昔の釣りと今の釣り



 私は長く渓流釣りをやっているが、それを人にあまり話をしたことがなかった。
何故かと言うと、まだ渓流釣りがあまり有名ではなかったからである。
知り合いなどに渓流の話しをしてもピンとくる人は誰もいなかったのである。
 しかし、次第に釣りはブームになっていった。
渓流釣りに関しても多くの雑誌が出てきて、テレビなどでも紹介されるようになった。
特にフライやルアーの関係はすさまじく、町の中にも専門店ができてきた。
渓流から遠い都会の人でも、さすがに渓流釣りの存在にも気付くようになったのである。

 そんなことで私も釣りをやっていることを少しずつ人に話すようになった。
そうなると話を聞いて教えてほしいという人がでてきたのである。
この人達には釣り関係の装備や仕掛けの作り方を教え、一緒に釣りに出かけたりした。
 私には自信があったのである。
一度でも大自然の中で釣りをやれば、必ず渓流釣りのすばらしさを分かってくれると思っていた。
 しかし、私の釣りはあまりうけが良くなかった。
車止めから1時間、2時間と平気で歩く作業を理解してもらえなかったのである。
魚が釣れればそれなりに楽しんでくれているようだが、
「もっと楽に釣れる所に案内してほしい」というのが一般的な回答だった。
私に同行してくる回数も年に2、3回ぐらいである。
 私としてはこのすばらしい世界を知ってもらいたいと思っている。
しかし、これから始めようとしている人達は私のやっているような釣りは望んでいないみたいなのである。

 もっと楽に釣るとなると放流の魚を狙うことになるが、これについてはあまり自信が無い。
この魚達を釣るには、それなりの技術がいるからである。
釣れないことはないのだが、安定した釣果を望むのならよほどうまくないとだめなのである。
 私は渓流釣りの知識として雑誌などを読んでいるので、最近の釣りがどういう物か知っている。
ただ、私はそれを実践したことはないのである。
釣ることを研究するのでなく、釣れる場所ばかり探していたからだ。
仕掛けにしても餌にしても釣りを始めた頃と何ら変わっていない。
今でも0.6号の太仕掛けで最先端の釣り場に入り込んでいるのである。

 上流部で人に会った時はエサと毛バリのどちらでやるかぐらいしか聞かれることはない。
聞かれたとしても後はエサが何かぐらいだろう。
しかし、最先端の釣り場で会う人達は聞いてくることが違う。
糸の太さや、ハリのサイズまで聞いてくる。
餌も私が市販の物を使っていると「それじゃ期待できませんよ」とまでいいきる人もいる。
 実は少し前までは糸は0.8号を使用していたのだが、
さすがにはずかしくなって0.6号に落としたのである。
 私は新しく釣りを始める人にも0.6号を買ってもらっている。
餌については市販の物で十分だとしている。
狙うのは上流部がメインになるから何でも良いのである。
ポイントなども特に細かく説明しなくても、釣り場選びに失敗しなければある程度は釣れるのだ。

 しかし、今時そんな釣り方をすすめている雑誌などはどこにもない。
やはり私の釣りは今の物ではないのである。
釣る手段にしても最近はルアーやフライの人気が高いが、私にはこれらの経験がない。
私の釣りはあくまで昔の釣りで、これから始める人に今の釣りを教えてあげることはできないのである。
教えられるようになるには、まず自分自身が実践して新しい釣りをやる必要があるのだ。
 私としては今の釣りに満足しているし、当分はこれを続けていくつもりである。
しかし、いつか切り替えが必要になるのかなと最近ぼんやり考えている。



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