置草履の悪場

− 丹波川支流 小常木谷 −



 沢登りの記録でも紹介してみようと思う。
はっきりいって私がやっているレベルなんてたいしたことないし、
稜線まで詰めるのは大変なので最後まで登ることはさすがに少ないのだが、
たまにはこんなこともやっているんだと思って見てもらえたらと思う。
場所であるが丹波川支流の小常木谷を紹介してみたい。
この沢は沢登りでは特に有名だし、核心部にあたる置草履の悪場に連なる滝はどれも見事である。
東京付近の沢としてはめずらしいほどの滝場を形成しており、この滝場はぜひ一度は見ておくべきだと思う。
もちろん遡行は安全とはいえないが自信のある人にはぜひ挑戦してみてもらいたい沢である。
きっと印象に残る山行になると思う。でも意外と怖いのが印象に残ったりして?(笑)
 ところで小常木谷のことをネットで検索してみた。
山行の記録はさすがに多いのだが写真などで渓の様子を詳しく紹介している記事はみつからなかった。
専門家の人からすればたいした沢ではないのかもしれないが、この沢は釣り師達との話でたまに話題に出たりすることもある。
かつての私がそうだったようにどんな所か気になっている人も結構いるみたいだし、
そういう意味では少しは貴重な記録...かも?


 入渓点である余慶橋に着いたのは3時前だった。
ちょっと早いと思われるかもしれないが、ここには釣り師もよく入るのでこのぐらいでも決して早くはない。
もちろん今日の目的は登ることなのでもっとゆっくりでも良いのだが、先に釣り師が到着していたり入渓した後ではさすがに気がひける。
というかいつも釣り師の立場で嫌というほど経験しているから、誰よりも早くというのは私なりの優しい気遣いなのである。
なんか偉そうなことを書いてしまったが、実はただの習慣だったりするかも。(笑)
すぐに準備を終わらせて明るくなるのを車の中で待つ。
4時を過ぎてしばらくすると暗かった空がようやくうっすらと白んでくる。
まだ早いなぁ...と思っていると車が1台きて止まった。うっ、やっぱりきたか。(^^; 釣り師かな? それとも沢屋かな?
いずれにしても私が一番早くきたのだからトラブルにはならないはずである。
でも後から来た車に動きはなかった。もしかして寝ちゃったのかな?(^^;
次第に空が明るくなってくると曇っているのがわかった。
着いた時には星が見えていたのだが...

小常木谷1  結局、出発は5時少し前になった。
すぐ余慶橋の横にある山道に入って歩き始める。
山の中はまだ暗かったが、だんだん明るくなり視界が利いてくる。
でも霧が出ていてどうも天気はすっきりしない。
しばらく山道は川と離れているが、15分ちょっとで火打石谷との二俣に降りる。
ここに渡されていた橋は壊れていた。増水でやられたのかな?
左の小常木谷へ向かうとすぐ山道は右岸に移り、
川から離れて岩岳尾根に登っている所がある。ここが遡行開始点になる。

 遡行を開始するとしばらく沢は穏やかだが、少し行くと狭間で水深のありそうな淵がある。
「あれ?」と思うかもしれないが、ここは右をへつって越える。
両岸が切り立ち、霧で薄暗い谷はちょっと不気味な雰囲気だった。

小常木谷1  すぐに下が淵になっている小滝が現れる。
ここには右に残ロープがあるのでこれを利用する。(別にロープが無くても問題ない)
この辺までは所々で崩れが目立ち、沢もちょっと荒れ気味なのだが、
歩いていくとぼちぼちと渓相の方も安定してくる。
その先にも小滝が2つほど続くが右から左からと越えていく。
もちろん遡行には何の問題もない。
そして沢は穏やかになり平凡で坦々とした流れが続くようになる。
歩いていると所々で魚がちょろちょろと走るのを確認できる。
おっ、いるいる。(^^)


小常木谷2  少し行くと滝が出てくる。
これが初めての滝らしい滝になる。
とはいっても5mもない。
ここは右のガレから巻くがザレている。
まだまだ余裕といったところ。(笑)


小常木谷3  この先にも小滝があるが、滝と呼ぶほどのものではない。
順調に歩いていくと出発してからちょうど1時間ぐらいになった。
汗かいた。腹へった。(笑)
ちょうど渓相のほうもまた穏やかになったので休憩をとり朝飯を食べた。


小常木谷4  その先で花ノ木沢が左から合流している。
続いてすぐ左からカヤ谷が入ってくる所で沢が右に曲がると、
いきなり銚子の滝が立ちはだかっている。
突然、滝が現れるのでドキッとするところである。
それにしてもすごい迫力だ。威圧感が伝わってくる。(^^;
ここまではのんびりした沢歩きだったが、ここで雰囲気が一変する。
実はここが置草履の悪場の入口なのである。
私に余裕がなくなるのはここからなのであった。(^^;
この滝は考えるまでもなく私に登るのは不可能である。
ということで迷うことなく高巻きにとりかかった。


小常木谷5  実は銚子の滝の上にはすぐまた滝が続いているのだが、
ここは2つの滝をまとめて巻くことになる。
ちなみにここの高巻きはかなり悪いですよ。(^^;
ロープを使って川に降りるとすぐまた淵を構えて次の滝が...
ここもあまりうれしくない感じである。(^^;


小常木谷6  続いて待ち構えていたかのように現れるのが不動の滝。うげっ!(^^;
ここは右手のルンゼからカツーン、カラカラ...と常に落石があり非常に危険である。
落石に注意しながらタイミングを計り、ルンゼを素早く一段登って手がかりのない窪にとりつく。
でもとりついたら最後でもう途中で降りられなくなるので要注意である。
もしすべり落ちでもしたら落石の餌食ですよ。(^^;
ここは上から短い残ロープがたれており、これをつかんで一安心という感じだった。(^^;
でも、それで終わりではない。
この不動の滝の上にはすぐまた滝が続いている。
ここは残ロープが張られた右壁をへつりながらその滝上に出ることになるのだが、
残ロープが無ければとてもやる気がおきない所である。(^^;


小常木谷7  滝上に出ると沢は穏やかな感じになる。ふぅ〜っ。(^^;
しかし、すぐ倒木の詰まった小滝が出てくるのでそれを越えていく。
そしてその先で沢が急角度で右に曲がると今度は大滝が立ちはだかっている。
なんかこの出現パターンって銚子の滝の時と似ている。(^^;
ちなみにこの大滝だが下から見るとそれほど大きくは見えないのだが、
実は上部が隠れているのである。


小常木谷8  大滝を越えるとまた穏やかな感じになる。
でもすぐ沢は左へ曲がり、左からルンゼが合流すると
またしても沢は急角度で右に曲がって今度はねじれの滝が出現する。
ハハハ...ここまで滝が続くと笑ってしまう。(^^;
この滝もなかなか迫力がある。
見たとおり二段の滝だが、上段の下はちょっとした釜になっている。
もちろん、ここの通過も悪いですよ。(^^;


小常木谷9  ねじれの滝を抜けると置草履の悪場が終わる。
それにしてもこの短い間によくここまで滝が続いているものである。(^^;
偶然できたにしては、あまりにもできすぎだと思ってしまう。
水量は多くないし渓の美しさも今ひとつ物足りない感じなのだがでも滝だけはすごい。
これだけ登攀的な要素が多ければ沢登りで人気があるというのうなずける。
もちろん私は歓迎しませんけど。(^^;

 さて、沢の雰囲気は一転して穏やかになり、
それを見計らったように天気が回復して太陽が顔を出した。(^^)


小常木谷10  明るくなった沢を歩いていくとすぐ岩岳沢の出合いである。
ここで休憩することにした。
実は休んでいたら気が抜けたのか眠くなってしまい
おもわず昼寝をしてしまった。あっ、寝ないできてますから。(^^;
起きたらちょうどいい時間だったで昼飯を食べた。
この出合いのすぐ上にはテン場があり、焚き火の跡なんかも残っている。


小常木谷11  この先、すぐの所にも滝がある。
下は淵になっていて実にいい感じである。
釣り師だからすぐそういう所に目がいってしまう。(笑)
ここは左から小さく巻いていく。


小常木谷12  これを越えてもまた滝がある。
でも悪場の中みたいな重い空気はもうない。
開放的な雰囲気の中、気持ちよく登っていける。(^^)


小常木谷13  こんな滑なんかもある。
下はとても綺麗な淵で透明度は抜群。(^^)
登っていくにつれて沢は美しくなっていく感じがした。


小常木谷14  穏やかになった源流部。
緑のトンネルの中を歩く歩く。(^^)
落ち着いた感じの流れがひたすら続き、
単調ではあるが個人的には歩いていて一番気持ちいい所であった。


小常木谷15  途中で枝沢がバンバン合流してきており、
進むにつれて水量はどんどん少なくなってくる。
やがて落差の方も次第に出てきた。


小常木谷16  いくつかの滝や小滝などを越えていくと、
赤テープの目印があるナメ沢の出合いに到着する。
岩岳沢からここまではちょっと長い。(^^;
ちなみに岩岳尾根へ出るにはナメ沢を登るとへ近いみたいだが、
せっかくなので本流を忠実に詰めてみることにした。
そこから沢は源頭近しの雰囲気になり小滝もポコポコと出てくるようになる。


小常木谷17  しばらくすると沢は突き上げる感じに変わる。
水もめっきり少なくなり、ガレもぼちぼちと目立ってくる。
でも別に沢が荒れているわけではなく、これは自然な姿なのである。
さすがにこの辺から登るのがきつくなってくる。(^^;


小常木谷18  忠実に本筋を登ろうとするが
沢はいくつにも分岐していてわかりずらい。
こっちでいいと思うけどなぁ...という感じで登っていく。
それより霧が出てきてなんか薄暗くなってきた。
さっきまであんなに天気が良かったのに...(^^;

 やがて水が無くなり最後の詰めに入る。
沢筋がわからなくなったので適当なところにとりつくが、
最後はひどい藪こぎとなった。
なかなかハッピーエンドとはいかないものである。
それとも登ったルートが悪かったかな?(^^;


小常木谷19  20分ちょっと藪こぎを続けると藪を抜けた。
そこからちょっと登るとすぐ尾根筋に出たのだが深い霧で視界が悪い。
いったいここはどこ?(^^;


小常木谷20  この尾根には踏み跡がついていた。
左手の方が登りだったのでそちらに5分ほどいくと
岩岳尾根の道に出た。やった!(^^)
もう後は降りるだけである。


小常木谷21  ちょっと休憩してから下山を開始する。
そして下っていくと突然「ドカン」と大きな雷が鳴った。
うっ、近い。(汗)
それから雷は鳴り続け、しかも右から左からピカピカと稲光が...(^^;
ポツポツときた時は雨の中を帰る覚悟を決めた。


小常木谷22  雨はすぐにでも降りだしそうだったがなぜかなかなか降らない。
もしかしてこのまま最後までもってくれるのでは?と期待しながら降りていった。
途中で小常木谷が見える場所があった。くの字になっているのが特徴的である。
ちょうどあの辺が置草履だな。あんな所で格闘していたのか。(笑)
それよりあの上まで登ってきたんだよなぁ...
本当にご苦労様である。我ながらよくやるよと思った。(^^;

 そしてようやく沢に降りてほっとする。降りるのに3時間近くかかった。(^^;
後は来た山道を戻って国道に出たのだが、この時いきなり猛烈な雨が降ってきた。
ひぃ〜、最後の最後にきやがった!(^^;
私は考える暇もなく急いで車に駆け寄り飛び乗った。
ちょっと濡れはしたがぎりぎりセーフ。それにしても危なかった。(^^;
それから狭い車の中でごそごそ着替えていたら目の前の丹波川は増水していき、
帰る頃にはすっかり濁流になっていた。


 ということでめでたしめでたし。(^^)
えっ? で、釣果の方はどうだったかって?(汗)
そんなこと言っちゃいけません。最初に沢登りだって書いておいたでしょ。(^^;
まぁ、いつもと同じ装備だからとりあえず竿は持ってましたけどね。
でも決して竿は出さなかったと山の神に誓おう。(^^;  ←コイツなんか怪しいぞ(爆)



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