2002.6.29

NKBトーナメントウエルター級決勝



石毛慎也 対 小野瀬邦英(渡辺)

  4RTKO勝ち

「師弟対決」として注目を集めたこの試合。小野瀬の経営する「まんぼう はりきゅう整骨院」に石毛が勤務している間柄だ。戦力的には、やはり小野瀬のほうが何枚も上。石毛がどう挑むかが、この試合のテーマだ。

小野瀬というのは、対策の立てやすい選手だ。正対してまっすぐに入ってくるので、入り際に前蹴りやヒザが入るはずだ。接近戦でガンガン、ボディーを打ってくるので、空いている顔面にヒジが入るだろう。理屈の上では、簡単だ。だが、誰もが考えるその対策を、誰も実行できなかった。そういった理屈を吹っ飛ばす、圧力があるからだ。それに負けないだけの体力、気力、耐久力が必要だ。

そういうことを踏まえて松浦さんは「僕は石毛には絶対勝てるけど、石毛のほうが自分より小野瀬に勝てるだろう」と表現した。技術では松浦さんのほうが遙かに上だが、「自分より体力のある石毛なら、小野瀬の攻撃をしのげるだろう。そして勝機を見つけるだう」と判断したのだろう。

トレーナーのチャモアペットは、小野瀬のことを知っていた。「オノセ」と言うと、ボディーを打つマネをしたほどだ。そして、「ヒジ!」「ヒザ!」と誰もが思う対策を授けた。チャモアペットが他の大勢と違ったのは、ほぼ一ヶ月その対策に力を注いだことだった。ムエタイのテクニックが、これほど活かせる相手もない。

また、石毛がかねてから世話になっていたボクシングジムのトレーナーも協力。一度、マススパを見たが、小野瀬そっくりの動きをして、ヒジを合わせるタイミングをアドバイスしていた。

あとは、その対策を活かせる体力・気力があるかである。

入場前から気合いが入っていた。「相手が強いほど、怖いほど燃える」男である。目がいっちゃっていた。「いい試合になるだろう」ことは想像できた。「勝つならヒジだろう」とも思っていた。だが、あそこまで完璧に自分の試合ができるとは思わなかった。

策が完璧にはまった。

1R前半。深く踏み込んできた小野瀬に対し、石毛の右テンカオ(カウンターのヒザ)がぐさりと突き刺さった。これで明らかに、小野瀬はペースを失った。あまり強引に踏み込んでこず、逆に下がる展開が多くなった。こういった小野瀬は初めてみた。元気ないなぁ」と心配になったほどである。

しかし、それは石毛がもたらしたものでもある。相変わらず、入り際のヒザ、打ち合いの中でのヒジがヒットする。ときおり放つ、ハイキックもアクセントになっていた。そして、2R、ついにカットに成功する。

追い込まれて小野瀬のエンジンもかかってきたようだ。徐々に前への圧力をかけてくる。だが、いつものエンドレスなラッシュがなかなか続かない。ヒジが怖かったのか、ヒザを恐れていたのか、また何か別の要因なのかはわからない。ただ、現実として、石毛を追い込めない。

3R2度目のドクターチェックが入った。ドクターは「ダメだ」という意思表示をしたが、レフェリーは続行を支持した。まあ、ここはいわば小野瀬のホーム。仕方なかろう。

だが、流れは変わらない。そのまま4Rに突入したが、事態は変わらない。傷口もふさがらない。ここでレフェリーは試合を止めた。大金星の瞬間だ。「ヒジで斬った」というと、せこい逆転勝ちのように思われがちだが、判定に行っても石毛じゃっかん有利だったのではないか?

トーナメント開始前、石毛の優勝を予想した人は、身内か素人のどちらかだろう(笑)。だが、今思うと、すべてが石毛に味方していた。瀬尾戦で名を上げ、松浦さんの引退で巡ってきたチャンス。師弟対決ということでかなりの注目を集め、しかも小野瀬という「ご馳走」を食べてしまった。石毛の何かが、運をおびきよせた。これも実力である。もはや株価ストップ高である。

「こんなことどうせもう二度とないから」とクールに、だが嬉しそうに取材に応じる石毛。「燃えない相手」への取りこぼしさえなければ、しばらく石毛時代が続きそうだ。

一方の小野瀬。「あと2戦で引退」と公言していたが、どうなのだろう? 違うジムの人にあまりコメントしたくないが、彼ほどの選手が日の目を見ずに終わってしまうのが悔しくてならない。周りにライバルもいず、ろくな目標も持てない日々を何が支えていたのだろう。キックを知らないうちの会社の人も、彼の試合を観るたびに「凄い!」を連発していた。「キックの現状からして仕方ない」のかもしれないが、それで済ましてしまうのも‥‥。

本当に「悪いのは選手」なのだろうか?

何はともあれ、おめでとう石毛‥‥さん!!(笑)

観戦記トップへ   トップへ