応できる変形プラグが\2,000円〜\3,000円くらいで売られています。確か「サスコム」とか言う名前だったと思います。
モデムセーバー(\3,000円前後)*
通常の家庭の電話は外線に直接繋がっている2線式ですが、ホテルなどの電話はPBXという小型の交換機に接続されているケースが殆どで、こちらは4線式が多いです。大きな事務所などで使っているビジネスフォンもこれに当たります。内線通話や子番号指定呼び出しなどの制御とそのための電圧供給をするために線が2本余分にあるのです。問題なのはどの線がどの役割というのが、勿論家庭向けの電話とも違うし、PBXのメーカーごとにも微妙に違うので下手に一般アナログ回線用のモデムを繋ぐと、電圧や極性の相違でショートしてモデムが壊れてしまうことがあります。そうならないよう、事前に極性をチェックするために「モデムセーバー」という簡易チェッカーが売られています。筆者の使用しているIBM製のモデムセーバーは、3種類のランプがついていて、それぞれの点灯によって、緑:モデムを接続しても大丈夫、黄色:極性が反転している(アナログモデムでの通信には支障無し)、赤:電圧オーバー(モデムが壊れる危険性あり)ということをチェックできます。どのランプも点灯しない場合はピンのアサインが異なるので当然使用できません。最近は極性を反転できる機種も売られています。
モデムが壊れるだけならまだしも、PBXのほうのパッケージまでもショートさせて煙を吐かせてしまった方もいらっしゃいます。下手すると\数百万円単位の弁償モノです。というわけで、得体の知れないポートにはむやみにモデムを接続せず、必ずモデムセーバーでチェックする癖をつけましょう。\3,000円出してモデムセーバーを買うのと、\20,000もするカードモデムや高価なPC本体から煙を吹かせる(当然修理補償対象外)のと、どちらを選びますか? 最近はモバイルブームなので、気の利いたPCショップなら置いてありますし、近所に無ければ I-TWO Mobile専科(http://www.i-two.com/)等の通販で購入できます。
<筆者の使っているIBMのモデムセーバー>
<モジュラープラグ:左が2芯、右が4芯>
モジュラーケーブル(\1,000円前後)*
これが無ければ通信できません。モデムカードだけ持って行ってケーブルが無くて困ったと言う経験はありませんか?(筆者は何回かあります(^^ゞ)最近はリール式で簡単に巻きとって持ち運べる便利なものが、日本だと\1,000円くらいで販売されています。アメリカや台湾へ行かれる方は現地調達のほうが安くつきます。
<台北光華商場で購入したモジュラーケーブル(\600円)>
グローバル対応のモデムカード
厳密に言うと、あなたの持っているモデムカードやモデム内蔵PCは、海外に持っていった場合には回線に繋ぐことは出来ません。勿論、技術的には問題無いのですが、これらは「通信端末」になるので、当該国の管轄機関(郵政省など)による通信端末としての「認定」が必要だからです。お手元にモデムがあったら裏を見てみてください。ちゃんと「認定番号」が書いてあるはずです。これは簡単に言うと、その国のネットワークに繋ぐ為の技術的基準をきちんと満たしていると言うお墨付きです。つまり、認定されていない「通信端末」を持ち込んで、勝手にその国のネットワークに繋ぐのは違法行為になるのです。筆者の知っている例外は、TDK、3com、CyQveのグローバルモデムです。これは数十カ国で機器認定を受けていて、それぞれの国の認定シールが同封されていますので安心ですが、その分お値段も高くなっています(CyQveのモデムはアメリカ、台湾など数カ国のみなのでお安くなっています)。もっとも、こんな厳密なことを言わなくても普段使っているモデムをそのまま海外でも使っている方が殆ど(筆者もそう)だと思いますが、一応ヤバイ行為なのだと言うことは認識しておいたほうがよいと思います。特に政情の悪い国では何でも逮捕の口実にされますので、弱みを見せないことが肝要です。
<モデムについている認定番号と認定マーク>
<3Comのモデムに添付されている各国の認定シール>
音響カプラー(\15,000円〜\20,000円)
接続できるジャックが無くて電話機しかないときに、これがあると便利です。日本でも、電話回線がまだジャックではなくねじ止め式のローゼット(つまり通信端末自由化前)の頃には皆この方法でデータ通信していました。電話の受話器の口と耳の部分に、同じような受話器みたいな形でスピーカーとマイクが逆になっているこいつをベロクロテープで固定して、ピーヒャラ音をやり取りしながら通信します。当然品質が落ちるので、通信速度は遅くなりますが、現在では28,800bpsまで対応したものが売られています。9Vの乾電池で動作します。
<音響カプラー>
訪問先国の規格のモジュラープラグ(\1,000円)
ネット時代のこのご時世、ビジネスマンが泊まるような大半のホテルは、標準化されたRJ-11のモジュラーポートを備えていますが、たまに一般家庭や古いビルなどでは相変わらずその国独自のプラグでないと接続できない所があります。しかし、ホテルからだけ通信するのであればそういったケースはまれですし、日本で買うとたかがプラグなのに1個\1,000円もします。従って、現地へ行ってみて必要になったら、現地の電気屋さんで買うのがベターだと思います。
<フランスのモジュラープラグ>
ローミング可能なISPのアカウントとローミングの申し込み
海外の滞在先から、いつも使っている日本のISP(インターネットサービスプロバイダのAP(アクセスポイント)へ直接電話を掛けていたら、国際電話なのでべらぼうな金額になってしまいます。そこで大手ISP各社は、海外のISPと提携して現地のISPのAPへダイアルアップすると、そのISPのネットワークを経由して日本のISPのネットへ乗り入れられるようなサービスを提供しています。これがローミングというサービスです。これらISP間のローミングの仲介を専門に行う元締めみたいな会社もあります。大手ではGRICなどが有名です。勿論付加料金はかかりますが、国際電話で繋ぐのに比べたらはるかに安く済みます。ISPを選ぶときは値段の安さだけにつられずに、こういったサービスも提供しているかどうかを確認しましょう。海外出張が決まったら、ISPにローミングの申し込みをして出かけます。通常、月単位で利用契約する所が多いようです。
ローミングに使用する現地のAPの電話番号
ローミングする際にアクセスする現地ISPのAP電話番号を事前に確認しておきます。通常は日本でISPに申請した段階でAPの電話番号が通知されてくるか、あるいは電話番号リストをあらかじめ公開しているISPもあります。
ハードウェア編
ネット時代のこのご時世ですから、ビジネスマンの良く泊まる気の利いたホテルなら、室内の電話機本体の側面に「Data Port」という表記と共に、RJ-11のポートが付いている事が多くなってきました。電話機の下部側にモデムを数珠繋ぎにすることによって、親子電話の様に電話機経由で回線を利用できます。筆者の経験では、ニュージャージー、ニューヨーク、サンノゼ、ハワイ、パリ、台北のホテルでは、電話機に「Data Port」がついていました。逆に無かったのは、パリで泊まった2軒目のホテルと、上海のホテルです。
ホテルの電話に「Data Port」がある場合
「Data Port」とモデムをモジュラーケーブルで接続するだけでOKです。心配ならば接続前に「Data Port」にモデムセーバーを刺し込んでチェックしておけば万全です。原理は親子電話なので、通信中に受話器を上げたりするとノイズが入って切断したりしますので、通信中は電話機はいじらない様にしましょう。
ホテルの電話に「Data Port」が無い場合
電話機のコードを根元の方までたどってみます。コードが机の裏から来ていたり、壁から直に生えている場合は、素直にあきらめて音響カプラーを利用しましょう。運良く壁側がRJ-11のジャック式になっている場合は、念のためモデムセーバーを刺し込んで極性と電圧を確認します。OKであればモデムを繋いで利用できる可能性大ですが、NGの場合はあきらめましょう。壁の端子カバーをはずして端子を剥き出しにし、順次テスターでチェックしてワニ口クリップで該当する端子とモデムの端子を直接接続するという荒業もありますが、危険ですのでお勧めしません(じゃぁ書くなよ(^^ゞ)。
<端子とモデムを直接ワニ口で接続>
ソフトウェア編
日本のAPへ直接ダイアルアップする場合
モデムの設定で、接続する電話番号を次の様に変更します。(変更方法はそれぞれのOSで異なりますので、Helpを参照してください)なお、桁数は便宜的に3桁と7桁を使用していますが、国やホテルによって異なります。
EEE - III - 81 - LLL - AAAAAAA
- EEE : ホテル指定の外線発信番号
- III : その国からの国際発信番号(日本発なら001や0061など)
- 81 : 日本の国番号(各国の国番号はここにあります)
- LLL : 市外局番からゼロを省いた数字(東京の場合は 3 )
- AAAAAAA : AP(アクセスポイント)の電話番号
(例)中国の、外線発信番号「2」のホテルから、国際発信番号「002」で、東京のAP(03-123-4567)へ接続する場合
2 - 002 - 81 - 3 - 1234567
後は通常通りダイアルアップ接続を実行すれば、日本のAPへ直接ダイアルして接続されます。ホテルによっては、デフォルトで国際電話発信を規制してある場合がありますので、その時はフロントに言って規制を解除してもらいます(中国などがそう)。
ローミングサービスを利用する場合
あらかじめ調べた訪問先のアクセスポイントに外線発信して接続し、現地ISP経由で自分の契約プロバイダへログインします。DNSサーバーのアドレスは、それぞれのプロバイダ指定のものに変更しておく必要があります。プロバイダによっては、ローミング接続をサポートするソフトウェアを提供している場合がありますので、こういったものを積極的に利用しましょう。
うまく接続できない場合は
国際通話できる回線かどうかを確認
国やホテルによっては、デフォルトでは国際通話を規制している場合があります。このような場合は、申し出て初めて国際発信番号を送出して国際電話が掛けられるようになります。これに該当するかどうかは、手動で国際電話を掛けてみれば簡単に分かります。手動で掛けてもビジートーンが返ってきたり、自動音声で何か言っていて国際通話が出来ない場合は、国際通話が規制されているということです。
外線発信番号と国番号を確認
外線発信番号や国番号が間違っていないか、接続のときに番号が全て正しく送出されているかを確認します。Windows系のOSの場合、「発信元」の設定によって国番号や市外局番を付けたり付けなかったりするので、この辺をきちんと設定することが重要です。送出確認は、ダイアルアップのソフトによっては画面に発呼番号が表示されますのでそれを目視で確認しても良いですし、原始的な方法ですが、スピーカーをONにしてモデムがダイアルする音を聞いて確認する方法もあります。
「キャリアを検出してからダイアルする」の機能をOffにしてみる
海外の回線は日本の電話回線とキャリア音が微妙に異なります。日本では「プー」という感じですが、例えばアメリカは「ホワァ〜ン」といった感じです。感度のシビアなモデムは、このキャリア音が違うためにキャリアが来ていないと勘違いして、電気的には繋がっているのにダイアル番号を送出してくれないものもあります。その場合は、モデムの設定で「キャリアを検出してからダイアルする」の機能をOffにしてみます。こうするとキャリア音が来ていようがいまいが強制的にダイアルしてくれます。
通信速度を落としてみる
国によっては回線品質の悪い所や、ホテルによっても構内ケーブルの老朽化や電力ケーブルの干渉などによって、著しく回線品質の悪い場合があります。むしろ日本の様に品質の良い国はまれといっても良いでしょう。最初からいきなり56kで接続しようとせずに、とりあえず2,400bpsや9,600bpsあたりに速度を落として試してみると繋がることがしばしばあります。
その他注意事項
通信と直接関係はありませんが、海外旅行へPCやPDAをお供させる際の注意事項を下記に述べます。
空港の手荷物検査に注意
海外の空港で、PCやPDAを手荷物として機内持込(普通は貨物室に預けたりしませんよね(^^ゞ)しようとすると、搭乗前の手荷物検査の時に「電源を入れろ」と命じられることがあります。これはテロを警戒して、PCなどに偽装した爆弾や凶器を機内に持ちこむのを防ぐための様です。これに引っかかったという話は良く聞きますが、筆者は過去に一度だけ、NEWARK空港で呼びとめられました。その時はZAURUSだったので、すぐに画面タッチして電源を入れて事無きを得たのですが、出発間際などでノートPCを立ち上げなければならないとなると結構焦ると思います。ましてバッテリー切れで立ちあがらなかったりすると、身に覚えのない疑いがかかったりして。そこで、搭乗前にはあらかじめホテルなどでフル充電して、サスペンド状態にしておけば、慌てずにさっと立ち上げ(正確にはレジュームですが)てさくさく対応することが出来ます。筆者のVAIOはしばしばサスペンド復帰時に固まるので、これはこれで困り物ですが。ところで、最近流行りのマグネシウム合金製のボディーはX線を通すのかな。
汚職官僚に注意
東南アジア某国の空港で、ノートPCを持ちこもうとしたら、税関職員に法外な関税を要求されたという話を聞きます。商品じゃなくてパーソナルユースだと主張しても聞き入れてくれないそうです。あくまでも拒否していると別室に連れて行かれていつまでも開放してくれず、約束の時間が迫ってきたのでやむなく払ったという話も聞きますが、交渉次第で1/10くらいまで値切ったという方もいらっしゃいます。どうも、正規には払う必要のないものを、税関職員が小遣い稼ぎで要求しているらしいです。特に日本人は、海外へ行くと勝手が分からず相手の言いなりになる傾向が強いので、カモにされているようです。身に危険が迫るようだったら払わざるを得ませんが、交渉次第で値切れることを知っておいて、最初から相手の言いなりの額を払わない様にしましょう。でなければ、図に乗って日本人を見ると吹っかけてくる悪い慣習がいつまでも続いてしまいます。
以上、筆者の経験をベースに思いつくままに記述してみました。まだ勉強不足の点や、書き漏らしていることもあるかと思います。今後随時加筆して内容を充実させて行きたいと考えております。お気づきの点や、あの国ではこんな状況だったなどの情報がありましたら、下記までお寄せ頂ければ幸いです。
では、幸運を祈ります。あくまでも自己責任でがんばってください!!
Written by Y1K