渓魚との出会い



 私が始めて渓魚に出会ったのは18歳の夏である。
学校で仲良くなったN君と夏休みにキャンプに行こうということになったのである。
場所は長野県の開田村にあるキャンプ場に決まった。
N君からの提案でただキャンプするだけでは暇なので、釣りをやろうということになった。
私は高校の頃、友人達と自転車でキャンプに行きハヤ釣りをやったことがあった。
その時、魚が釣れておもしろかった経験があるので賛成だった。

 二人とも渓流釣りは初体験である。
N君は渓流釣りのことを知る為に1冊の本を買ってきた。
私もその本を見せてもらい、初めてイワナやヤマメという魚がいることを知ったのである。
釣るのが非常に難しい魚であると書かれていたのをよく覚えている。
 早速、その本を参考にして道具をそろえに釣具店へ向かった。
竿は一番の安物で4.5mの中硬調、後は糸、針、重り、目印、仕掛け巻き、餌箱、 そして餌のミミズを買った。
他にもあったかもしれないが、今となってはよく覚えていない。
 本をたよりに何とか仕掛けを数本作って出発したのである。
その時の格好は半袖、半ズボン、それに普通の靴をはいていた。
まるで海にでも行くような格好である。
釣りはキャンプのおまけとしてしか考えて無かったので仕方ないのである。

 我々は中央道を伊那ICで降り、権兵衛峠を抜けてR19へ出るルートをとった。
その途中に川があり、N君は「こういう所に魚がいるんじゃないか?」と言う。
渓流を知らなかった私はその川の水が気持ち悪いぐらい澄んでみえた。
とても魚が住んでいるとは思えなかった。
 とりあえず、釣ってみようということになり竿を出した。
私が竿を出すといきなりあたりがあった。
魚はミミズをくわえて走ったのである。
向こうあわせで竿を立てると、その記念すべき第1号が釣れてしまったのである。
15Cm程度の小さい魚だったが、私はすっかりその魚体の美しさに見とれてしまった。
これまで見たどの魚よりも美しかったのである。
例の本で調べたらアマゴだということがわかった。
更にしばらく続けたが釣れなかったので、そのままふもとまで降りた。
 今度はもっと下流のハヤがいそうな場所で竿を出した。
そこでもまた1匹、釣れてしまったのである。
茶色っぽい魚で、本で調べたらイワナであることがわかった。
すごい魚が釣れたものだと驚いてしてしまった。
 更に場所を移動して今度はハヤが1匹釣れた。
これは本で調べる必要が無かった。(^_^;)

 ということで私は初めてにもかかわらずアマゴとイワナの両方を釣ってしまったのである。
しかも、半袖、半ズボン、それに普通の靴をはいて...
キャンプ場についてハヤを含めた3匹の魚をしっかり食べたのだが、味は良く覚えていない。
ただ、釣れたという思いだけが大きかったのである。

 全ての始まりはこれだったような気がする。
その後、しばらくはN君とたまに釣りに出かけたりしたが、
釣れないことが多く、釣れても1匹とか2匹とかその程度だったと思う。
やがてN君は釣りをやらなくなったが、しばらくして私は次第に釣りにのめり込んでいった。
 私は今でもN君には感謝しているのである。
彼がいなかったら、この渓流釣りの世界を知らなかったからである。
 最近、私が釣りをやっているのを見て、またN君もたまについてくるようになった。
N君が釣りに行きたいと言えば、私はよろこんで釣れる場所を案内することにしている。



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