竹とんぼが飛ぶわけ
竹とんぼを作って遊んでいると“ 竹とんぼはどうして飛ぶのだろうか ”との疑問を持つ子供が出てきます。
この様な疑問に応るために簡単な力学の原理を交えて、竹とんぼが飛ぶわけを解説しました。 竹とんぼが飛ぶ原理が分かると、更に良く飛ぶ竹とんぼを工夫することが出来ます。
原理をもとに“ こうしたらもっと飛ぶはずだ ”との説を立てます。これを仮説と言います。 仮説を具体化する竹とんぼの形を考えて作ってみます。
仮説が正しく、その通りに作ったらもっと良く飛ぶ竹とんぼが出来るはずです。
皆さんも仮説を立てて、作って、飛ばして確かめてみましょう。期待通りの飛行特性が出せなかったら、仮説に問題があるか、作り方に問題かです。
私がここで紹介する『ひねり竹とんぼ』に到達したのは、子供の頃作った竹とんぼを出発点に、飛ぶ原理から“ 良く飛ぶ竹とんぼの形を考え(仮説を作る) ”、“ 実際に作製し ”、“ 飛ばして性能を確かめる ”のプロセスを次々に繰り返した結果です。
単純な竹とんぼですが、その飛行特性には実に多くの要因が関係しています。
1つの要因を改善しようとして構造を変えると、他の要因に影響してかえって飛ばない竹とんぼになってしまいます。 また、材料の性質や自分の加工技術などの制約で実現できない構造もあります。
これは技術者が機械を設計するのと同じ方法です。また、科学する心にも通じることです。 優れた竹とんぼを考案するのは、性能の良いヘリコプターの設計と変わらないのではないかと思います。
大きく異なる点はお金がかからずに、一人(もちろん仲間があった方が楽しい)で、短時間に出来、失敗しても誰にも迷惑を掛けないことです。
もう一つ異なるのは、竹とんぼを飛ばす動力源、すなわちエンジンは自分の筋肉であることです。筋肉の強さや動かす早さはひとり一人で異なります。このため自分の体力に合ったものが最も良く飛ぶ竹とんぼなのです。
力学的に高度な知識を持てばそれだけ優れた構造を決めることが出来るようになり、工作技術が向上すればより精度の高い竹とんぼを作り上げることが出来ます。
前置きが長くなりましたが、大人の趣味として、中学生・高校生の力学の学習教材として、 理科クラブなどのテーマとしてとても良い課題であると思います。
1.どうして飛ぶの ・・・・・ 揚力(ようりょく)の秘密 |
竹とんぼを回転させると翼に上向きの力が働き、この力で空に舞い上がります。
★ 空気を押し下げる反作用による揚力 右の図でもう少し詳しく説明しますと、竹とんぼが「翼の回転方向」に回転すると前方の空気が下の方に押し下げられます。
この時、竹とんぼは上に向かって押し上げられるのです。 これを作用(空気を押し下げる)と反作用(空気は翼を押し上げる)と言います。 押し上げる力を“ 揚力(ようりょく) ”といい、 揚力によって竹トンボは上昇するのです。
扇風機が風を送るのと同じ動作です。 竹とんぼを回してみると空気が下向きに押し下げられるのが、手に当たる風で分かります。
揚力の大きさは押し下げられる空気の量(重さ)が多くなれば大きくなります。したがって、回転が速いほど、面積が広いほど大きくなります。
図のように翼は前の方が持ち上がっています。 持ち上がっている角度を“ 仰角 ”といい、θで表しています。
仰角がゼロの時…回転方向に対して翼が水平(θ=0度)では揚力は発生しません。
仰角を大きくしていくと揚力も増加します。しかし、ある角度を過ぎると揚力はだんだん減少して、直角(θ=90度)になるとゼロになります。
★ 流速の違いによる揚力
翼の上側と下側の空気の流れの速さの違いにより空気圧に差が出ます(ベルヌーイの定理)。 この圧力差が揚力となります。
「ひねり竹とんぼ」の翼では余り期待できませんが、「オフセット竹とんぼ」は翼の断面が飛行機の翼の断面に似ていますので、ベルヌーイの定理による揚力も少し働いています。
揚力が働いて竹とんぼが飛ぶことをお話ししましたが、揚力さえあれば飛ぶのでしょうか。
★ 自由落下
机の上に置かれた竹とんぼは止まっていますが、空中に放り出した竹とんぼは地面に向かって落ちてしまいます。ニュートンが発見した万有引力の力で地球に引きつけられるからです。この運動を自由落下と言います。
★ 上昇力
竹とんぼが上昇するには地球に引きつけられる力(重さ)によりも揚力が大きくなくてはなりません。言い換えますと揚力と重量の差が竹とんぼを上昇させる力になります。
数式で表すと 上昇力 = 揚力 − 重量 となります。
また、上に飛ぶスピード(加速度)は上昇力を質量で割ったものに比例します。
数式で表すと 加速度 = 上昇力/質量 = (揚力−重量)/質量 となります。
これまでの説明で良く飛ぶ竹とんぼを作るには揚力を大きく、重さ(重量・質量)は出来るだけ小さく、すなわち軽くすれば良いことが分かります。 しかしながら、軽くすると飛び続ける力が無くなってしまい直ぐに落ちてしまいます。 このことを次の章で説明します。
一 口 解 説 “重量と質量”
重量は物を持ったときに感ずる重さです。これは物が地球の引力に引かれて生ずる重さです。たとえばボールを持った時に感ずる重さです。
月面では引力が地球上の数分の一ですので同じ物でも数分の一の重さに感じますし、宇宙船の中は引力がゼロですから重量はゼロになります。
一方、質量はボールを投げる時や飛んできたボールをキャッチする時に感ずる重さです。
これは慣性力であって引力によって生ずる重さではありませんので、月面でも宇宙船の中でも同じ重さです。
体重計に乗り50Kgと“チョットふとった”というのは重量をいっています。気になるのなら宇宙飛行士になればいい、宇宙船の中で量ると体重はいつもゼロですから。
しかし、質量はどこでも50Kgです。
質量と重量は地球上では同じ数値として表されます。秤で量った重さ(重量)4gの竹とんぼの質量は4gです。この竹とんぼを宇宙船に乗せると重さは0gとなりますが、質量は変わりなく4gのままです。 |
3.飛び続ける力 ・・・・・ 運動量と運動エネルギー |
手から放れた竹とんぼは飛び続けます。どの様な力によって飛び続けるのでしょうか。
ヘリコプターにはエンジンがあり、タンクの燃料を使って運動のエネルギーを得て飛び続けます。では竹とんぼはどんな力によって飛び続けるのでしょうか?
★ 直線運動では 投げられたボールは手を放れてからも同じ方向に飛び続けます。この性質を慣性といいます。 地球が太陽の周りをいつまでも回り続けているのも同じことです。 早いスピードで投げられたボールの方が長い間飛び続けます。
スピードが速いものほど運動量が大きく、運動のエネルギーが大きいのです。
式で表すと
運動量 = 質量 × 速度
運動のエネルギー = 質量 × 速度 2
この式から、質量の大きいもの速度の速いものほど飛び続ける力が大きくなることが分かります。
★ 回転運動では
ボールは投げられた方向に飛ぶのに対して、竹とんぼは軸の周りを回転し続けます。 竹とんぼが回転しているときの運動量を考えてみます。
回転するものにはモーメントという考えを使います。モーメントは棒の先に重りを付けて棒の根元で支えたときに感ずる重さのことです。
同じ重さでも棒の先に付けるほど重さを感じ、 根元に付けると軽くなります。
この時感ずる重さのことをモーメントといい次の式で表されます。
モーメント = 棒の長さ × 質量
棒の根元を中心に回転させたときの運動量は次の式で表されます。
回転の運動量 = モーメント × 回転速度
★ 抗力も同時に発生
右に揚力の説明の時に用いた図をもう一度示します。上向きの力の揚力が生じると同じ原理で回転方向と反対の方向の力「抗力(こうりょく)」が生じます。
抗力は常に反対方向に働き竹とんぼの回転にブレーキの働きをしますので、この力によって回転数が次第に減少していきます。
回転数が減少すると翼のスピードが遅くなり空気を押し下げる量が減り、揚力が少なくなっていきます。ついに重力の方が大きくなり下降を始めます。
★ 抗力を発生させる要因は他にもある
翼の表面が空気と摩擦して抗力が発生したり、 翼の後ろに回り込む気流が渦となって抗力を発生させるなどの原因で抗力が発生します。
★ 抗力を少なくする形状
抗力を少なくすれば竹とんぼはより高く、より遠く、より長い時間飛ぶことが出来ます。
飛行性能をよくするには揚力を大きくし、抗力を少なくする形を工夫することが大切なのです。
★ 竹とんぼの回転運動量を増すには
ボールを遠くまで投げるには速い速度で投げればよいことは誰でも経験しています。 竹とんぼは回転の運動量を出来るだけ大きくしてやれば、高く遠くに飛ぶことが出来ます。
これには回転速度を高くすることとモーメントを大きくすればよいことが分かります。 回転速度を増すには竹とんぼを出来るだけ早く回転させれば良く、モーメントは竹とんぼの構造によって決まります。
★ 竹とんぼのモーメントを増すには
前の説明でモーメントは「 モーメント = 棒の長さ × 質量 」であることが分かりました。 ここで注目すべきことは同じ重さ(質量)でも支点からの距離、すなわち棒の長さが長いほど大きくなることです。
これは「てこ」を使うと同じ力でも重いものを動かすことが出来るのと同じ原理によります。
この原理を竹とんぼに応用すればモーメントが大きく出来ます。 竹とんぼは軸を中心にして回転するので、支点は軸になります。重さは竹とんぼの翼(羽根)の竹の重さです。
軸に近い部分の竹の重さによるモーメントは軸からの距離が短いので小さく、翼から離れた部分の重さによるモーメントは大きくなります。
もうお分かりと思いますが、翼の中心部の竹はモーメントが小さいので回転運動量が小さく、 飛ぶのにあまり役立ちません。 一方、どの部分の竹でも地球に引っ張られ下向きの力になる作用は同じです。
そこで軸に近い部分を削り取り、翼の先端の竹の厚さを増せばいいのです。 翼の先端に鉛などの比重の高い(重い)金属を貼れば、更にモーメントが増加します。
人の体に例えると、軸の周りの竹はお腹の周りについた脂肪のようなもので、羽根の先の部分は筋肉と同じです。
翼に生ずる揚力が竹とんぼの重量を引っ張って上昇すると第2項で説明しました。 上昇力 = 揚力 − 重量 となるからで、揚力が同じならば竹とんぼは軽い方が上昇力が大きく良く飛びます。
5項ではモーメントを大きくした方が有利であると説明しました。 モーメント = 棒の長さ × 質量 ですから、重くした方が良いように思えます。
★ 相反する要求?
二つの要素は相反する様に思えます。しかしながら解決方法があるのです。
モーメントは質量に支点(竹とんぼでは軸)からの距離を掛て得られる関係にあるため、同じ質量でも軸の近くに有ればモーメントは小さく、離れれば大きくなる点です。
具体的には軸に近いところは全部削り取り、それを翼の先端に集めれば同じ重さでもモーメントは何倍にも大きくなります。 中心部分を全部削ってしまうと翼を軸に固定できませんので軸に近い部分を出来るだけ多く削り取る工夫を凝らすのです。
先端の質量を増すのには鉛を貼ったり、埋め込むことで実現来ます。
★ 優れた竹とんぼは
この様に作られた竹とんぼは持った時には軽く感じられますが、回転させようとすると重く感じられます。
竹とんぼは軸を中心に回転するので軸のモーメントはほとんど期待できません。 また揚力も発生しません。ならば不要なものなのでしょうか。 いやいや軸には次の機能のため必要なのです。
★ 竹とんぼに回転を与える
竹とんぼを飛ばす動力源、すなわちエンジンは人の手です。 人の手の力を効率良く竹とんぼに伝え、勢い良く回転させて空中に放さなければなりません。
手の力をロスしないように伝えることと、かかる力に耐える強度が必要です。
★ 回転の中心として姿勢を保つ
竹とんぼが飛ぶには姿勢を保って回転し続けることが必要です。 翼の僅かなバランスの狂い、翼に出来る渦、風などによって姿勢が乱されます。 これを防ぐのが軸の役割です。
★ 胴体のないトンボなんて、格好悪い
モデルとなったトンボには胴体があります。竹とんぼでは軸が胴体です。 羽根だけ飛ばす竹とんぼもありますが、胴を取られたトンボのようで可哀想だし、格好が悪いと思います。
★ 必要な機能を満足させながら軽量化
以上の機能を満たしながらの軽量化のために、種々な工夫が求められます。 竹とんぼマニアで炭素繊維(カーボンファイバー)の軸を使っている方々もいるようです。
“ハイテク竹とんぼ”、いや“カーボンとんぼ”となって竹とんぼではなくなってしまう様に思います。
『親子で作ろう』、『作って遊ぼう』、そして『地球に優しい手作りおもちゃ』が私の出発点、竹で可能な性能を追求して行きたいと思います。
仰角の大きさと翼の面積は発生する揚力と深い関係にありそうなことがお分かりになってきたと思います。ここで仰角の大きさと翼の面積について考えてみたいと思います。
★ 仰角の大きさ
揚力は回転する翼が押し下げる空気の量と早さに比例して発生します。仰角が0度ならば揚力は発生しません。 どんどん仰角を大きくして90度になると再び揚力が発生せず、抗力が最大になってしまうことは容易に想像できると思います。
★ 翼の面積
翼の面積は大きい方がより揚力が発生しそうです。しかしながら翼の面積が大きくなると上昇する運動・・・・・・上からの風を受けることになり、上昇する運動の抗力となります。
また、面積を大きくすると重さが重くなってこれも上昇を妨げる方向で作用するのです。
★ 仰角と翼の面積で飛行特性が異なる
仰角と翼の面積を大きめにした竹とんぼは勢い良く上昇し、比較的短時間で回転速度が落ち、揚力を失って落ちてきます。落下途中で回転が止まり、地面近くでは逆回転するものもあります。
ビューと上昇してひらひらと落下する感じです。
一方、仰角と翼の面積を少な目にした竹とんぼはゆっくりと上昇し、回転速度が落ちるのもゆっくりです。横に飛ばしたときには遠くまで飛びます。また、風にも強いようです。
考えたり調べたり “竹とんぼが上昇する早さで仰角が小さくなる”
1項で揚力と仰角の関係を説明しました。この図は竹とんぼが回転だけしている様子を示しています。実際には竹とんぼは上昇するのですからこのことを合わせて考える必要があります。
竹とんぼが上昇すると翼は上の方に動きます。 回転と上昇の両方の運動をしているのです。すなわち翼は螺旋(らせん)を描きながら飛んでいるのです。この運動により仰角は止まっているときに比べると小さくなるのです。 |
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