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ラミジ読書日記

「ラミジ艦長物語」はダドリ・ポープ氏著作になる海洋冒険小説。
至誠堂から翻訳全23巻が出版されています。


タイトルをクリックするとその巻の読書日記に飛びます。


イタリアの海

岬に吹く風

ちぎれ雲

カリブの磯波

ハリケーン

謎の五行詩

消えた郵便船

裏切りの証明

Xデー
10
タイトロープ
11
眼下の敵
12
密命の結末
13
鬼哭啾々
14
総督の陰謀
15
海に沈めた秘密
16
遠い船影
17
孤島の人質
18
悪魔島
19
狂気の目撃者
20
ナポレオンの隠し札
21
トラファルガー残照
22
サラセンの首
23
マルチニク島の新月
おつかれさまでした!


1999/6/9 水曜日
イタリアの海 ラミジ艦長物語1』
山形欣哉、田中航訳 昭和55年 1300円(値段変わってるかも…)

RAMAGE

 ラミジですね。ラミジ。
 主人公、伯爵さまです。でも本人は「サー・ニコラス」とか「ロード・ニコラス」ではなく「ミスター・ラミジ」と呼んでもらうように気を使っています。
 ラミジのお父さんも海軍。でも、無実の罪で軍法会議にかけられて、失脚しています。あ、ちなみに死刑にはなっていません。

 このお話には、なんと、あのネルソン提督や、ホーンブロワーが(この人は主人公の回想でちらっと)出てきます。その遊び心が楽しいです。
 主人公はイタリア育ち(でも、子供の頃の一時期)。だからなのかどうか、とてもすばらしいギャグをかましてくれます。特に冒頭の、フランス艦にメガホン片手に語りかけるシーンは絶品です。フランス語とイタリア語を交え、時間稼ぎのためにえんえん叫び続けるのですが、「舵が壊れてるー!」とか「人がいっぱい死んだ!」ぐらいならともかく、「豚が死んだ!」「牛が乳を出さなくなった!!」レベルになると、もう笑いころげるしかありません。牛・ブタはさらに艇長(コクスン)のジャクソンの発案をそのままパクったりしているので、そのへんの素直さ・柔軟さも楽しかったです。

 もちろんジャクソンの忠義が大いに示されるシーンとか、軍法会議を人を失脚させるための手っ取り早いシステムとしか見ていないような連中との対決とか、若い女性との恋とか、見どころはたっくさんあるのですが、私のナンバー1は、やっぱり「歴代艦長1メガホンを効果的に使う男」の名を不動のものにした、冒頭のメガホン・シーンです。なんででしょ……。

 そういえば、これは図書館で借りた本で、どなたか存じませんが、2ケ所ほど鉛筆で書き込みがありました。私は本に書き込みとかは許せないタチなのですが(人様の本ならなおさら)、ちょっと面白かったのでご紹介です。
 解説のページでmidshipmanの訳語として「見習将校」を使った理由を述べているあたりに、楷書で「少尉候補生という言葉が日本語にはある。一番意味が近いのでこれを使うべき」と書き込んでありました。これを書いた人って何者なのでしょう……ううむ、気になります。

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1999/6/16 水曜日
岬に吹く風 ラミジ艦長物語2』
出光宏訳 昭和55年 1300円(値段変わってるかも…)

RAMAGE AND THE DRUM BEAT

 1775年生まれのラミジ。どうやらタイトルの「岬」とは、サン・ビセンテ(英語風に言えばセント・ビンセント)岬のことらしいです。1797年の海戦で有名です。ボライソーで言ったら『不屈の旗艦艦長』『白昼の近接戦』(シリーズ10、11巻)のあたりでしょうか。で、最終的にはその海戦の話になるのですね。

 ネルソン提督が、またまた出てきます。これからもたびたび出てくるのでしょう。ネルソン提督は、「きっとイギリス人のアイドルなのだわ〜」という書かれ方をしていますので、かなり楽しめます。

 さて、今回のラミジ艦長は、ちっぽけなカッター艦(失礼!)カスリン号を指揮して、ジブラルタル辺りを中心に活躍します。軍法会議にかけられて失脚した彼の父上は、海軍では「ぶっぱなし親爺」という異名(これは悪名なのか、それとも愛称なのかは謎です)をとっていますが、息子もやっぱりぶっぱなしくんです。
 カッター艦で戦列艦にケンカ売ったり、フリゲート艦を拿捕してしまったり。そして今回は、スペインの捕虜になりかけたところを平のアメリカ人水兵「ニック」になって切り抜け、さらに、さらに、ちゃっかりスパイ活動もしてイギリス海軍に帰還したりと、気分は「そこにマニュアルはあるのかい?」です。創意工夫に富んだ艦長さんです。そして、部下にも恵まれています。

 ラミジの頼れる仲間の1人、航海長のヘンリー・サウスウィクさん60歳。他にもいっぱいいらっしゃいますが、今回はこの方を。ラミジのほぼ3倍の年のじーさまですが、ラミジを信頼することしきりです。「戦ったら必ず勝つ!」と思うところまではいきませんが、「どんなに無謀に見えることでも、この人ならきっと何かひねり出して、やり遂げることができる」とは思っているはずです。すごいですね、ラミジ。もう、彼が演説すると、皆ものすごい盛り上がりを見せます。戦闘前の甲板はもはやラミジ艦長のステージ状態(独演会?)です。ヒデキぐらい燃えるかも。すばらしいです。
 それから、もう一つだけサウスウィクさん。23ページで、「女公爵(ラミジといい仲の娘さん)の目でラミジを見てやろうと思う」と前置きした後、「艦長のからだつきは……」「腰はほっそり……」「その風格は……」「黒っぽい褐色の目……」と、微に入り細をうがって、もう、語る語る語ってくれます! 女の視点で説明して下さるとは、齢60ともなりますと、いろいろと芸が豊富になって……いやはや。

 あ、ちゃんと、イギリス艦隊対スペイン艦隊の息詰まる大海戦が用意されております。艦が衝突してジブ・ブームやマストが折れたりするところなんか、すごい迫力です。よーし、次は3巻ですね。先は長いです。

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1999/6/18 金曜日
ちぎれ雲 ラミジ艦長物語3』
田中清太郎訳 昭和55年 950円(値段変わってるかも…)

RAMAGE AND THE FREEBOOTERS

 原作タイトルのFREEBOOTERSとは「海賊」の複数形です。次巻『カリブの磯波』も英語タイトルが同一ですので、この2冊は分冊らしいです。どうりで、打ち切られた連載漫画のような終わり方だと思いました……。

 今回は、またまた有名な「スピットヘッドの反乱」がまずからんできます。スピットヘッド錨地で起こった1797年の大規模な水兵の反乱事件です。ボライソーでもありましたね。『不屈の旗艦艦長』あたりがビンゴです。そして、反乱を起こした艦を一隻もらって、ラミジは西インド諸島の艦隊に反乱のニュースを届けに行く任務につきました……。

 反乱を起こした船と言いますと、ボライソーの『栄光への航海』を思い出しますね、何か。
 ラミジの乗艦はブリッグ艦トライトン号です。この時、ラミジはその艦の運営にあたって、前回カスリン号で一緒だった水兵25名をトライトン号の同数の水兵とトレードさせるよう願い出ます(この人数は乗員60名のほぼ半数にあたります)。ずっこいなー、ラミジ。ボライソーが望んだのはストックデールただ1人だったのにな、なーんて最初は思いましたが、反乱ってそれぐらい怖いことらしいです。
 何しろ相手は多勢なので、寝込みを襲われたらラミジも終わりです。艦ごとフランスに連れていかれてしまいます。加えて、全員が帆走作業のボイコットに走ったら艦は動きません。たいへんだ、ああたいへんだ、どうなるのでしょう。そして迎えたトライトン号上での初めての夜に起こった事件とは……これ以上は秘密です。

 今回のごひいきさんは、飲んだくれ軍医のボーエンさん。諸般の事情から、飲み、飲み、飲み、アル中に。けれどもこれからラミジらが向かうのは、熱病のおそれが多大にある西インド諸島。ここは是が非でも軍医に正気にもどっていただかねばなるまいってんで、ラミジは断固とした処置に出ます。がんばれボーエンさん、負けるなラミジ。このへんのアルコール禁断症状との戦いは海戦並にどきどきでした。

 あと、奴隷船が出てきます。イギリスはこの頃は奴隷制廃止に動いていますが、世界標準ではまだまだ儲かる商売のようです。ラミジらはこの奴隷船を拿捕するのですが、奴隷船のマレ船長のコメントを聞いていると、「きい〜っ!」って感じになります。植民地運営にしてもそうですけどね。でもわからないです。今は「いけないことなんだよ」って教えてもらっているので、正当化しようとするコメントを聞くと虫酸が走りますけど、この時代に住んでいたら私も奴隷制支持派だったかもしれません。世論の力恐るべし。とい言いますか、流されそうな自分が怖いです。

 今回は、懲罰のムチ打ちにずいぶんページ数を割いてます。「九尾の猫鞭」の作り方から始まるんですよ! 1人1つ。懲罰の度に、その人数分作るんだそうです。そして、刑の執行は次の日に行うのだとか。しっ、知りませんでした。そうなのか……。書く人によってこだわる箇所が違うのも歴史ものの楽しいところです。そして、読んでいる私はそのまま鵜呑みにしちゃいます。こんな知識ばかり増やしてどうするの、私……。

 はっ。それで、海賊はどこにっ?

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1999/6/20 日曜日
カリブの磯波 ラミジ艦長物語4』
田中清太郎訳 昭和56年 950円(値段変わってるかも…)

RAMAGE AND THE FREEBOOTERS

 えーっ、えーっ、えーっ、いいんですか、ラミジ艦長。ジアナはどうするんですか、ジアナは。
 とりあえず、そんな感想が頭に浮かびました。浮気は男の甲斐性なのでしょうか。帆船小説の主人公のお約束とか。今のところまだ本式に浮気というわけではないのですが、今後が気になるところです。

 さあ、とうとう原題のFREEBOOTERSと戦う時がやってまいりました。貿易に使われていたスクーナー船が、限定された海域で立て続けに消失、しかもその原因は不明という異常事態に、我らがラミジ艦長が挑みます。どうやら海賊の仕業らしく、しかも海賊にスクーナーの情報を流しているスパイもいるらしく、ラミジ艦長またまたピーンチ!
 女の人に恋している場合ではないんですけど? ぷっ。

 今回のお勧めさんは、囮に使われたロンジン氏所有のスクーナー船フォラム号の船長、ジェームズ・ゴートンさん。
 「脱走水兵」と体中に書いているとラミジやジャクソンに噂されつつも、冷静沈着に海賊退治に協力してくれました。
 あともうお一方、グレネダ島の陸軍司令官のウィルソン大佐。最初に出てきた時はだらしなーい飲んだくれさんかと思われた方ですが、ラミジと話しているうちにだんだんと生来の人の良さ、聡明さを取り戻していった観があります。色々と手を回してくれて、気も使ってくれました。いい人です。

 さあ、ラミジ艦長の次なる冒険はどうなりますことやら。

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1999/7/14 水曜日
ハリケーン ラミジ艦長物語5』
謎の五行詩 ラミジ艦長物語6』
小牧大介訳 昭和56年 各950円(値段変わってるかも…)

GOVERNOR RAMAGE R.N.

 この2冊は続きものでしたので、同時にご紹介です。

 いや、これは面白かったです。
 ラミジシリーズ、今まで今ひとつのれなかったんですが、このお話は最初から妙にのりのりでした。
 たぶん、ラミジに心強い味方ができたからだと思います。商船トパーズ号の船主にして船長、シドニー・ヨークさん。何しろ金持ちで、学があり、ラミジにとってはアカデミックな会話ができて言うことなし。トライトン号の部下ではやはり、ラミジの知的レベルを満足させる会話はできないらしいです。
 うーん、しかしジャクソン、今回はラミジの考えを読み過ぎて、逆に煙たがられています。でも、それはそれで読んでいる私は面白いんですが。

 ゴダードといいクロウチャーといい、ラミジの直属の上司はラミジのことが大っ嫌いらしく、いつもラミジを破滅させようと狙ってます。真の狙いはラミジではなく、ラミジの父親、失脚したブレージー伯爵に恥辱を与えることらしいですけど、狙われているラミジはたまったもんじゃありません。どうしてこの人はそんなにまでして海軍にいるのでしょう。あてつけでしょうか。海が好き、というだけではないような気がします。
 ですが、この人はまたジアナそっちのけでマクシーヌというフランスの逃亡貴族の娘に恋をしています。もしもーし。この、後先考えずに恋をするのは、帆船小説の主人公の宿命らしいです。

 前半の、私掠船の襲撃、艦の座礁、宝探しもよかったですけど、後半の軍法会議のシーンもよかったです。水脈さんが「水戸黄門」と評したのもわかるような気がしました。スカッとする展開です。

 海軍士官ではなく、民間人のシドニー・ヨークさんが頑張っていて、ラミジの頼もしい味方でいるのが嬉しいお話でした。こういう展開は、ボライソーやホーンブロワーではあまりないですね。
 私のお気に入りはあと、もう1人。ラミジが軍法会議が行われるアロガント号に乗艦した際、受付係をしていた将校さんです。軍法会議を舞踏会になぞらえ、最初から最後まで、軍法会議参加者とそして軍法会議そのものを、真面目に茶化して下さいました。ラミジの味方に直感で回ったんでしょうか。それにしても、名前が出なくて惜しかったです。

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1999/7/20 火曜日
消えた郵便船 ラミジ艦長物語7』
裏切りの証明 ラミジ艦長物語8』
出光宏訳 昭和56年 各950円(値段変わってるかも…)

RAMAGE’S PRIZE

 今回もシドニー・ヨークさんがいらっしゃってちょっとうきうきです。
 連続した話なので、続きがとても楽しみになってまいりました。
 ホーンブロワーやボライソーと比べると、ラミジは今のところ小さな艦ばかりです。フリゲート艦の艦長にいつかはなるのでしょうか。

 前回、トライトン号は座礁して使えなくなってしまったので、ラミジは新しい艦を手に入れられるかそれとも休職俸の半額給で余生を過ごすかの分岐点にいます。すべては海軍のお偉方の決定にかかっていて、ラミジにその選択権がないのが辛いところです。

 紆余曲折の末に手に入れることになる、久しぶりの指揮艦に乗り込む時、艦の見張りに誰何されて、思わず「トライトン号!」と叫んでしまうラミジ。このシーンはなんとなーくいい感じでした。ほんとうは新しい艦の名前を言わなきゃいけなかったのに。
 ラミジの心の中で、トライトン号がいかに大きな存在なのかが、すごくよくわかって、よかったです。

 さて、今回のラミジの任務は、イギリスに戻る郵便船がやたらと拿捕されるようになって、通信網が悲鳴をあげていることから、その原因をつきとめ、再発防止の策を講じること、これになりました。
 商船と軍艦の違い、水夫たちの金もうけ(「商売」と言われる密貿易?)など。価値観の違いが、なかなか根の深さを感じさせます。

 お馴染みの面々が今回もそろっていて、面白いです。
 さあ、次のお話が楽しみです。

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1999/8/4 水曜日
Xデー ラミジ艦長物語9』
田中航訳 昭和56年 1300円(値段変わってるかも…)

RAMAGE AND THE GUILLOTINE

 なんだかずうっと本を読んでいませんでした。
 いつもは職場の行き帰りの電車の中で、むさぼるように読むのですけど。

 ラミジ、今回は一冊完結です。
 原書タイトルの不吉なこと。『ラミジとギロチン』です。
 で、お話の方はと言いますと、これがまあそのまんま、ラミジとギロチンなんです。以上説明終わり。ヨークさんもいませんし。

 冗談はさておき。
 今回のラミジは、フランスに潜入し、ナポレオンのドーバー渡峡軍団の内情を探ることを命じられました。つまり、スパイです。
 捕まって、英国海軍の将校だと知れれば、命はありません。処刑道具は、もちろんあのギロチンです。
 いつもの水兵スタフォード(ロンドンっ子の錠前屋)と、密輸船マリー号のフランス人船長にしてラミジの強力な協力者ルイ。
 この2人がギロチンについて、イギリスの絞首刑や首斬り役人と比べてどうなのかを議論する場面は、けっこう気分が悪くなりました。具体的すぎますって、2人。
 この時代の死刑というのは、まさに娯楽、エンタテインメントだったんだなあ、と改めて確認させられました。

 この頃の革命熱に浮かされたフランスって、いつも悲劇の舞台です。同国人同士で疑い、殺し合っています。
 でも、ラミジが3人の水兵と一緒に、4人で一部屋に押し込められた時は、楽しかったです。人間は4人、ベッドは2つ。さあ、どうしましょう?
 ラミジが「いびきをかくか」とか聞くと、「艦長は、いびきをかかないジャクソンと一緒に寝て下さい」という答が返ってきました。うまい、うますぎです、その選抜方法。ナイスです、さすが艦長。
 シーフォート、ホーンブロワーの場合、「艦長が一人でベッド一個占拠。他の3人は肩寄せ合っておねんね」も十分ありそうです。ぎゅうぎゅうで暑そうな。

 あ、ルイさん、オススメです。
 家族をギロチンで殺されて、生き疲れてますけど、なかなかの知恵者です。ラミジの任務はこの方なしには途中で挫折していたでしょう。でも、誰か他の人が欠けていたとしても、とても達成し得たとは思えませんが。

 さあ、ラミジはギロチンに捕まるのか? それとも逃げ切るのか?
 けっこうドキドキです。

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1999/8/12 木曜日
タイトロープ ラミジ艦長物語10』
山形欣哉、田中航訳 昭和56年 950円(値段変わってるかも…)
眼下の敵 ラミジ艦長物語11』
田中航訳 昭和57年 950円(値段変わってるかも…)

RAMAGE’S DIAMOND

 パチパチパチ(拍手)。
 とうとうラミジがフリゲート艦の艦長になりました。指揮艦の名前はジュノー号です。またまたお馴染みの面々が一緒です。ラミジ一党って感じで、いいですね。
 さあ、ここに来て部下の将校(海尉さん)が一気に増えました。副長のエイトキンをはじめ、皆素直で明るい性格の方達ばかりです。

 話の方は、カリブ海でマルチニク島の封鎖を命ぜられたラミジが、あれこれ知恵をめぐらせてその仕事を完遂させてしまいます。大岩「ダイヤモンド大岩礁」に大変な労力を使って大砲を上げて砲台にしたり、9倍もの兵力の船団を相手に戦いを挑んだりと、今回も「これで勝ったら海軍省が図に乗って、少ない戦力でも勝てるんだとか言って艦隊をコンパクトなものばっかりにしたりして……」とこっちが心配になるような活躍ぶりです。

 期待の注目株はミスター・エイトキンです。やはり。
 名前だけは前から耳にしており、勝手に航海士さんだと思い込んでいたのですが、どうしてどうして、一級将校さんでした。とにかく性格ができたお方です。
 スコットランドの山岳地帯の出身で、山登りがものすごく得意で、時々飛び出すスコットランド訛がめちゃくちゃキュートです。また、「上着やスカートにしみ込む霧」という故郷の描写があり、「スカート? スカートって? エイトキン、スカートはくの?」と私を混乱させてくれたものですが、そう、スコットランドでは男の人もはきますね、スカート。キルトです。
 当然、山をバックに民族衣装着て、バグパイプを吹き鳴らす「丘の上の王子様(@キャンディ・キャンディ)」なエイトキンの姿が……浮かびましたよ、ええ。浮かびましたとも。きっと水兵さん達に対して、バイオリンと同じくらいの娯楽を提供していることでしょう。

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1999/8/24 火曜日
密命の結末 ラミジ艦長物語12』
小牧大介訳 昭和57年 1300円(値段変わってるかも…)

RAMAGE’S MUTINY

 鞭打ちが趣味なのか、ひどい艦長さんもいたものです。
 ジョカスタ号のウォリス艦長は、空前絶後の鞭打ち主義者でした。狂っていたのか、幻想に取りつかれていたのか、水兵さんたちを残酷に扱いつづけました。

 タイトル「MUTINY」とは、「反乱、暴動」の意味です。その名の通り、ジョカスタ号では反乱が起き、なんと艦長以下、士官は全員殺されてしまいます。そればかりか、ジョカスタ号はスペイン軍に引き渡され、難攻不落のサンタ・クルスに碇泊することになりました。

 ラ・ペルラ(真珠)号と名を変えられ、出航準備に大わらわのジョカスタ号は、英国海軍にとってたいへん目障りな存在です。恥の権化ですものね。

 さあ、分かりましたね。今回のラミジの任務。
 そう。ジョカスタ号の奪還です。
 サンタ・クルスの港はTの字形で、狭い進入路(Tの縦棒)の両側に砲台、進入路正面の山の斜面にも砲台があります。こんなところに突っ込んでいくのは馬鹿です。自殺行為です。

 それでもやる気を失わないラミジ艦長に、乗組員全員賭けています。
 「どこまでも ついていきます あっしらは だからお願い 捨てないで」
 人生、間違っているとか思わないあなた達が大好きです。

 それいけ、ラミジ!
 今回の乗艦は「カリプソ号」。熱い艦名ですこと。

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2001/6/23 土曜日
鬼哭啾々 ラミジ艦長物語13』
田中清太郎訳 昭和57年 1000円(税抜き)
総督の陰謀 ラミジ艦長物語14』
田中清太郎訳 昭和57年 1000円(税抜き)

RAMAGE AND THE REBELS

 上司がデービス提督からフォックス=フット提督に代わって、これがまた戦闘経験のない人で、投資は少なくあがりは大きくが大好きらしく、ケチです。
 なかなか扱いづらい人のようですが、まんまといつもの調子でさらにスクーナー艦を1隻せしめたラミジの今回の任務は・・・?

 ところで、ここでラミジがいただいたスクーナー艦の「ラ・クレオル号」ですが、これはたしか11巻のラストで「ダイヤモンド号」に改名されたのでは・・・んん? という疑問はさておき(笑)、今回のラミジの任務は私掠船の捕獲です。
 ちょっと派手にやり過ぎている私掠船を捕まえるのが任務で、撃沈したり焼き払ったりはご法度、あくまで船体は無事売却できるように、首謀者は裁判にかけられるように、きれいに連れてこいとのフォックス=フット提督の命令なのでした。

 率いる部下はおなじみのあの方この方で、相変わらずラミジ節は絶好調です。今回、いつもと違って面白かったのは、ラミジの名前が敵方に轟いているってことでしょう。ラミジの名前を聞いた途端、印籠出された悪代官のように「があーん」と衝撃をくらう敵さんがたくさんいて面白かったです。有名というよりは「悪名高い」というやつでしょうか。ここまで名前が売れている海軍士官が主人公のお話も珍しいなと思います。

 さて、タイトルにある「総督」とは、オランダ(当時はフランスに占領されてバタビア共和国)領キュラソー島総督ゴットリープ・ファン・ソメレン氏のことです。私掠船捕獲の過程でキュラソー島を訪れたラミジに、ファン・ソメレン提督が持ちかけたびっくりするような話とは?
 はたして陰謀勝負でラミジを打ち負かせるでしょうか、ファン・ソメレン。すごい陰謀に違いないと、ラミジの敵はたいがい間抜けなのですがついつい期待してしまいます。

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2001/7/25 水曜日
海に沈めた秘密 ラミジ艦長物語15』
窪田鎮夫・出光宏訳 昭和57年 1350円(本体1311円)

THE RAMAGE TOUCH

 おお、何を沈めるかって、そんなものを沈めてしまったらしいです。いつになく渋い終わり方にぞくぞくしました。
 15巻め、とうとうラミジがパパになりました(語弊あり)。めでたいです。同時に弟もできましたし(もちろん語弊あり)。いや、演技と偽装もここまでいくと楽しいです。ラミジと弟と息子の3人連れに、フランス逃避行中のシムプルくんとオブライエン(『ピーター・シムプル』の主人公とその先輩)の芸人コンビを一緒にしてみたいと思ったそこのあなた。「同志」と呼ばせていただきます。

 さて、お話は、ラミジはカリブ海勤務から地中海に戻され、独立独歩可能なフリゲート艦らしく、獲物を求めてうろうろしています。そこへ例によって例のごとく現れる2つのボタモチ、あ、いえ、2隻の敵艦が今回の冒険の発端になります。

 おなじみの面々に加えて新キャラクターも登場したのは、話の必然上かマンネリ防止策かその両方かってところですが、なかなか面白い人物でうれしいです。フルートを吹く士官、マーチン。戦いの時は彼のフルートはもちろん吹き矢になり、息を吹き込んだ時に鳴る短い音は、「悪魔の溜息」として部下の水兵達に恐れられています(あ、フルートを吹くのは本当ですけど、吹き矢は冗談ですよ)。

 今回は、部下がずいぶんと成長していました。ラミジが「子供を育てている父親」に見えるような部下達の成長具合も興味深かったです。それでもって、「それでいいのか、エイトキン!」と叫んだのは、私だけではないと思います。

 ところで前巻のラストに登場した「あの方」は、いったいあの後カリブ海でどうなったのでしょうか。一言も言及が……おやあ?

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2001/8/24 金曜日
遠い船影 ラミジ艦長物語16』
出光宏訳 昭和58年 1350円(本体1311円)

RAMAGE’S SIGNAL

 相変わらずラミジはすごいです。
 何がすごいって、「大漁、大漁」。この言葉がこれ程似合う小説を私は他に知りません。今回もまた地中海が舞台で、ラミジはカモを求めて遊弋中です。今回目をつけられた不幸なカモは、実は船ではなくて陸上のとある施設なのですけど、船を捕獲しなくてはラミジ艦長の立つ瀬がありません。そこで展開されるラミジの作戦とは?

 まあ、それはおいて。こんななぞなぞが。
「船が増えれば増えるほど減るもの、な〜んだ」
 答はジャクソンの髪の毛でも、ラミジの胸毛でも(だって生えているってパオロが証言してくれるんだもん)、サウスウィクの寿命でもありません。
 そう、「エイトキンのがみがみ」……でもなくて、「乗組員」です。
 だんだんと「おいおい、本当に船を動かす人数は大丈夫なのか〜」と心配で仕方なくなってくるのですが、最後まで「次はどうする? どうなる?」という緊張感を持続させてくれました。

 さて、今回気になったのはジアナの存在です。明らかに、ラミジはジアナとの関係に秋風を感じているようで、彼女の話題が出る度にひとり物思いに沈んでいます。今回は女性が絡んでくる話ではないだけに、ラミジのこの心変わりが「んん?」という感じでした。

 そして今回一番びっくりしたのは、ラミジの胸毛(まだ言っている)もそうなのですけど、ロッシがちょっぴり太目さんだったことでしょうか。ひょっとしたら最初の段階からそうだったのかもしれないのですが、スタフォードとロッシはいつもてきぱきとすばしっこいので、太るのとは無縁かと思っておりました〜。

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2001/10/4 木曜日
孤島の人質 ラミジ艦長物語17』
影山栄一訳 昭和58年 1350円(本体1311円)

RAMAGE AND THE RENEGADES

 邦題は「孤島の人質」ですが、原題の「Renagades」は「背教者」とか「裏切り者」という意味です。
 裏切り者と言いますと、あの人かあの人か、それとも。
 候補者がたくさんいます。それで複数形のSがついているのかしらということで。

 「孤島の人質」と聞いて、てっきり人質はたった1人で、名前を「トマス・ヘリック」というのかとか(シリーズが違う!)、あるいは宝石の名を冠した船を持つゴージャスかつすてきな船乗りシドニー・ヨーク氏が捕われているのかとか、いろいろ考えてしまいましたけど、さてどうだったでしょう?

 冗談はおきまして、今回のラミジの活躍は、まずはフランスとの講和の話題に父親である「ぶっぱなし親父」と共に最新の新聞を奪い合うことから始まります。
 フランスとの和平はかりそめのもの、必ずナポレオンはまた戦争を起こすとラミジ親子は確信しています。
 とはいえ、平時になってしまい、ラミジに与えられる任務もそれらしいものになりました。
 「講和条約の条項から漏れて帰属不明となっているとある島に行って、イギリス領にしてくる。もちろん測量や地図作り、作物の植え付けもよろしく」
 その任務のためにカリプソ号に乗り込んできたのは、いつもと違う顔ぶれです。測量技師2名、製図技師2名、画家と農業技師が1名ずつ。これに従軍牧師が1名加わるのですが、この牧師(自称パーシバル・ストーク師)にまつわるカリプソ号士官たちのやりとりがまた面白いのでした。
 おなじみの登場人物たちがいきいきと動き回って今回もまた楽しいです。特に巻頭のトリニダデ島の地図を見ると、自然とほほえみが浮かびます。
 ラミジの人間関係にも大きな、けれど静かな変化もあり、ラミジの成長(成熟?)具合をひしひし感じられもしました。

 さて、今回の注目はレディー・サラーです。ラミジとはいきなり裸のおつきあいです(誤解を招く表現)。
 これは運命の出会いになるのか、それとも。
 タイトルの「裏切り者」は、ジアナを裏切って他の女によろめくラミジも含んでいたりしてと思うのですが、今さらですね(ええ、いろいろな意味で)。

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2001/10/31 水曜日
悪魔島 ラミジ艦長物語18』
小牧大介訳 1985年 1350円(本体1311円)

RAMAGE’S DEVIL

 悪魔島といいましても、べつに悪魔がうろうろして人に悪さをするおどろおどろしい謎の島というわけではありません。それはフランスの政治犯が送られる流刑島「イル・デュ・ディアブル(悪魔島)」……怖いです。
 前巻からの流れで、イギリスはフランスと一時休戦中です。革命の猛威の中、国外に出ていたフランスの貴族たちも三々五々フランスに戻ってきます。けれど、また戦争が起こった時、彼らのほとんどが海を隔てた英国に逃げていたがために英国の協力者である可能性を問われ、とらわれの身となります。対英戦争と仏革命の両方で、利益が一致してしまうこのあたりの展開が恐ろしいと思います。
 そしてとらえられた人々が送られる悪夢の島、それが『悪魔島』です(ぶるぶる)。

 たいへんなのはラミジ艦長です。とある晴れがましい事情から戦争勃発当時、不幸にもフランスにいたラミジは、まずフランスを脱出しなければなりません。脱出しても、艦とも乗組員とも気心の知れたカリプソ号に戻れるかどうかはわかりません。戦争が再び始まった今、艦長不在のままカリプソ号のような素晴らしいフリゲート艦が放っておかれるはずはないからです。

 さて、カリプソ号とラミジの運命やいかに! 実はどっちもたいへんなんです、これが。
 悪魔はどこにでも現れるものだなあ、と思いました。

 今回のすてきな人は、まるで漫才をしているかのようなとある提督と旗艦艦長のコンビです。まあ話術に長けた方々で、読みながらザブトンをどこで出せばいいかしら〜とほくほくでした。「相変わらずひょうきんな奴だな」と提督に言われるベネット艦長と、そのベネット艦長に楽しくしゃべらせてふさわしい答を導き出してくるクリントン提督。たまにはラミジもいい上司に恵まれないとたまらないですものね。
 いつかラミジもこういう旗艦艦長になったり、こういう提督になったりするのでしょうか。いや、どうでしょう。ぷぷぷ。

HOMEラミジ部屋一番上

2001/11/28 水曜日
狂気の目撃者 ラミジ艦長物語19』
小牧大介訳 1986年 1350円(本体1311円)

RAMAGE’S TRIAL

 ラミジの魅力はなんでしょう?
 人によってそれは「おなじみの気のいい部下たち」だったり、「おまぬけな敵」だったり、「すてきなヨーク船長」もしくは「ラミジのぎゃふんな大作戦」だったりするでしょう。
 けれど、ここはあえてこう申し上げねばなりません。
 ラミジの魅力、それは「軍法会議」です、と。

 はい、お久しぶりの軍法会議です。もちろん被告人はラミジです。対する軍法会議の議長はあのなつかしのゴダード提督で、もうまともな進行などは望めません。戦列艦で押し寄せる敵よりも恐ろしい、上司の嫉妬と恨みの網にとうとうひっかかってしまった《さえずり》艦長ニコラス・ラミジ。この窮地を脱するために救いの手をさしのべる人々に囲まれながら、どこかあきらめてしまっているのが今回特徴的なラミジでした。

 そのラミジの両頬を張って力づけ、この世につなぎとめた観のある女性がこのお話のイチ押しアレクシス嬢です。この方はさる好人物のお身内でして、ポープさんお得意の元気で勝ち気ではっとするような美貌の娘さんに書かれています。ラストまで読んだ時、なぜアレクシスが登場しなければならなかったかがわかったような気がしました。
 ジアナをはじめクレール、サラーなど、ラミジシリーズには魅力的な女性が惜しげもなく登場しますが、私はアレクシスさんに非常な好感を持ちました。出会う順番が違っていればひょっとして……と思わないでもないあたり、以後の展開が気になります〜。

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2002/1/4 金曜日
ナポレオンの隠し札 ラミジ艦長物語20』
小牧大介訳 昭和61年 1350円(本体1311円)

RAMAGE’S CHALLENGE

 新婚ほやほやの奥さんは行方不明。
 かつて愛した女性も行方不明。
 ……なのですが、いまひとつ「心配だわ〜」にならないのは「ラッキー・ラミジ」のこれまでの経験上からでしょうか。おそらく「あらまあ、こんなところで」な解決方法が示されるのだろうと思っておりましたらば、はい、この先は読んでからのお楽しみということで。

 今回のラミジの任務も人質救出大作戦です。人質がどこにどんな状態で捕らわれているのか、そんな調査から始めなくてはりません。
 そこで。
 情報収集に欠かせないのが「ラミジ版スパイ大作戦」です。偽装です。またぞろラミジ一座の出番です。今回は新しい将校を1人加え、さらに俳優陣が強化された観があります。ラミジとエイトキンの腹のさぐり合いのような会話もますます冴えて、偽装に次ぐ偽装の今回もまた目が離せない展開に。だまされた相手がほんとうにかわいそうになります、はい。

 おすすめキャラクターは人質の1人だったアルフレッド・カーギル陸軍少将です。この人がまた困ったちゃんでして。
 自分は大人物だという自負心だけは強いので(実際は小物)、とにかく挟まなくていい口を挟み、つっこまなくていいところにつっこみを入れる、人質仲間からも嫌われているとっても迷惑な人です。けれど、こんなトンデモナイ人にも負けない(負けたらなおトンデモナイことになるとわかってる)強いラミジが見られるのは気持ちいいです。
 さあ、人質救出作戦は成功するのか。また、最後までカーギルは嫌な奴なのか。手に汗にぎります。

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2002/1/24 木曜日
トラファルガー残照 ラミジ艦長物語21』
小牧大介訳 1987年 1350円(本体1311円)

RAMAGE AT TRAFALGAR

 とうとう来ました、トラファルガーの海戦。
 今回のラミジは、ネルソン提督の親衛隊もとい艦隊の一員として働きます。
 が、配属されて最初の任務は、やはりと言いますかなんと言いますか、隠密任務だったりするのが不憫です。切っても切れない縁、切っても切っても同じ顔の金太郎飴。それがラミジと隠密任務のくされ縁ということで。

 さて、ネルソン提督の愛されっぷりはどの帆船小説を読んでも一読の価値ありですが、ラミジのネルソン提督もすごく魅力的です。奥さん(エンマ・ハミルトン夫人)と愛娘のホレーシャを心から愛していて、全身でのろけている感じがするのもそうですし、海に出ててきぱきと采配をふるう姿もすてきです。
 そんなネルソンを上司に、仏西合同艦隊と世紀の大海戦に挑むラミジ。
 ラミジの指揮するカリプソ号はフリゲート艦のため、戦列艦同士の戦いには参加しないのが不文律なのですが、何しろカリプソ号の乗組員たちは、
「えっ任務? まさかおいらを 外す気か?」だの、
「艦長が 選ぶ前から 立候補」だの、
「選考に 漏れても必死で 食い下がれ」だの、
やる気まんまんな連中がそろっております。それが憧れの提督と一緒に働くこんなすばらしい機会に、指をくわえて見ていられるでしょうか。実はいちばんそこが気がかりだったりして。

 ひそかにフリゲート艦ユーリアラス号のブラックウッド艦長が好きでした。
 ラミジと接触が多くて、自然と出番も多かったとはいえ、特にめざましいご活躍は描かれていないのですけど。馬車を飛ばしてネルソン提督の伝言をラミジに持ってきた姿がやたらと誠実に見えました。

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2002/3/2 土曜日
サラセンの首 ラミジ艦長物語22』
小牧大介訳 1989年 1340円(本体1301円)

RAMAGE AND THE SARACENS

 ラミジの今回の任務は海賊退治です。それと、海賊にさらわれた人々の救出です。
 ここでいう海賊はアラブ人のことで、他にもサラセン人、アルジェリア人、バーバリー人といろいろな呼び方で呼ばれています。

 海賊たちは地中海を荒らし、イタリア人などの男女をさらっていきます。男はガレー船の漕ぎ手にするため、女は売春宿で慰み者にするためです。

 ここらへんの描写は読んでいてかなり辛かったです。
 さらわれた男女を待っている人生は、命をすりつぶされるような過酷な奴隷の日々です。連れ去られた男女の家族にとっても、悲嘆にくれるにはあまりに長すぎる生です。連れ去られたこと自体も悲しければ、彼らの運命を思っても悲しいのです。
 何世紀もの間くり返されてきたこととはいえ、それで悲しみがやわらぐものでもありません。

 そんなわけで、被害にあう人々のサラセン人(イタリア人は海賊のことをこう呼ぶそうな)に対する恐怖と憎しみは限りありません。
 ラミジが今回の任務に成功することは、これ以上の悲劇を生まないためにもどうしても必要なのでした。

 とはいうものの、もう1つ別の面がつらかったりしました。
 このお話でサラセン人に襲われ、奴隷にされるのはキリスト教徒です。ラミジは思います、「やつらは、自分と同じ神を拝まない者は、殺そうが奴隷にしようがかまわないと信じている、文字どおりの野蛮人なのだ」(184頁)。
 掠奪される側に立てばたしかにそう言うしかないなあと思いながら、頭の中は別のことを考えはじめました。
 キリスト教徒が黒人に対してこの時代にしていること(したこと?)を思いました。黒人の場合には、宣教師が洗礼を受けさせ、同じ神を信じることになってもなお奴隷として扱いました。黒人に洗礼を施すことは、黒人に魂の救済を与えることであり、奴隷労働はその代償だと考えられていたそうです。
 ラミジ自身は奴隷貿易には反対だったかと思いますが(うろ覚え。奴隷船は3巻で出てきましたけど)、違う神でも同じ神でも起こる悲劇なら、救いはどこにあるのかとものすごく暗澹とした気分になりました。お話の流れから完全に離れてしまって悩むのもどうかと思いますけど、まあ、そんなことを考えました。

 ともかくお話に戻りましょう。
 ラミジは相変わらず無茶な命令を言いつけられますが、今回は僚艦にフリゲート艦をもう1隻、スループ艦も2隻つけてもらって、小さな船団の指揮もしたりします。最後の最後であっと言わせる出来事もあって、ラミジの成長ぶりが楽しい1冊でした。
 次が最終巻なのが切ないです。くうっ。

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2002/4/7 日曜日
マルチニク島の新月 ラミジ艦長物語23』
小牧大介訳 1990年 1340円(本体1301円)

RAMAGE AND THE DIDO

 はい、とうとう最終巻です。
 本の最終頁に至誠堂さんの「謹告」と題した紙片が挟まっていまして、作者のポープさんが高齢のため続刊の可能性が薄いという連絡を受けたことと、ラミジ艦長物語を全23巻とすることとが簡潔かつ丁寧に書かれていました。この後、ポープさんはお亡くなりになったということですね。黙祷。

 今回のラミジの任務は、まずは妻との3週間の休暇を楽しむことでしたが、これは5日目にしてもう瓦解してしまいました。提督のように何でも報告書を求める奥様でなくて幸運です、ラミジ。
「それで、愛しのあなた。どういうことかしら。休暇はまだ5日目よね。あと16日も残っているわよ。私は引き算が得意なの」
「いや、その、海軍委員会から任命書が……」
「書面にして即刻提出!」
 そんなあたたかい家庭(あくまで想像)からもひきはなされても、ラミジは実はごきげんです。というのは、1つには戦列艦の指揮を命ぜられたこと。もう1つは、魔法を使いでもしたような、前代未聞のあるはからいがあったことです(ほんとに魔法みたいでした)。
 そして我らがラミジ艦長は、戦列艦で人員が増えた分、新しい乗組員を連れておなじみの西インド諸島へ向かいます。捕獲賞金銀座西インドですが、今回ラミジが操るのは稼ぎ頭のフリゲート艦ではなく戦列艦です。さあ、その成果やいかに?

 ラミジ、今回は本当に上司にも部下にも恵まれ(一部いけない5等海尉もいましたが)、順風満帆という感じでした。艦長室の家具も新調し、新しい長椅子でうはうはの一席将校と、同新しい安楽椅子でにっこりの航海長も見たかったですねえ。

 注目はこの方、新しく乗り組みのベンジャミン・ブルースター従軍牧師です。が、この人はなかなかいいです。「説教は10分間で」とラミジが希望すると、「それでもまだ長いぐらいです」と確信をもっておっしゃいます。なんかもう、よくもこんなラミジの艦にぴったりの方がいたものだと(笑)。
 まだまだ続きを感じさせながらもこの巻で終わってしまったことが惜しまれます。
 でも、続きを感じさせてくれる分、登場人物達が生き生きとしたまま胸に残ります。私の手元にこの本をもたらしてくれたすべての方々に、ありがとうございました。

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おしまいです。おつかれさまでした。

背景素材:トリスの市場