雑木林と植物群落の遷移(移り替わり)
 

◆ 雑木林という言葉

 「雑木林」は生態学の言葉ではなく、日常的に使われている言葉で、はっきり定義はされていない。古くは貝原益軒の『大和本草(やまとほんぞう)』の中に雑木という言葉が出てくる。
これは、雑草=困った草という意味でなく、マツやスギなどの他の木々という意味です。雑兵という言葉も同様であると思う。
またコナラやクヌギなどの落葉高木を雑木とも言っている。これもマツ、スギやヒノキ以外の木材を指す言葉である。古川古松軒(1800年くらい)の『四神地名録』には雑樹林という言葉が出てくる。
 トルストイとトルストイの住むヤースナヤ・ポリヤーナのシラカバ林に感銘を受けた徳富蘆花も雑木林を書いている。
 そして国木田独歩の『武蔵野』では、落葉樹林という言葉で雑木林が登場し、武蔵野の風景を代表するまでになった。

 

◆ 日本の森林

 日本の森林(自然林・一次林)は次の様に分けることが出来る
○常緑針葉樹林
○夏緑林(落葉広葉樹林)
○照葉樹林(常緑広葉樹林)
○亜熱帯林
 これは暖かさの指数によって分けられる。暖かさの指数は WI=煤it−5)で計算される。武蔵野の平地では90〜120度・月で照葉樹林(常緑広葉樹林)の地帯である。このことから、雑木林は放置すれば、将来はタブノキ、シイノキ、ヒサカキ、アラカシなどの照葉樹になると予想される。
 既に40年放置された狭山緑地では、その前兆が散見される。

進入したヒサカキなどの照葉樹

 また、竹林に隣接する雑木林ではモウソウチクの侵攻を受け、景観が全く変わっている。

 

進入したモウソウチク


 

◆ 武蔵野の雑木林

 雑木林の特徴は、半自然林、二次林であり、人の手が加わらなければ維持できない林なのである。コナラが樹冠を作っている林はコナラ林と呼ばれる。武蔵野の雑木林はコナラとクヌギが樹冠を作っている。クヌギはコナラよりも湿ったところに多い。
 乾燥したところはアカマツの林になる。清瀬の方に行くとクヌギ林があり、これは昔植えられたようである。更に同じ狭山丘陵でも北側の斜面となる埼玉県側では、クヌギが多い。
 狭山緑地は一部を除けばコナラ林であり、尾根筋に続く南向きの斜面にはアカマツの群生が見られる。このことから狭山緑地は他の雑木林に比べて乾燥していることを示している。

 

◆ 植物群落の移り替わり

 噴火で溶岩流が地面を覆う、大規模な山火事などで植物が何もない状態が発生する。この状態から長い年月のうちには次々といろいろな植物が生え、変化していく。
例えば

裸地 → コケ・地衣類 → 草本 → ススキ草原 → 低木

            → 陽樹からなる高木 → 陰樹からなる高木 [極相林]

溶岩流の後は

溶岩原 → コケ・地衣類 → 松   となるケースがある

   富士山の青木ヶ原、浅間山の鬼押し出し (まだ松は小さいが)など

読みにくい文字の読み
草本(そうほん)  高木(こうぼく)  極相林(きょくそうりん)

この様な植物の移り変わりを遷移(せんい・サクセッション)という。
 畑は遷移の途中の草本の段階で、雑木林は陽樹からなる高木林で、人手により遷移を止めていることになる。
農業や林業は、自然が移り変わるのを止めるための、戦いと見ることが出来る。奈良の若草山は毎年山焼きをして、山全体を草本と低木に維持していると言える。


 

◆ 雑木林の構造

 林は縦方向に棲み分けている。一番高い所は樹冠と言って、その林で最も高い高木が枝を張っている。雑木林ではコナラやクヌギが樹冠をなし、クリやヤマザクラが混じっている。
樹冠をなすことは直射日光を葉に受けることになり、その林での勝者と言える。他の木は葉の間から漏れる僅かの光しか受けることが出来ない。
 樹冠の中では静かに共存しているかと言えば、決してそうでない。互いがより高く枝を伸ばして優位に立とうとし、横方向にも枝を伸ばし隣の木と激しく争っている。
 この争いに負けた枝や木はやがて枯れ、空いた空間は勝者の木が占めより、大きく成長する。
 その次の高さ(相)はネジキやエゴが占めている。その下をヤマツツジ、ウグイスカグラなどの低木が、更に下にはシュンランやカタクリなどの林床の植物が棲息している。

この様に狭山緑地は4層構造となっている。雑木林を4階建てのアパートに例えると

4階の住人・・・・・高木層     コナラ、クヌギ、ヤマザクラ
3階の住人・・・・・亜高木層    ネジキ、エゴノキ、リョウブ
2階の住人・・・・・低木層     ウグイスカグラ、ムラサキシキブ、ヤマツツジ
1階の住人・・・・・草本層     カタクリ、ギンラン、シュンラン、イチヤクソウ

1階から4階までびっしり茂っている林もあれば、2階、3階が空いていて、変化に乏しい林もある。


 

階層構造が単純 − 【 単相林 】

階層構造が複雑 − 【 複相林 】


 

◆ 雑木林の遷移

 ここに陰樹のヒサカキ、アラカシなど照葉樹が進入すると、これらの植物は葉が厚く光を遮り、かつ常緑のため年間を通して日光を遮ってしまう。
晩秋から早春に高木層の木が落葉している間に、一年分の光合成をする低木や林間の植物の生存が出来なくなる。
 更に照葉樹は成長速度は遅いが、僅かな日光で生きていくことが出来ので次第に大きくなり、上の相にあった木も圧倒してしまう。樹冠を形成していたコナラ、クヌギも毎年ドングリを稔らせて地上に落とすが、次の世代を担うコナラは常緑樹に日光を遮られ成長できない。
やがて茂っていたコナラが個体としての寿命が尽き、枯れると林全体が照葉樹の林になってしまう。
 これが極相であり、暗く変化に乏しい林になってしまう。
森に棲んでいた動物にも大きな変化をもたらし、照葉樹に適した種に取って代わられる事になる。景観も大きく変わり、慣れ親しんだ里山の景色が失われてしまう。
この様な遷移は100年も有れば大きく進むことになり、既に放置されてから30〜40年経っている雑木林が多い。狭山緑地も同様である。


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