NJKF "VORTEX VIII 〜旋風〜"
2003年9月21日(日) 東京・後楽園ホール

後楽園ホールは7〜8割の入り。裏でK−1ジャパンが行われていたことを考えれば、上出来か?


×石毛慎也(東京北星)
   対 フィクリ・ティアルティ(オランダ)

 3RKO(21秒)

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「オランダ最強」と言われる噂の強豪フィクリの初来日。相手を務めるのは、NKBウエルター級王者・石毛慎也。

全日本キックなら絶対こういうマッチメイクはしない。別の相手で、フィクリの強さをファンにアピールして、それから頂上決戦へとつなげていく。ガオラン対佐藤嘉洋の前に、ガオラン対清水を組んだのもしかり、"ルンピニー最強パンチャー"と言われるゴーンピーポップの相手は、"全日本最強パンチャー"の大月でなく、花戸との対戦をマッチメイクした。次の興行を考えてのことだ(たぶん)。

一方のこの日のメインイベント。観客も、関係者も、リング上のフィクリを半信半疑の目で見つめていた。しかし、数分後、フィクリのとんでもない強さだけを目にすることになる。そして、後で幻のように振り返るのだ。

事前に、ビデオでフィクリの試合は観ていた。器用な選手ではない。特に目立つ技術があるわけでもない。デッカーのようなパンチがあるわけでも、ヨーデーチャーのようなキックがあるわけでもない。でも、「間違いなく、こいつは強い」と思った。モロッコ系特有のバネのある身体、間合いを感じる感覚、柔らかそうな身体、"リングジニアス(リングの天才)"と称されるのがわかる気がした。石毛は「バケモノではない」と印象を語っていたが、「剛」というより「柔と剛」がうまく噛み合ったバランスの良い強さ。「ヨーデーチャのようなバケモノではないが、厳しい試合になるのは間違いない」と、私は感じていた。

そんな"ジニアス"フィクリだが、試合が始まると、いきなり石毛を仕留めに来た。「剛」の部分を前面に出し、パンチとローで攻めて来たのだ。一発一発に破壊力があるわけではないが、圧力が凄い。手数が凄い。気圧された石毛は防戦一方で、フィクリのパンチ、ローを浴びる。石毛がキックを返しても、倍以上の数のローを返される。ロー5連発も浴びた。身体能力が凄い。

2R。蹴り合いの距離では分が悪い石毛が、前に出てパンチを放つ。純粋にパンチの打ち合いなら石毛に分がある。パンチの打ち合いの距離はヒザも当たる距離。チャモアペットの「ワン・ツーからヒザ」の指示に反応した石毛がヒザを出すと、クリーンヒット。この距離でパンチとヒザで闘い続けることに、勝機を見出せた。

しかし、本来ヒジ、ヒザの選手だというフィクリ。石毛が一瞬勝機を見出した中間距離の打ち合いは、同時にフィクリの武器「ヒザ」を解禁させることになった。そのヒザは、いわゆる組ヒザではなく、打ち合いの距離で上へ突き上げるヒザ。標的は腹ではなく顔面。一撃必闘のヒザが、石毛のアゴを、テンプルを襲う。「極真空手でのグラウベ・フェイトーザみたいなヒザ」と表現していいだろうか。パンチの打ち合いに持ち込みたい石毛だが、打ちにいくたびにヒザが襲ってくる。
たまらず2度のダウン。すんでのところでゴングに救われた。

3R。もう為す術はなかった。21秒。ダウンして立ち上がった石毛だが、レフェリーが試合を止めた。正しい判断だったと思う。

世界は広かった。そう思うしかなかった。ある関係者が、「佐藤嘉洋が負けたのが理解できた。フィクリの相手になるのは日本では後は魔裟斗くらいじゃないか」と言っていた。しかし、当分フィクリの再来日自体が望めそうにない。少なくとも、NJKFは呼べない。相手がいない。あるとすれば、K-1 MAXくらいか。

絶望だけが残ったリングだが、個人的には観たいカードができた。

 フィクリ・ティアルティ対ヨーデーチャー

これなら金を払って観に行く。NJKFには組めるコネクションがある。どうでしょう?


中村篤史(北流会君津)
   対 石黒竜也(東京北星)×
 判定2ー0(50ー48、49ー49、50ー49)

負け無しで快進撃を続ける石黒だが、初の敗北を喫した。良いレッスンになったと思う。ジムの若い選手の間では、「石黒はもうトップレベルの実力を持っている」と認識されていた。「そんな甘くねえよ」と思っていたが、結果が出ているから説得力がない。

しかし、この日は現実をまざまざと見せつけられた。 キックボクシングに10の局面があるとすれば、石黒は3か4くらいの局面でしか勝負ができない。これまでの相手は、石黒の得意な局面でしか対抗できず、倒されてきた。しかし、上位ランカーは、甘くない。相手が何を嫌がるかを理解し、当然そこを攻めてくる。ベテランならなおさらだ。

いつものように1Rからラッシュをかけて、相手を追い込んだ石黒だが、中村も修羅場をくぐり抜けてきたベテラン。この試合でやるべきことを理解し、忠実に実行した。やりたいことをやらせてもらえず、スタミナを奪われ、二箇所切られての完敗。

キックはそんなに甘くはないのです。


※その他の試合はBOUT REVIEWで。
http://www.boutreview.com/

川津選手が下したタイ人は、まだ十代の現役バリバリ選手。フライ級の体重で、タイ人を倒すことがどんなに大変かをわかっていただきたい。次戦は、11月2日ディファ有明でのウィラサクレックジム主催興行。相手は、ムエタイ二階級制覇の現役王者ダォパッスック・シットパーファー。NKBフライ級タイトルを返上した川津選手、この試合の勝利こそ、まさにキャリアの集大成になるであろう。

同フェザー級チャンピオン桜井洋平選手もタイトルを返上。次回NJKF興行では、ムエタイ王者クラスとの対戦が予定されているとか。かつての鈴木秀明氏のように、もう特別枠でタイのジュニアライトでいいと思うんだけど。