山域 鈴鹿

 
私の学生時代、名大ワンダーフォーゲル部で初めて 鈴鹿全山縦走を達成しました。 これは、JR関西線の油日駅から、鈴鹿最南端の油日岳に入り、滋賀県と、三重県・岐阜県の県境稜線を北上し、鈴鹿最北端の霊仙山に 至り、最後はJR東海道線の柏原駅まで縦走するというものです。南部と北部は、縦走路が整備されていない部分 が多く、猛烈なブッシュとの戦いを余儀なくされます。

この全山縦走は、過去2、3回試みられていますが、いずれも途中で断念。 今回は、私が発起し、サブリーダーとしてブッシュへの切込み隊長を勤めました。過去最強のメンバーに恵まれ、なんとか最後の 霊仙山に辿り着いた時は感無量。体力の限界まで追い込まれたため、さすがに当初予定していた入道山、綿向山、烏帽子岳は県境稜線 からはずれており、リーダー判断によりカットした。以下、17日間に亘る当時の山行記録です。(部報の道祖神14号より)


3月4、5日 デポ合宿

過去の失敗の分析から、このハードな縦走を成功させるためには、途中に食料をデポしておき、荷物を軽量化することが 必要と判断した。そこで、全区間を南部・中部・北部の3つに区切り、野登山と茨川小屋に食料をデポすることにした。 縦走開始直前の3月4、5日に、パーティーを2つに分け、デポ合宿を実施。野登隊は40kgを越える荷物と倒木地帯に苦しみ、 茨川隊は1mを越す積雪に悩まされた。


3月9日 名古屋駅⇒JR油日駅⇒林道終点⇒油日岳⇒坂下峠

朝8:39名古屋駅を出発。朝早くにもかかわらず、25名の方々が差し入れと見送りに来てくださった。どうもありがとうございました。JR関西線の油日駅から林道終点までタクシーで入る。いよいよ鈴鹿全山縦走が始まった。この日が私の二十歳の誕生日であった。


3月10日 坂下峠⇒高畑山⇒鈴鹿峠⇒日没露営

坂下峠を出発して1時間半で高畑山に着く。遥か彼方に鎌ヶ岳の雄姿が・・。ここから少し行くとガレ場が現れ、巻こうとしたが 失敗。結局、重いザックをロープで降ろし、空荷で通過することにしたが、合計4時間近くのタイムロスとなった。12時半頃、 ようやく箱根と並んで東海道の難所として有名な鈴鹿峠に辿り着いた。この日は日没のため当初の予定の安楽越まで行けず、途中で ビバーク。前途多難を思わせた。


3月11日 露営地⇒安楽越⇒仙ヶ岳

安楽越に着くと、水の補給のため、3km西に下ったところにある山女原へ往復。ここから仙ヶ岳までは、行く手を阻むブッシュに 悩まされる。融雪期のブッシュは、半分起き上がっていてX字状になっており最悪である。


3月12日 仙ヶ岳⇒野登山⇒仙ヶ岳⇒小岐須峠⇒水沢峠

今日は、まずデポ物資を取りに野登山往復した後、水沢峠まで。


3月13日 休養日 入道山往復中止

予定外の休養日となる。全員疲労の極致。横になっても腰が痛む・・。


3月14日 水沢峠⇒鎌ヶ岳⇒武平峠


3月15日 武平峠⇒沢谷分岐⇒クラ谷

今日は、県境稜線を離れて雨乞岳を目指すも、雨でクラ谷増水し渡渉不能で断念。寒さと疲労のため意気上がらず、無言の 衆となる。


3月16日 クラ谷⇒雨乞岳⇒武平峠

あまりのハードさに、雨乞岳以西カット、雨乞岳往復。また武平峠〜茨川を2日→3日で行くことに変更。これを留守本部に 連絡するために、リーダーと二人で武平峠から湯ノ山温泉を往復する。ついでに缶ビールを買って帰ってきた。


3月17日 武平峠⇒御在所岳⇒国見岳⇒羽鳥峰峠

3月18日 羽鳥峰峠⇒釈迦ヶ岳⇒八風峠⇒石榑峠


3月19日 石榑峠⇒竜ヶ岳⇒治田峠⇒茨川小屋

もう早く小屋で休みたいという欲求だけで辿り着く。昼過ぎにOBの方が新鮮な野菜、アルコールなどの差し入れを背負って 現れ、一同仏の姿を崇める如く感激。ひたすら寝る。腰の痛みは引かない。野菜がやけにうまく、むさぼり食う。

3月20日 茨川小屋で休養。もうこのまま寝ていたい。動くのも億劫。

3月21日 雨のため茨川小屋停滞。烏帽子岳往復断念。ガソリン補給のため新町往復。


3月22日 茨川小屋⇒治田峠⇒藤原岳⇒白瀬峠(かなりの積雪)⇒御池岳

3月23日 御池岳⇒鈴北岳⇒鞍掛峠⇒三国岳⇒五僧

3月24日 五僧⇒794mピーク⇒霊仙山小屋

いよいよ最後の霊仙山近しということで、前日から心なしか足が軽くなる。794mピークからの猛烈な木のブッシュを漕ぐこと 3時間、一本で小屋まで行く。


3月25日 小屋⇒霊仙山⇒JR柏原駅

ついに、鈴鹿最北端の霊仙山着、全山縦走達成。それにしても、これほどの肉体的・精神的疲労を味わったのは初めてで、 そのためよくルートを踏み外しメンバーに迷惑をかけてしまった。この時期のブッシュは、雪の重みで道を塞ぐようになっているので、 全く始末が悪い。特に鈴鹿南部においてひどく、その疲労が最後まで残った。 それでも完走できたのは、やはり超人集団だったからだろう。

思えば私の二十歳の青春は、この鈴鹿全山縦走から始まったのだ。失恋、そして夏山合宿での事故・・。今、落ち着いて振り返って みて、苦しい瞬間にこそ最も生きていることを実感できるのだと思う。心臓の鼓動と肺の躍動、心の苦悩と感情の動き。 鈴鹿にもロマンはあるのだ。ただ、それを感じる心と探そうとする気がないだけだ。 私は、その夢を感じる心を大切にして生きてゆきたい。

山名 鈴鹿全山
山行日 82年 3月 9日〜
82年 3月25日
メンバー 6名
 
行動記録
3/9 晴
  8:39 JR名古屋駅発
 11:52 林道終点発
 12:29 油日岳
 15:00 那須ヶ原山
 17:06 坂下峠着

3/10 晴
  6:25 坂下峠発
  7:57 高畑山
  8:40 ガレ
 13:09 鈴鹿峠
 17:02 日没露営

3/11 快晴
  6:37 露営地発
  8:19 安楽越
 12:52 696mp
 18:00 仙ヶ岳着

3/12 霧
  6:56 仙ヶ岳発
  7:53 野登山
 14:20 小岐須峠
 16:51 水沢峠着

3/13 快晴
  -:-- 休養日

3/14 曇
  7:22 水沢峠発
 10:37 鎌ヶ岳
 12:10 武平峠着

3/15 雨
  7:00 武平峠発
  8:35 沢谷分岐
  9:00 クラ谷着

3/16 晴
  8:22 クラ谷発
 10:06 雨乞岳
 14:10 武平峠着

3/17 晴
  7:28 武平峠発
  8:45 御在所岳
 11:27 国見岳
 15:23 羽鳥峰峠着

3/18 霧
  9:01 羽鳥峰峠発
 10:06 釈迦ヶ岳
 10:06 八風峠
 14:10 石榑峠着

3/19 晴
  6:58 石榑峠発
  8:02 竜ヶ岳
 10:27 治田峠
 11:00 茨川小屋着

3/20、21 雨
  -:-- 休養日

3/22 快晴
  6:56 茨川小屋発
 10:05 藤原岳
 13:59 御池岳着

3/23 快晴
  5:52 御池岳発
  6:32 鈴北岳
 10:20 三国岳
 15:30 五僧着

3/24 晴→曇
  7:18 五僧発
 11:45 794mp
 14:52 霊仙山小屋着

3/25 雪
  8:15 小屋発
  8:40 霊仙山
 11:05 柏原駅着
   


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