TOP > スズメバチはなぜ刺すか? |
スズメバチなどの集団生活をするハチは,外敵から巣を防衛する手段として攻撃性が発達しているため,直接,間接を問わず巣に刺激を加えると毒針を武器にして攻撃してくる. 毒針は産卵管が変化したものなので,刺すのはメスだけでオスは刺さない.巣を守るという役割は働きバチと呼ばれるメスが受けもっている.女王バチも毒針を持っているが働きバチほど攻撃的ではなく,女王バチによる単独営巣期には,巣をつついても女王はそのまま逃げ去ることがほとんどである.
攻撃の方法は,ハチの体が相手にぶつかった瞬間に反射的に刺し,すぐさま針を引き抜いて相手から離れるのが一般的である.しかし,スズメバチの場合は,再度体制を立て直して攻撃してくるだけでなく,毒液(興奮物質)を相手の体や衣服に向けてまき散らす.この液は警報フェロモンの働きを持っており,速やかにその場を離れないと,さらに多数のハチの攻撃を受けることになり危険である.体当たりした際に6本の脚で相手にしがみつき,大顎で噛みついたまま何度も刺す.スズメバチの毒針はミツバチのように人を刺しても抜けることはなく,毒のある限り何度でも刺すことができる.
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いずれの種類も不用意に巣を刺激しない限り,いきなり攻撃してくることは稀である.オオスズメバチとキイロスズメバチは攻撃性が強く,しばしば刺傷被害が発生する.秋口に集団被害の原因となるのも主にこの2種である.
スズメバチの巣では,警戒行動として常に門番(見張り役)のハチが巣の周囲を警戒している.オオスズメバチやキイロスズメバチでは,巣に静かに接近した場合でも,数m〜10m以内に近づくと働きバチによる警戒行動が見られる.巣に近づきすぎたり軽い刺激を与えると,巣内から多数の働きバチが外に出てきて外皮上に止まり,触角をやや開き,翅を開き気味にした威嚇のポーズをとって歩き回る.もう少し接近したり強い刺激を与えると,ハチは外皮上や付近を走り回ったり,周辺を飛び回るが,興奮もしだいに収まり,2〜5分後には順次巣内に戻る.
更に巣に近づくと巣から飛び立った働きバチが接近し,体にまとわりつくように周囲を飛び回る.その際には”ブンブン”という大きな羽音の他に,大顎を噛み合わせて出す”カチカチ”という大きな威嚇音を出す.この段階で静かに巣から離れれば攻撃を受けずにすむが,さらに巣に近づいたり,急に体を動かしたりすると一斉に攻撃してくる.
攻撃性の強さは営巣規模とよく一致しており,規模が大きな種ほど危険である.攻撃性は強い方から,オオスズメバチ>=キイロスズメバチ>モンスズメバチ>=コガタスズメバチ>=ヒメスズメバチの順になっている.
コガタスズメバチは比較的攻撃性が弱く,巣に振動を与えたり急な動きをしなければ1m〜2m程度まで近づいても攻撃してくることはない.しかし,ひとたび刺激を加えると一斉に攻撃してくるので注意が必要である.ヒメスズメバチは巣を直接刺激しても刺すことはほとんどないが,威嚇性が強く体にまとわりつくように周囲を飛び回る.
ただし,同じ種であっても,コロニーの発達段階,巣への干渉(いたずらなどで投石を受けたり,何らかの理由で刺激を受けた巣),オオスズメバチの飛来(秋口にオオスズメバチが飛来すると,オオスズメバチの集団攻撃に対する警戒心が強まる),女王バチの有無(女王バチが死亡するとしばらくの間巣内の緊張が高まる)などによっては警戒や反撃する行動が高まり,素早い攻撃を加えてくることがあるので注意が必要である.
いずれの種も巣に物理的な刺激を加えなければ,かなり近くを繰り返し通行してもハチは人間に関心を示さないばかりか,逆に反応を示さなくなることが知られており,営巣場所の状況次第ではハチとの共存が可能である.
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刺傷被害(以下被害)の大半は 8月〜10月の3ヶ月間に発生し,中でも9月が最も多くなっている.被害の発生件数はコロニーの発達状況とよく一致しており,いずれの種も巣が大きくなり活動が活発となる時期ほど危険である.
また,8月〜10月には,オオスズメバチが他種のスズメバチの巣を集団で攻撃し,幼虫や蛹を餌として持ち帰るようになる.その前段階として偵察バチが飛来するようになると,キイロスズメバチやモンスズメバチでは巣全体が神経質になり,人が巣から数m〜15m以内に近づくと攻撃してくることがある.
コガタスズメバチによる被害は9月が最も多く、次いで8月,10月の順となっている.樹木に作られた巣が原因となって発生する場合が多く,庭木の手入れなどで誤って巣に触れたり,枝などを揺らして巣を刺激した結果刺されたケースが半数以上を占めている.
キイロスズメバチの被害は5月〜11月と長期にわたっている.8月が最も多く次いで9月となっている.これは初期の営巣場所が手狭になると軒下などの開放空間に引越をする習性があり,それが被害の増加につながっていると考えられる.たまたま近くを通行したか,近くにいただけで被害にあっており,本種の攻撃性の強さがうかがわれる.
オオスズメバチは地中や樹洞に営巣することが多く,近くを通行した際の振動が巣に伝わり攻撃されることがある.そのため集団被害が発生しやすいので注意が必要である.被害は他の種とは異なり10月が最も多く,次いで9月となっている.秋になり山野に出かける機会が多くなると被害が増加すると考えられる.
秋の行楽シーズンになると野外活動に出かける機会が多くなり,スズメバチによる集団刺傷被害がしばしば発生している.発生場所は大半が山の中であるが,都市近郊でも同じような被害が発生する可能性があるので油断は禁物である.いずれも集団で巣の近くを通行したり動き回った結果被害が発生しており,集団の中に子供が含まれているケースが半数以上を占める.
被害の原因となったスズメバチの種は,大半がキイロスズメバチかオオスズメバチのいずれかだと考えらる.キイロスズメバチは営巣規模も大きく攻撃性も強いため,野外活動の際には注意が必要である.9月以降は,営巣活動が最盛期を迎え,防衛本能が高くなるとともに,オオスズメバチの襲撃に対して警戒態勢に入っていて,付近を大勢で通行すると突然攻撃してくることがある.
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刺された後の症状は個人差が大きく,またハチの種類や毒の量,刺された場所やその時の体調等によっても反応が異なるが,一般的には激しい痛みと刺された場所が赤くなったり腫れたりする.このような即時型の反応はハチ毒中のヒスタミンやセロトニンなどのアミン類の直接作用によるもので,普通数時間程度で消失する.
その後,遅延型の反応として刺傷後2〜3日目をピークに1週間程度腫れが続くことがあるが,これはアレルギー反応によるものである.症状は1週間程度で軽快するが,腫れが引いた後もしばらく痒みが続く.時にはもっと遅く,1週間位たってから症状が現れる場合もあるので注意が必要である.その他,軽症の場合でもに蕁麻疹や体のだるさ,息苦しさを感じることがある.
中程度の症状としては,のどがつまったような感じや胸苦しさ,口の渇き,腹痛,下痢,嘔吐,頭痛,めまいなどがみられる.
重症になると意識がハッキリしなくなり,さらに悪化すると,痙攣を起こしたり意識が無くなる他,血圧の低下がみられ,希には死に至ることがある.ショック症状が現れるまでの時間が短いほど危険性が高いので注意が必要である.子供のハチ刺傷による症状は,ひどい場合でも全身性蕁麻疹や血管性の浮腫などで,重症になることは少なく,ショック症状を起こすことは極めて稀とされている.
頭部や手(腕)を刺される事例が目立つが,これはスズメバチが黒い色や,動くものを攻撃することが多いためである.ハチ刺されとその後の症状については,刺されてみないと分からないというのが実状である.しかしながら現在までの報告から,次のような条件に当てはまる人はハイリスク(危険性が高い)と考えられるので十分な注意が必要である.
●40歳以上の男性 ●以前刺された時症状が重かった ● 抗体価が高い
ハチ毒の成分は大きく分けてアミン類,低分子ペプチド,酵素類の3つの区分される.刺された時の激しい痛みはヒスタミンやセロトニンなどのアミン類や,ハチ毒キニンなどにより引き起こされる.その他,肥満細胞に作用し,ヒスタミンを遊離させる働きをする成分や,血圧降下,平滑筋収縮,組織破壊などを引き起こす成分が含まれていて,さまざまな症状を引き起こす.
ハチ毒にはホスホリパーゼAやヒアルウロニダーゼなど多数のアレルゲンが含まれており,種により異なっているが,分類学的に近縁関係にあるスズメバチとアシナガバチでは,共通する成分も少なくない.
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抗体価は一般に刺された後1〜2週間で高い値を示すが,時間の経過とともに低下するのが普通である.大多数の人は約半年から1年位で抗体価が1/2以下に低下するが,全く変わらない人もいる.また過去に刺されたことがないにも関わらず抗体価が高い人もあるので注意が必要である.この場合は時間が経過しても抗体価はあまり低下しない.このように抗体価が低下しない人は血液中の総IgE値(アレルギー体質の目安になる)が高い傾向がある.再刺傷により抗体価は再び上昇するが,上昇の程度は必ずしも同じではない.
スズメバチとアシナガバチの毒には共通性成分が多く交差性が認められる.スズメバチに刺されてもアシナガバチの抗体価が上昇するケースや,この逆もあるので,アシナガバチにも刺されないように注意する必要がある.またミツバチについてもスズメバチやアシナガバチと交差性が認められるケースもある.
スズメバチ,アシナガバチ,ミツバチの3種のハチ毒について,血液中のIgE抗体価を検査することができる.ハチに刺される危険性の高い人や,以前刺された時に症状が重かった人は,かかりつけの医師か最寄りの病院などに相談し,抗体検査をして自分の抗体価を知っておくと良い.
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免疫反応はウイルスや細菌,異物など(抗原)が体内に侵入した時にこれを排除する仕組みで,抗原抗体反応とも呼ばれている.最初の侵入により体内に抗体が作られるため,同じ抗原が2回目に体内に侵入した時には,1回目よりも急速で強い反応が起こる.
この免疫反応が生体に不利に働き,さまざまな障害を引き起こす場合をアレルギーという.アレルギー反応は,発症までの時間が短い即時型反応(T型,U型,V型)と,発症まで時間がかかる遅発型反応(W型)の4種類に分類され,それぞれ関与する細胞や物質が異なっている.アナフィラキシーはIgE抗体が関与するT型アレルギーにより引き起こされる.
ハチ刺傷により抗原となる物質(ハチ毒)が体内に取り込まれると,ハチ毒に対する特異的IgE抗体が作られ,体内で肥満細胞と結合する.これを感作の成立という.
2回目の刺傷により抗原(ハチ毒)が再度体内に取り込まれると,肥満細胞の表面で抗体と結合し(抗原抗体反応),その結果,肥満細胞が活性化され,ヒスタミン,ロイトコリエンなどの化学伝達物質が体内に放出され,体の各臓器に作用して,くしゃみや鼻づまり,じんま疹などの様々な症状を引き起こす.
この反応は極めて短時間(数分〜30分以内)に起きるため,即時型反応といわれる.このうち,呼吸困難や血圧低下などの全身的な反応をアナフィラキシーと呼び,生死に関わる重篤な症状を伴うものをアナフィラキシーショックという. ハチ刺されによる死亡例は,ほとんどがアナフィラキシーショックによる血圧の低下と上気道の浮腫による呼吸困難が原因で,症状は極めて短時間で発現する.症状がでるまでの時間が短い程重症になる可能性が高く危険である.少しでも変わった症状がみられたら速やかに医療機関に受診する必要がある.
ハチ刺傷によるアナフィラキシー症状を緩和するための自己注射器「エピペン」が,医師の処方により入手できるようになったので,抗体価が高く被害に遭う可能性の高い人は携行すると良い.
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