大型イワナの釣り場

− 山梨県 −



大型イワナ1  この沢は私が知っているイワナ釣り場の中でも、最も好きな沢である。
魚達が少なくなった今となっては本当に貴重な1本だと思う。
そして、私は年に一度だけこの沢のイワナ達に会いにやってくる。
なぜ一度だけかと思われるかもしれないが、ここは通常の釣り場ではない。
単に釣り人の入らない沢と言ってしまえばそれまでではある。
しかし、私はここをイワナの聖域だとさえ思っている。
釣れるからといって、そうそう通っていい場所だとはとても思えないのである。
年に一度だけにしているのは、このイワナ達に感謝するせめてもの私の気持ちなのである。

 この沢に初めて訪れたのはしばらく前のことになる。
私は本流出合から竿を出して釣り登っていった。
渓相はなかなかすばらしく魚もいそうなので期待できそうだった。
しかし、あたりは出なかった。
それでも私はあきらめずに竿を出し続けた。
そしてまる1日かけて釣り登ったのだが、やはりあたりは出なかったのである。
 私は目の前にある魚止滝を見ながらぼんやり考えていた。
あの滝の上に魚はいるのだろうか...
気にはなったのだが、時間も時間だし私はあきらめて魚止滝を背にした。

 私はそれからしばらくこの沢に行くことはなかった。
他に行きたい場所はたくさんあったし、魚がいるかどうかもわからないこの沢はとりあえず後回しにしていたのである。
しかし、いつかはあの滝の上をやってみなければとずっと思っていた。

大型イワナ2  再びここを訪れたのは、それから約1年半たってからだった。
はたして魚はいるのだろうか...当然、情報などは何もないのである。
ただ、魚にいてほしい、そしてその魚に会いたい。
その思いだけが私を動かしたのである。

 今度は本流出合からは竿を出さずに一気に歩いて魚止滝を目指した。
そして魚止滝を右から巻いて私は滝の上に立ったのである。
やや強行ではあるが、ここまで約2時間半強の遡行でたどり着くことができた。

 滝上は荒れたようすもなく静かな流れだった。
どこにでもありそうな普通の沢である。
私は早速、ここから竿を出して行くことにした。
竿を握る手には力が入っていた。
1尾でいい。いや、姿が見れるだけでもいい。
とにかくいてくれさえすれば...

 しかし、その緊張感はすぐに薄れてしまった。
またもやあたりはずっと出なかったのだ。
自分はいったいこんなところで何をやっているのだろう。
さすがに少しバカバカしさを感じていたが、私はあきらめなかったのである。
いつの間にかとっくに昼もすぎていて、そろそろ帰る時間をどうするか気になり始めていた時だった。
何でもない落ち込みにふと餌を投げ込んだ時、
ガツッガツッというイワナ特有の暴力的なあたりがあった。
この振動は竿を通して腕を伝わり、そして私の脳に直撃した。
「な、なんだ、まさか魚か?」
すっかりあきらめ半分だった私は少しうろたえてしまった。
釣れてきたのは尾ひれの発達した20cmほどのイワナであった。
 魚がいたことが全く信じられなかった。
ここまでくるまで、ただの一度も魚影を見ていなかったからである。
しかし、この源流域だけにイワナは住んでいたのだった...
これがこの沢のイワナとの出会いだったのである。

大型イワナ3  そして、今年も私はここにやってきた。
本流出合いから遡行を始め、魚止滝を越え、更に魚がいる場所まで歩いた。
目的の場所にたどり着いた私は水の流れを見ながらしばらく立ちつくしていた。
魚影こそ見えはしないが、すぐ目の前にはイワナ達がいるはずなのである。
じっと水の流れを見ていると、これまでのいろんな思いがこみあげてくる。
今年もまだいてくれるのだろうか...多少の不安もあった。

 ここのところ雨が続いたせいか水量はあきらかに多かった。
この日も天気が悪く既に雨がポツポツきはじめていた。
それでもイワナとの再会に胸の鼓動は高まっていたのである。

 目の前のポイントに投餌するとすぐにゴツッゴツッというあたりが出る。
これだ...わたしはこの振動に酔いしれた。
そして魚がくわえ込んだのを確認してからあわせると、力強い手応えが返ってきた。
尺には少し足りないが1投目から9寸クラスの良型がきたのである。
もうすでに私の心は躍っていた。よし、今年もイワナは健在だ。

 それからは入れ食いだった。
竿を出せば必ずいるといった感じである。
イワナ達は落ちた餌に向かってまっしぐらに食いついてくる。
ひとつのポイントから2匹、3匹とどんどん釣れてくるのである。
そして20cmクラスに混ざって、尺クラスも竿をしぼってくれる。
すごい、すごいぞ...
いつの間にか雨は本降りになっていたが、そんなことはどうでも良かった。
私は夢中になってひたすら竿を出し続けていた。

大型イワナ4  一年ぶりに釣行してみたが、この沢のイワナ達は変わっていなかった。
私は源流のイワナを求め、こうしていろんな沢に入り込んでいる。
知らない人から見れば、バカみたいな行為だと思われるかもしれない。
しかし、渓流釣りをやる人ならこうしたイワナ達に会ってみたいと思うはずである。
少なくても何も感じない訳がないと思っている。

 私は沢釣りを繰り返してきたので、たまたまこういう釣り場を知ることになった。
これを偉いとか、自慢しようとかと思っているのではない。
それでも私はこうして釣行記を書いている。
それはイワナを求める自分の気持ちを少しでも知ってもらいたいからである。
私はここのイワナ達に会えただけでも、釣りをやってきて良かったと思っている。
ここはいつきても変わらない、私にとっての大型イワナの釣り場なのである。


(この日は天気が悪かったので、川の写真は去年の物を使用しました)



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