沢師への入口
作成者 : ゴン 写真 : ゴン、HARA
私は渓流釣りを去年(2000年)から始めたばかりの素人です。
知識も経験も無いに等しく、未だに釣り上げた魚をガッチリ掴めないでいます。
最初の頃はミミズも触れなかった程なのです。
そんな私が強力な師匠(HARAさんのことです)を得て、本格的な沢にご一緒させて頂きました。
実はご一緒するのは今回で2度目になるんです。
何故かHARAさんのご指名なので、今回は私が代わりに釣行報告をしたいと思います。(^^;
7月21日(日)、夜11:00。
私は都内某所でHARAさんと待ち合わせをしていた。
今回は申し訳なくも、HARAさんに自宅まで迎えに来てもらったのである。
車は首都高を抜けて中央高速へ・・・
久しぶりの再会に会話もはずむ。(^^)
私達は、途中の休憩所で作戦会議を行うことにした。
HARAさんが候補に挙げた沢は3つあった。
私は知っていた。HARAさんの釣りにかける情熱を・・・
途中まで行って「疲れましたか?じゃあ帰りましょう」なんていう甘い人ではない。
遅くなろうが何だろうが、最後の最後まで徹底的にやる人である!(^^;
前回の釣行は、私にとって初めての沢釣りだった。正直なところ、疲労困憊だった。
また渓に慣れてないせいもあり、怖いと感じる場所も多々あったのである。
今回もそうなるのかな?と胸中不安がよぎる。
しかし、私は絶対的な信頼をHARAさんに置いている!
まさかの危険を冒してまで遡行を続けるような無謀な人ではない・・・と思う。(^^;
そして今回は、私の体力にも若干の余裕がある。
何より大きく違うのは、ウエーディングシューズを購入していたことだ。
これまでの釣行で、長靴付きのウエーダーは結構体力を消耗すると気が付いたからである。(^^;
しばらく考えていたHARAさんが、「この沢にしましょうか!」と提案する。
「そうしましょう!!」と私は力強く賛成した。
理由は・・・地図で見る限り一番距離が短かったというのが本音であった。(^^;
しかし、地図の等高線を眺めていたHARAさんは
「この辺は結構きついんじゃないですかね?」と笑いながら私を脅すのだった・・・
でも普通、場所は当日に考えて決めませんよね?(^^;
場所が決まれば一目散に現場に直行!
まだ暗い3時頃、沢の入り口に到着したのである。
そこで私達は思いもかけぬものと出合った。別に幽霊ではない。(笑)
それは車のヘッドライトに逃げ回る茶色の小さな動物達だった。
彼(彼女)らは8匹程で、車のまわりをチョロチョロと本当に忙しい。
そんな子供たちを心配したのか、ノッソリ母親が現れた。(凄い迫力だ)(^^;
街の中で育った私は、野生のいのししを見たのはもちろん初めて。
実際目の前に「いのしし」がいても、「まさか」という気持ちが強く、
なかなか現実が実感出来ない。
そのうちウリ坊達は母親に連れられて、そそくさと崖の上へ消えていった。
私は何故か嬉しくなった。嬉しくて仕方がなかった。
HARAさんはというと、口をポッカリ開けたまま無表情・・・。
何が起きても実に冷静な人だ。(笑)
でも経験豊かなHARAさんも、あんなにたくさんの「いのしし」を見たのは初めてだと言っていた。
私達は明るくなるまで車の中で夜明けを待った。
時折、鹿の鳴く声が山々に響きわたる。
何て素晴らしいのだろう。何ともいえない感情が波の様に込み上げてくる。
これを言葉で表現することなんてできない。
午前4時をすぎ、空もうっすら白んできた頃、準備を済ませていた私達は出発した。
沢に入って少し行くと、いきなり目の前に堰堤が現れた。
これは越えなければならないのだが、これがまた恐怖なのである。
もちろん踏み後のような気の利いたものはない。
私:「あの堰堤、どうしますか?」
HARAさん:「左から巻きましょう」
私:「僕にも出来ますかね?」(結構ビビッてる)
HARAさん:「あんなのどうって事ないですよ。一人の時、どうしてたんですか?」
私:「無理そうだったらそれより先へは行きませんよ」
HARAさん:「・・・」
という会話もそこそこに、HARAさんは無言で顔色ひとつ変えず、さっさと登り始めた。(^^;
無謀にも私はTシャツ。堰堤を巻くのに腕が傷だらけになってしまったが、
先行してくれたHARAさんのおかげで、何とか無事に難関をクリアできた。(感謝してます!)
沢に戻り、遡行を再開する。もちろん先行者はいない。
たまにジュースの空き缶やゴミを見かける(実に嫌な気持ちになる)が、
とりあえず近日中に人が入った感じはない。
しばらく歩いていくと、しだいに溪相がよくなってくる。
私達は適当な所から釣って行くことにした。
入溪地点から2キロ程は遡行も楽で、2人で交互に釣りあがる。
本来なら暑い筈だが、うっそうとしたブナ等の木々が太陽の光を遮断してくれていた。
HARAさんの温度計では24度ということだった。
ムシ暑い東京で冷房のきいた涼しい部屋にいるのとどっちが快適か?
答えずともわかるではないか!!
「気持ちいいなぁ・・・」
溪には実に心地良い風が吹いていた。
正午になろうとした頃だっただろうか?
私達は大きな滝下まで釣りあがってきていた。
「立派なお方」以外はリリースと決めていたので釣果は気にしてなかったが、
20センチ前後のアマゴを2人して数十匹である。
それにしても、この沢はイワナが全く釣れない。
溪相からしていかにも生息していそうだが、最後まで1度も見かけなかった。
そう、ここは完璧にアマゴだけの沢だったのである。
私達は尺上がいるかも?と予感させる滝下を探ることになった。
水はエメラルドグリーンとまではいかないが、青黒くて結構深そうだ。
私はHARAさんに、ぜひ尺上を釣ってもらいたかったので「どうぞ」と言ったが、
HARAさんは「いやいや・・・」等と言い、遠慮して竿を出さない。
私はこの時点で充分満足していた。
ここはやっぱりHARAさんの出番ですよ!(笑)
HARAさんが糸を垂らすこと15分・・・期待が大きすぎたのか?(^^;
途中から私も加わって約半時間。釣れてくるのは拍子抜けする小物ばかりだ。
二人して頑張ってみたが、滝の主はついに出なかった。
HARAさん曰く、
「先に小さいのが喰っちゃったから警戒されちゃったのかなぁ?」
なるほど・・・。そうかもしれない。
とりあえず先へ進むことになり、
私達は竿をたたんで高巻きに取りかかったのである。
「左から高巻きますよ」とHARAさん。
私にとって、初めての本格的な高巻きである。
この滝を越えてみたい・・・が、自分に出来るのだろうか?(^^;
私の中で期待と不安が交互に湧き上がる。
HARAさんは相変わらず意気軒昂である。
木の根っこを掴んで、急斜面をさっさかと登っていく。足取りも軽い。
私はその後ろについてヒーコラ言いながら登る。
やっぱりウエーディングシューズを買ったのは正解であった。
しかし今から考えれば、この時が一番きつかったと思う。
登りきった時は肩がガックリ落ちたほどだ。本当、青息吐息の状態であった。
また降りるにも苦労はしたが、とにかく滝を越えてその先にたどり着いたのである。
私達は再び交互に釣り上がっていく。
そして溪相は益々良くなってくる。どこを見ても美味しそうなポイントが続く。
あっ、HARAさん、いい場所に竿出してるなぁと思って邪魔しない様に上へ登ってみると、
そこに負けず劣らずの好ポイントがあるという具合なのだ。
滝の上はあまり人が入らないのであろうか?
どうって事ないポイントでも、竿を出せばどんどんアマゴは釣れてくる。
それもみなそれなりのサイズなのである。
私は初めて経験するが、よく言われる「爆釣」とは正しくこれだと思った。
魚が釣れる度に笑いが止まらず、はしゃぐ二人だった。(^^;
そのうち私は薄暗い場所に出くわした。
沢は大きな岩を挟んで2つの流れに別れており、まるでジャングルを思わせるような景色だ。
大岩の左側は開けていて、大したポイントではなかった。
しかし、右側は岩に沿って徐々に深くなっているようで、
ここにいなければどこにいるんだ!という感じである。
私は恐る恐る近づき、岩の右側のエグレに餌を流してみた。
10秒待ち・・・。そしてやはりアマゴはいた!
しかも結構強い当りに「これは今までと違う!」と感じた。
ところが慌てるまでもなく、魚はあっさり引き寄せられてきた。
最初の当りからすると意外な感じだ。
ポイントは間口が狭かったので、アマゴも暴れることができなかったと見える。
むしろ水中よりも、釣り上げた後にえらく暴れていた。
間近で見た時、私はその厳つい容姿に驚いた!
これまでにもっと大きな魚を釣ったことはあるが、
こんなにマス然としている奴は初めてなのである。
サイズは26センチほどであったが、体高があってなかなか立派だ。(^^)
私は少し興奮して、下で釣っていたHARAさんを手招きして呼び寄せた。
HARAさんは私が釣り上げたアマゴを見てニコニコしていた。
本当に嬉しそうな顔をしている。
私はリリースか否かで判断に迷ったのだが、
HARAさんが「いいんじゃないですか?」というので、
結局キープさせてもらうことにした。
「わたを抜きますよ」HARAさんはそう言うと、
すぐに魚を絞めて処理をしてしまった。
そのお手並みの見事だった事!
「カァ〜、流石!!」と思わず感心してしまった。
私達は2時頃に昼食を兼ねて休憩した後、釣りを再開する。
しかし、私は途中で竿をたたんでHARAさんの釣りを見させてもらっていた。
HARAさんは私が釣りを止めたのを見て
「ダメですよ、尺上は最後まで諦めちゃ!」と言うのだ。
いや、私は予想以上に魚が釣れて、充分過ぎる程満足していた。
それに飲み込まれた鉤を外すのが苦手な私が釣ると、
いたずらに魚を苛めている様で、やりきれなくなっていたのである。
HARAさんは7〜8寸クラスの型を次から次へと上げ、
器用に鉤を外してリリースしていく。
それを眺めていた私もつい竿を出してはみたが、
またしても魚は鉤を飲み込んでしまった。
私はこれで今日の釣りはもう辞めだ!と決心したのである。
HARAさんがリリースした魚は、見ていると元気に泳いで流れに消えていく。
しかし、私がやっとこさ鉤を外した魚は、暫くその場所でじっとしているか、
もしくは白い腹を見せて動けないのまでいる。
これでは絶対にいけない。私は次回から絶対スレ鉤にしようと思ったのである。
夕方、小雨に遭ったが、少し経つと雨は止んでくれた。
さらに続けてHARAさんが釣っていくと、途中で魚信がバッタリ止む。
魚止めか?と思ったが、そこから少し上に行くとまたまた良型が釣れてくる。
いったいどこまでアマゴはいるんだろう?
ふと見上げると、かなり上の方まで沢は続いている感じだ。
それよりあたりは薄暗い雰囲気になってきた。
素人の私を連れての下山は危険だと思ったのであろう。
「帰りますか?」とHARAさんが言った。
・・・が、本心は魚止めを確認したかったに違いない。
私はHARAさんが納得するまで付き合う気でいたが、どうしても心細い。
申し訳ないなぁと思いつつも、私の心は下山を望んでいた。
なにしろ苦労して登ってきたこの沢を、今度は降りなきゃいけないからである。
帰路の歩きでは、汗がどんどん吹き出てくる。
休憩した時にHARAさんを見ると、頭から湯気がモァ〜と出ていた。
きっと私もそうだったに違いない。(^^;
心配していた大きな滝も無事に降りることができ、私達は暗くなる頃にやっと車に到着した。
そして着替えを終えてから、「お疲れ様でしたぁ!」と乾杯したのであった。(^^)
自宅に着いたのは、深夜2時を過ぎていたと思う。
ハードな一日だったのでお互いに疲れていたが、私などはまだいい方である。
HARAさんの方は大変だ。ここから千葉県の自宅まで帰らないといけないのだから。
でもHARAさんは幸せそうな顔をしていた。本当に穏やかな人柄だ。
私はHARAさんを見送ったのだが、ついうっかりとキープしたアマゴをHARAさんの車に置き忘れてしまった。
ちなみにそのアマゴがどうなったかは数日後にしっかり電話で聞かされた。
HARAさん:「いやぁ、なぜか私の車にアマゴが・・・実に美味しかったですよ!(^^)」
私:「・・・」
今回の釣行は、いきなりウリ坊達との出会いから始まった。
下駄ほどもあろうカエルを踏ん付けたり、鹿の頭蓋骨を発見したり・・・。
そして何より嬉しかったのは、渓にたくさんの魚がいた事である。
私にとっては驚きと新鮮の連続だったが、
これまでにない素晴らしい体験であり、最高の釣行であった。
都会の時間は本当にスピーディである。
あっという間に1年が過ぎ、自分を顧みる事すら忘れてしまう。
私などは凡夫で、そんな日常生活をくり返すうちに心が疲弊していく。
でも今回のように自然豊かな渓への釣行は、
そんな窮屈になった心を開放し、明日への希望を与えてくれるのである。
また都会の生活に疲れたと感じたら、この渓にHARAさんとご一緒したい。
今回はHARAさんに、すっかりお世話になりっぱなしの釣行になってしまったが、
おかげ様で一人では難しかった沢での釣りを十分に堪能することができた。
私は釣りを始めた頃から、いつかは大きなザックを担いで山に入っていく自分の姿をずっとイメージしている。
それが本当に実現するかどうか、今の時点ではまだわからない。
私は今回の釣行で、憧れていた沢師への入口ぐらいには立つことができたのだろうか?
PS:HARAさん、ありがとうございました。
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