1999.6.4 後楽園ホール

NJKF ヤングファイト


キャリー宇佐美 対 竹村健二(名古屋JKF)

3R判定負け

「宇佐美だけは心配なんだよな」
 試合前、ことあるごとに会長はこう言っていたが、それはセコンド陣みんなが思っていたことだろう。
 オーエンジャイで揉みに揉まれている北星勢は、総じて「肝がすわっている」といわれる。当たり前だ。戦績も体重もまったく合わない相手とやらされたり、酒飲んでいるところ呼び出されて試合させられたりしているのだ。少なくともビビって
みっともない試合になることはない。
 しかし、キャリー宇佐美だけは事情を異にする。入門してからそれなりの月日は経っているし、オーエンジャイもそれなりに出場している。でも、未だ殴り合うことに開き直れないでいる。デビュー戦は引き分けたものの、内容的には誉められたものではなかった。気持ちで相手に負ける場面が何度もあった。「怖くてあいつはしばらく出せないな」と会長も言っていた。
 約1年を経て、そんなキャリーの2戦目が組まれた。もう若くないキャリーにとって、結果はともかく「プロらしい」試合ができなければ、2度と試合が組まれることはないだろう。しかも相手は名古屋JKF。ジムの名前でビビルほどアホらしいことはないのだが、少なくとも「おいしい」相手は期待できない。キャリーは苦境に立たされた。
 試合2週間前、相変わらず何かを吹っ切れないでいるキャリーに、延藤直樹トレーナーによる緊急闘魂注入が行なわれた。スパーでボコボコにされ、ミットで痛めつけられことによって、キャリーの中の何かが変わった。鬼のような形相でミット打ちに励むキャリーは、今までのキャリーではなかった。
 試合前の控え室でもキャリーの強気は変わらなかった。相手が「グローブ空手3位(らしい)」と聞いてもびびることはなかった。逆に「これに勝てば中島(弘貴=トレック)に並べますよね」と闘志の炎を燃やしていた。15歳の少年にライバル心を燃やすのはどうかと思うが、ともかくキャリーは気合い十分だった。

「でも、いざ試合が始まったら……」という心配は杞憂に終わった。正直、相手はキャリーより一枚も二枚も上の相手だった。いつものキャリーであれば、1Rで潰されていたことであろう。しかし、この日のキャリーは引かなかった。前へ前へと出た。
 もちろん、勝負ごとであるから、敗者をあまり評価はできない。でも、キャリーはこの試合でキックボクサーとして生き残った。いつ組まれるかわからないが、次戦が本当の勝負になるであろう。キャリーの次戦は、女房を質に入れても観に行かなくては…。

下地智也 対 山本恭太(大和)

3R判定負け

 顔見知りのキックファンに会う度に「今日は下地くんが楽しみだね」と言われた。前回のデビュー戦で、新人離れした実力とパフォーマンスを見せた下地。期待が高まるのも当然か。
 そのせいか、下地の相手には格上が用意された。この日2戦目の下地に対して相手の山本選手は2勝1分と好成績を残す、バランスの取れた好選手。個人的にちょっとしんどいのでは、と思っていた。
 序盤、3回戦離れしたコンビネーションで攻めてくる山本選手に対し、下地はパワフルなパンチとローで応戦。判定決着ばかりだったこの日の試合の中で、唯一といっていい、スリリングな打ち合いとなった。
 しかし、一つ一つの技の正確性で、少しずつ山本選手が上回っていた。徐々に差が出始める。結局、とらえきれず終了。判定も山本選手のものだった。
 試合後、リングを降りた下地はグラブで目頭を押さえた。泣いているのか? しかし、控え室ではケロッと笑い「泣いたほうがドラマチックだと思って泣きまねしたんすよ」とうそぶいてみせた。
 下地は旧友と行動を共にしたため、オーエンジャイでの打ち上げにはこなかったのであるが、その席上「あの下地の涙は本当なのか?」が話題になった。結局、意見は分かれ、結論は出ずじまいだった。

 一見ただのヤンキーにしか見えないが、実は繊細な男、下地。この魅力満点のキャラクターをぜひ5回戦で観たいものだ。

石毛慎也 対 松本竜大

3R判定勝ち

BORN TO FIGHT
 石毛のトランクスには、こんな文字が縫われていた。BORN TO KICKBOXINGではないところがこの男らしい。
 石毛という男の価値観はちょっと変わっている。「キックでトップをとってやろう!」という気はあんまり感じられない。「身近の先輩にまだ勝てないから、退くに退けない」「ジムの中で自分より強い人がいなくなったら、心おきなくキックを
辞めれるのに……」などとのたまわっている。
 そんな石毛である。この松本竜大戦を落とすわけにはいかない。この松本竜大は旧「竜」。前回の試合では、石毛の先輩・井上玄斗が1RKOに下している。「こだわる男」石毛にとっては、先輩が一蹴した選手に苦戦することすら許されないこ
となのだ。

 試合の主導権は、終始石毛が握った。ローはカットされるものの持ち味の高い蹴りで、相手を止め、組んでは持ち上げて投げつける(反則!)。インターバルの間、セコンドは「このままで大丈夫だ!」と言うのだが、本人は「あ〜つまんねぇ試合だ。しょっぱいな〜ぁ!!」とご立腹の様子。ここでカーッときて打ち合う必要はないので、セコンドは諭すのに懸命だ。
 結局、石毛はガマンして、蹴りと首相撲の危険度の少ない闘いを貫いて勝利をおさめた。本人は試合後リング上で土下座するなどご不満な様子だったが、リングを降りての記念撮影に笑顔で応じるなどまんざらではない様子だった。

 これで4勝目をあげた石毛。NJKFでは一応5勝を5回戦昇格の目安としている。しかし、石毛のここ数戦の勝ちっぷりを見ていると、特例での昇格の目もありえなくもない。会長会議によって決まるらしいが、早く結論を知りたいところだ。


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