渓に泊まる



 私の渓流釣りが好きな理由のひとつに渓に泊まることがある。
泊まりをするような場所はたいてい源流になる。
源流とは単に魚が釣れる場所というだけのものではない。
そこは全く手付かずの自然が残っており、美しい水が豊富に流れているのである。
喉が渇けば川の水がそのまま飲めるし、米を炊くこともできる。
周りは森だから薪もたくさんあり、火をおこせば釣った魚も焼いて食べることができる。
要するにそこに泊まって生活することが可能なのである。
本当にすばらしい場所だと思っている。

 渓で過ごす時は夜が一番楽しいと感じる。
夜は星空が最高で、東京では考えられないような星を見ることができる。
そのもとでたき火にあたりながら釣った魚で一杯やるひとときがたまらなく好きなのである。
夜を共にする人がいれば、釣りの話題で盛り上がり話はいつまでもつきない。
遅くまでおきていても、さわいでもキャンプ場のように周りに気をつかうことはない。
そして、いつしか眠りにつくのである。

 朝起きたら目覚めのコーヒーがまたうまい。
快晴であれば楽しい一日は約束されたようなものである。
ゆっくりと朝食をとり、好きな時に釣りに出かける。
前日に苦労して歩いていれば、もう目の前から釣り始められるのである。
朝一の入渓を競ったりする必要はないのだ。
但し、他のパーティーがいれば話は変わってくるが...

 釣り終わって帰ってくる場所は自分のテントになる。
2泊目ぐらいになると何だか自分の家のような気がしてくるから不思議である。
 単独でもそれなりに楽しいが、他にメンバーがいればなおいい。
場所が場所だけに、それぞれができることを協力して助け合うようになるのである。
私はこういう場所にくると人はみなやさしくなるような気がする。
人のあたたかさを感じることができるのである。

 単に釣りのベースとして、渓で自炊したり、酒を飲んだり、寝たりするだけではあるが、
このように自然の中で過ごすことは私の釣りにかかせないのである。
 こういう所で魚を釣りながら過ごしていると、せわしい日常のことなどすっかり忘れてしまう。
自然に浸ることで自分の体が浄化されていくような気さえしてくるのである。
これはキャンプなどを趣味にしている人もいるから、そういう人には分かってもらえると思う。
ただ、管理された場所ではなくそこは本当に大自然の真っ只中なのである。
だからこそ、そこにおもしろさがあるのだと思っている。
 野営の準備をして行かなければならない所に魚がいるからやっているのは確かだが、
このように渓で過ごすのも、やはり私の渓流釣りの楽しみなのである。



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