源流のイワナ達



 イワナとヤマメは両方とも渓流に住む魚で私はどちらも好きである。
それぞれ違う魚として扱い、釣りも両方やる。
しかし、「イワナとヤマメのどちらが好きか?」と聞かれたら、まよわずイワナと答えている。

 昔はイワナの養殖ができないとされていて、まぼろしの魚とも言われていた頃もあったようだ。
しかし、今では養殖がすっかり定着し、放流の行われている川も多い。
これはこれで個人的にはうれしく思っている。
イワナが絶滅するなんて自分にとって考えられないからである。
 もし、イワナを釣りたいならこの放流された魚を釣るのが手っ取り早い。
私もこの魚は釣っているし、まれではあるが時には30Cmクラスの大物が釣れてしまうこともある。
これは大変うれしいことである。

 しかし、もっと上流の源流と呼ばれる所にもイワナはいる。
私はそういう所にも好んで足を運んでいるのである。
昔に近い形でイワナが生きている渓流はすっかりなくなってしまった。
しかし、完全になくなってしまった訳ではない。
本当に苦労さえ惜しまなければまだ会うことはできるのである。

 このイワナ達は本当に自然のままの本来あるべき姿を見せてくれる。
悠然と泳ぎ、時に群れをなし、そして大胆に餌を捕食して私を驚かせる。
人の入る谷からは考えられない程、イワナ達は自由で気ままに生きているのである。
 そこは上流部だけに餌も少ないのだろう。
警戒心のないイワナ達は私の流す餌に必死になって食いついてくる。
それはまるで私に会えた事を喜んでくれているかのようでもある。
そしてその姿や確かな手応が自分の心に深く刻みつけられていくのである。

 このイワナ達を見ていると本当にいとおしくなる。
まるで自分に会う為にこの厳しい源流で生きてくれているような感じすらしてくる。
そうなると特別な思いをいだかずにはいられないのである。
 なにも魚影が濃いからイワナをたくさん釣ろうというのではない。
このイワナ達がいることが私にとっての自然であり、会えることが私のよろこびなのである。
苦労して源流へ足を運ぶのも、ただこのイワナに会いたい思いだけでやっているのだ。
 イワナが好きだと言ったのは確かに魚自体が好きだというのもあるが、
こういうすばらしい感動を与えてくれる魚だからこそ好きなのである。

 最近、源流のイワナが急激に減少しているのはまぎれもない事実である。
そのうち源流から本当にイワナがいなくなってしまうような気がしてならない。
そうなったらそこがいくら人の手が入っていない自然の渓流でも、
それは本当の自然ではないと私は思っている。
残念ながら私にはこのイワナ達を守ってやることはできない。
ただその姿を少しでも長く見せてくれるようにと私はいつも願っている。



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