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スズメバチの方言


私たちが一般的に呼んでいる昆虫の名前(通称)を”標準和名”と言い,分類上の世界共通の名前は”学名”と言います.それ意外にも地方によってさまざまな呼び名(地方名・方言)があります.

スズメバチにも地方によりさまざまな呼び名があります.攻撃性の強さから人に刺傷被害を与え恐れられているオオスズメバチやキイロスズメバチ,古くから食用とされたクロスズメバチなど,人との接点が多い種類に多くの呼び方があるようです.


キイロスズメバチ Vespa simillima xanthoptera Cameron, 1903 アカバチ・カメバチなど
標準和名 学名 地方名・方言

カメバチ(瓶蜂)やトックリバチ(徳利蜂)のように巣の大きさや形を表したもの,アカバチ(赤蜂)やクマンバチ(熊蜂),イッスンバチ(一寸蜂)のように成虫の色や形を表したもの,スズメバチの攻撃性の強さに由来すると考えられる名前など実にさまざまです.

オオスズメバチのことを”クマンバチ”あるいは”クマバチ”と呼ぶことがあります.これは体が大きくて攻撃性が強いのをクマ(熊)にたとえたのでしょう.ただし,クマバチというハチは別にいるので大変紛らわしいのですが・ ・ ・.

もう少し細かく分けて,オオスズメバチのことを”オオクマン”,コガタスズメバチのことを”コクマン”や”ショウクマン”,キイロスズメバチを”チュウクマン”と呼ぶ地方もあります.これはハチの大きさではなく攻撃性の強さを表しているようです.

キイロスズメバチは東北地方では”カメバチ”と呼ばれています.これは大きな巣を瓶に見立てた呼び方です.東海地方では”アカバチ”と呼ばれていますが,これは飛んでいる成虫に日の光が当たると,赤っぽく(オレンジ色)見えるからです.

蜂の子を食べる習慣が中部地方を中心に全国各地に残っています.そのため,クロスズメバチやシダクロスズメバチにもたくさんの呼び名があります.両種とも地中に巣を作るため”ジバチ(地蜂)”やドバチ(土蜂)”と呼ばれることが多く,東北から甲信にかけては”スガレ”,”スガリ”などと呼んでいます.この”スガレ”や”スガリ”は古歌に出てくる乙女の枕詞の”すがる”が語源と考えられ,”腰細のすがる乙女”というような使い方をします.本来はジガバチの古い呼び方ですが,クロスズメバチの仲間にも使われるようになりました.

東海地方では一般に”ヘボ”と呼ばれ秋になるとヘボ採りに熱中する人も少なくありません.また成虫の色が白黒班であることから”ハイバチ(灰蜂)”と呼ぶ人もあります.


ハチを始め虫の方言は各地にたくさん残っています.興味のある方は斉藤慎一郎著 虫と遊ぶ (虫の方言誌) 大修館書店(1996) が大変参考になります.