雨紋雷人は悩んでいた。
今まで過ごしてきた生涯の中で、これほどまでに悩んだ事が合っただろうかという程に、頭を悩ませていた。
「あああ、一体あの人はナニを考えてんだよ」
取り敢えず片付けられた部屋の中で、雨紋は七転八倒していた。
事の始まりは、龍麻の一言だった。
「綺麗な曲が入ったCDがあるんだ。今度、それ持って泊まりに行っても良い?」
そんな風に可愛く言われて断れる男がいたら見てみたいぜ。
「じゃあ、今度の金曜日、学校が終わったら泊まりに行くね」
そのとき俺に出来た事といえば、ただ嬉しそうに去っていくあの人の後姿を見送ることだけだった。
自分の言ったことの意味を分かっているんだろうか?
雨紋はどうしてもそこが気になって仕方がなかった。
お互いの気持ちは当の昔に伝え合っていて、今は相思相愛の仲な筈。なのに、なのに、なのに、なんで、キスから先に進めないんだ。
拒まれてるわけでも、拒絶されているわけでもないのに、いざそういう雰囲気になるとタイミング良く(良くねーよ)ボケられてしまう。
もしかして、さり気なく拒絶されているのかと思うと、暗くなってしまう雨紋であった。
「はぁ、俺の方はマジでヤバイってのに」
雨紋とて健全な男の子(たとえ相手が同じ同姓であろうとも)、好きな子が近くにいて欲望が目を覚まさないわけが無い。なんとか、意思の力で押さえては来たものの、付き合い出して3ヶ月、若い欲望の限界は当に過ぎていた。
8時には着くようにすると言っていた龍麻だったが、見上げた時計はもうとっくに8時を回っていた。
土壇場になってやっぱり嫌になったんだろうか?
そう思う心を隠しながら龍麻の家へ電話を入れてみると、7時には家を出ていると言う答えが返ってきた。
道に迷ったのか?いや、地図は渡してあるし、そんなに分からない場所じゃない。誰かに絡まれた。いや、あの人に勝てる野郎なんて・・・。そこまで考えて、雨紋は上着を掴むと家を飛び出した。
あああもうっ、あの人が襲われるなんてことは、間違っても無いって断言できるけど、心配なものは心配なんだよ。
龍麻が通ってくるだろうルートを逆に辿って行くと、小さな公園に突き当たった。
まさか、こんな所で遊んでたり・・・してるし。
半信半疑で覗きこんだ公園の、ジャングルジムのテッペンに、龍麻の姿があった。
「おいおい、龍麻さん。こんなトコでなにやったんだよ」
どうしても呆れた様な口調になってしまうのは、この際目を瞑ってもらうしかない。
「あっ、雨紋。ほらっ、今日は星が良く見える」
無邪気に空を指し示す龍麻の姿に、雨紋は盛大なため息をついた。
「・・・もしかして、探しに来てくれたとか?」
少しは悪いと思っているのか、声の調子が変わった。
「ああそうだよ。俺と一晩一緒に過ごすのが嫌になったのかと思ってね、確かめに」
そう言うと龍麻は困ったように目を伏せた。
「よっと・・・」
龍麻が座っている一番上まで登ると、冷えてしまった肩に持っていた上着を掛けてやると、上着ごと龍麻の体を抱き寄せた。
「別にさッ、俺がどう思うとか気にしなくて良いから、あんたの気持ちを聞かせてくれないか?」
「俺の気持ち?」
「ああ、前にも言った通り、俺はあんたのことが好きだ。好きだから、キスしたいと思うし、抱きしめたいと思う。あんたの全部を俺のモノにしてしまいたいと思う。つまり、俺はあんたのことを抱きたいと思ってる。けど、あんたの心の決心が付かないんなら、付くまで待つ。そりゃ、早いに越したことはねーけど。 それに、あんたがそれだけは嫌だって言うんなら、気が変わるまで待つ。だから、あんたの気持ちを教えてくれ」
言い切った雨紋の耳に、クスクスと押さえるような忍び笑いが聞こえた。
「諦めるっては、言わないんだ?」
まだ口元に笑みを残しながら、龍麻は仰ぎ見るように雨紋の目を覗き込んだ。
「当然だろ。気が変わって俺に抱かれてくれるのを待つ方がずっといい」
「って言うか、待ってても気は変わらないと思うよ」
なにがそんなに楽しいのか、クスクスと笑いながら龍麻は、雨紋の胸に頬を寄せた。
「ここで最後の確認をしてたんだ。雨紋になら、男のプライドの線、大幅にずらしてもいいかなって」
「龍麻・・・さん?自分の言ってること分かってるのか?」
突然の『棚からぼた餅』状態に対応できていない雨紋に、龍麻は優しく微笑むとそっと耳元に唇を寄せた。
「雨紋が相手じゃなかったら、男に抱かれるのなんて真っ平だよ。雨紋だから我慢・・・ううん、雨紋だから、抱かれたいって思うよ」
おそらく赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、雨紋の肩に埋めるようにして顔を隠した龍麻は、突然強く抱きしめられた。
ったく、分かってんのかね、この人は。こんなこと言われて狼にならない男がいるはずねーってのに、無防備過ぎるッスよ。
腕の中に抱きしめた自分より一回り小さい体は、嬉しそうに首に手を回してしがみついて来る。
「あったかい・・・」
耳元で呟かれた吐息が、雨紋の体に火を点けた。
「龍麻さん、部屋・・・行こう」
「・・・うん・・・」
耳元に口付けるように囁くと、恥ずかしそうに龍麻が頷いた。
その仕草が雨紋の火をさらに煽る事になったとは、龍麻は露とも気づいていなかった。
「龍麻さん・・・ここ、座って」
ベットに座った雨紋の手に引かれて、龍麻は跨る様に雨紋のひざの上に腰を降ろした。
「なんか、この格好って恥ずかしい・・な」
並みの女より色っぽい仕草で目を伏せる。
こういうこと無意識でやってるんだから、たまったもんじゃねーよな。
「龍麻さん、するよ。いい?」
その小さな頬に手を添えて視線を合わせると、受け入れてくれるその笑みに誘われて唇を重ねた。
「んっ…」
口付けの合間に洩れる甘い声を聞きながら雨紋は、龍麻の着ていたシャツのボタンに手を掛けた。
ボタンが外されていくごとに龍麻の体が強張るのが、雨紋の手に伝わってきた。
「あンたを傷つけるようなことは絶対しないから…」
囁かれた言葉に、ほんの少し龍麻の体から力が抜けた。
スルリと肩からシャツを落とすと、日に焼けない龍麻の白い肌が雨紋の目に飛び込んできた。
「あっ…」
吸い寄せられるように雨紋の唇が、龍麻の肌に触れた。
「…っ…んん」
ピチャリと胸の突起を舐め上げる舌の感触に堪えきれなくなって、龍麻の手が縋る様に雨紋の髪の中に潜り込んだ。
ピチャピチャと絶え間無く続く濡れた音が、次第に下肢へと下がっていく感覚に、龍麻は嫌々をするように首を振った。
ゆっくりと上体が倒されシーツの上に横たえられた。
「…雨紋…」
頼り無げなその声に答えるようにそっと唇を啄ばんでやると、安心したように甘い吐息が洩れた。
「…っ…」
雨紋の手がジーンズの中に滑りこんで、龍麻のソレに指を絡めた。
「あっ!…んん」
始めて他人の手を敏感な場所に感じて、龍麻はどうして良いか分からなくてきつくシーツを握り締めた。
根元からやんわりと握りこまれて、もどかしいような刺激が与えられる。
はっきりした快感を求めて龍麻に声を上げさせたいのか、焦らすような愛撫が龍麻の体に降り注いだ。浅い呼吸和繰り返す胸の飾りを指で摘むと少し強く摘んでみる。それだけで敏感な龍麻の体は、雨紋の思い通りの反応を見せる。
「やあっ…」
ぷっくりと立ちあがった突起に軽く歯を立てて声を上げさせると、滑らかな肌の上を雨紋の舌が目的に向かって滑り降りていく。
「やっ…だめっ…」
手の平で可愛がられて立ち上がっていた龍麻のソレに、ちゅっと音を立ててキスをしてやる。
「んーっ…」
他人の手すら始めてのその場所に、唇の柔らかな感触を感じて、なんとか逃れようと龍麻は身を捩った。
「だめっ!…」
拒絶の言葉が龍麻の口から叫ばれても、雨紋は聴く耳を持つ様子もなく、嬉しそうに龍麻のソレに舌を這わせた。
「ああっ…雨…紋」
くちゅ、くちゅと淫靡な音が龍麻の感覚を犯していく。
「龍麻さんのココ、感じてるぜ」
透明な滴を溢れさせているソレは、後ほんの少しの刺激で激情を吐き出せるほどに高められていて、じっと見つめる雨紋の視線だけでも、イッてしまいそうな程に感じていた。
「やぁっ…んんっ…」
我慢の無い龍麻のソレを、戒めるかのように根元を指で締め上げる。
「ねぇ、龍麻さん。気持ち良い?何にも言ってくれないと、して良いのかわかンないぜ?」
十分感じているのを知っていながらも、自分を欲しがる言葉が聴きたくてツイ意地悪をしてしまう。
「あ……、やっ…」
激流を塞き止められている龍麻には、雨紋の欲している言葉を口にするほかの選択肢など無いのに、それでも最後の羞恥がストップを掛ける。
「言ってくれよ、龍麻さん。気持ち良いって、俺様の事が欲しいって。なぁ、龍麻さん」
自身に舌を這わせながら囁かれる羞恥を伴う激しい快楽に、龍麻は耐え切れずに震える唇を開いた。
「あ…あっん…雨…紋が…好き……だよ…雨紋が、欲しいよぅ」
快楽の涙とも、羞恥の涙とも付かない涙を流しながら、自分を欲しがる言葉を口にする龍麻にご褒美を与えるかのように、口の中に深く咥え込むと先端の括れに舌を這わせた。
「あああっ…んっ…だ…めだ…でっ…雨…紋」
絶頂が近いのか、下肢に顔を埋めている雨紋の髪を掴んでいる龍麻の手に力が篭った。
「イイゼ、あンたのだったら全部受け止めてやるから」
「えっ・・やぁっ…うも…んっ…あっ…ああああー」
促すように先端をきつく吸い上げてやると、若い激情は耐える術も無く精を迸せた。
咽喉の奥に吐き出された龍麻の迸りを残らず飲み干すと、ぐったりと放心している龍麻を抱きしめた。
「龍麻さん、この先も…いい?」
耳朶を優しく歯で愛撫しながら流し込まれる甘い誘いの言葉に、龍麻はコクリと首を縦に振った。
「楽に、しててくれよ」
脱力しているのを幸いにと龍麻の体を伏せにした雨紋は、しなやかな線を描く真っ白な背中にキスを降らせた。
「あっ!…」
まだ誰にも触れさせたことの無いであろう双丘の奥に隠された、小さな蕾みに雨紋の指先が触れた。弾かれたように体を硬くする龍麻を、キスで宥めた雨紋は、そっと双丘を両手で割り開いた。
「ひっ…やっ…やだっ、雨紋!見る…な…」
最奥に刺さるような視線を感じて、龍麻は両腕の中に顔を隠した。
「可愛いぜ、龍麻さん」
チュッと、わざと音を立てて突き出された尻にキスをすると、硬く閉ざされた蕾みに舌を這わせた。
「んんんんーっ…」
とんでもない所を舐められる感触に、龍麻の肌がザワリと粟立った
「はぁっ…」
ピチャッと濡れた音に、ピクリと肩が震えた。
くちゅ、くちゅと卑猥な音を立てながら、雨紋の舌が龍麻の蕾みをほぐしていく。
「龍麻さん、舐めて濡らして」
「ああっ…んぐっ…」
唇に押し当てられた指先を言われるままに口に含むと、だとだとしい動きで一生懸命舌を絡ませてきた。
「もう、いいかな。龍麻さん、力、抜いてくれよ」
龍麻の唾液でたっぷりと濡らされた指先を、中へと挿し入れた。
「ああっ…雨…紋」
後ろに感じる異物感に龍麻が、切なそうに雨紋の名前を呼んだ。
「大丈夫、力を抜いて龍麻さん」
指を含まされたソコに舌を滑らせて、雨紋がやさしく龍麻の名前を呼び返してやると、安心したかのように息を吐き出した。
「ああ…やっ…掻き回さ…ない…で」
小さな入り口を広げるかのように動かされる指に、龍麻は震える声を上げた。
「んんっ…はぁっ…ああっ…」
龍麻の上げる声の調子を聞き分けながら、ゆっくりと指を抜き挿しする。
一本だった指を二本に増やし舌を添えて、狭いソコに愛撫を施す。奥を探られるたびに聞こえる、くちゅくちゅとした濡れた音に、指を含んだソコがヒクヒクと反応を示す。
「感じてるよな」
確かめると言うよりも、決め付けるような言い方をしながら、空いていた方の手が龍麻の前に回された。
「ああっ…」
刺激を与えられていないはずのソコは、一度精を吐き出したにも拘わらずシーツをぐっちょりと濡らしていた。
「イイみたいだな」
そう言うと雨紋は、はちきれそうになっている自身を取り出した。
「ごめンな、龍麻さん。優しくするから」
「…うん……雨紋…」
男同士の場合、始めては後ろからの方が苦痛が少なくて良いらしい。
指と舌で十分に濡らされて開かされた龍麻の蕾みに、雨紋の自身が押し当てられた。
「はあっ…くぅっ…んんんん」
本来受け入れる器官で無いソコに、押し挿ってくる質量に耐えきれず思わず腰を引いてしまった。
「あと、少し。今、一番きつい所だから…」
「う…ん」
龍麻に辛い思いをさせたくないと思う気持ちは嘘ではないのに、このまま泣かせてでも一気に自分のものにしてしまいたい激しい思いが爆走しそうになって、雨紋は奥歯を噛み締めて激情を堪えた。
背中を震わせて自分のモノを飲み込んでいく龍麻の姿は、雨紋のオスを更に熱くたぎらせていく。
「あっ?うも…ん?やだっ…なんか、さっきより…おっきいよ…」
ぐちゅぐちゅと音を立てながら、雨紋のオスが奥に入ってくる。
「ふうっんんっ…やあっ…」
奥まで挿れられた雨紋のモノが抜き差しされる度に、龍麻はシーツを握り締めて与えられる快感を享受する。
「はあぁ…いっ…雨…紋」
次第に雨紋の大きさに慣れてきた蕾みは、淫らに誘うかのように奥へと雨紋のモノを呑み込んでいく。
「ああっ…んーっ!やっ…そこ。だめっあっ…」
突き上げられる度に脳にまで響くような快感が、腰からじわじわと這い上がってくる。
「うも…ん…雨紋…」
強すぎる快感に涙を流しながら、龍麻は自分を攻め立てる男の名前を呼んだ。
「龍麻さん、なに?どうして欲しい」
耳の後ろに口付けながら優しく問い掛ける。
その間も、結合したソコはゆっくりとリズムを刻んで、龍麻に声を上げさせた。
「うも…もっ…俺…ああ…もっ……だ…めっ…う・・もの…かお…みた…あっん…」
このまま達してしまいそうな自分自身の高ぶりを感じた龍麻は、雨紋に触れて抱きしめられながら絶頂を迎えたかった。
「う…もん」
手の中に握り締められたシーツの波が、龍麻の享受している快感の大きさを表している。
「ちょっとだけ、我慢して龍麻さん」
今声を出したら、嬌声を上げるだけではすみそうに無いほどに感じていた龍麻は、ただ雨紋の声に首を振るしか出来なかった。
「うっ…んっはぁぁ…んくっ…んんんーっ…」
龍麻の小さな口から、雨紋のモノがゆっくりと引き抜かれ、仰向けにされて大きく開かされた足の間にもう一度埋め込まれた。
「あああっ…うも…ん…」
縋る様に龍麻の手が雨紋の首に回された。
密着した互いの体の間で、頭をもたげた龍麻のモノがふるふると震えていた。後ろに与えられる快感だけで育ったソレを、雨紋は優しく手の平に包み込むと、龍麻を追い上げるリズムに合わせて上下に扱いてやる。
「ひっ…んあっ…ああっやっ…うも…ん…もう…あっん」
前と後ろを同じに攻められて、龍麻の意識は急速に追い上げられていく。
次第に早くなる腰の動きに、雨紋を咥えこんだ蕾みからはくちゅくちゅとした音が聞こえ、龍麻は涙を流しながら雨紋の与えてくれる快楽に体を揺らした。
「んっ…」
「あああっ…あーっ!……」
内に迸る熱い飛沫に、龍麻もまた雨紋の手の中に2度目の精を吐き出した。
体内に注がれる雨紋の熱い激流を感じながら、龍麻はゆっくりと意識を手放した。
ホワン、とした暖かさに龍麻は重い瞼を開いた。
「よぅ、目が覚めたか?」
ベットに半身だけ起こした姿で自分を見つめる雨紋の姿に、龍麻は一瞬目を奪われて、気付かれないようにそっと毛布を引き上げた。
「ん、何だよ、恥ずかしがってンのか?可愛いな、龍麻さんは」
毛布ごと抱きしめてくる雨紋の腕の力に、龍麻はうっとりと目を閉じた。
「なぁ、あンたさえ良ければ、俺様のバイクでちょっと遠出、しないか?」
きょとんと首を傾げる龍麻の耳にキスをすると、もう一度ギュッと抱きしめた。
「前に言っただろ?海に沈む夕日をあンたに見せたいって。だから、あンたさえ良ければ二人だけで、出かけようぜ」
頬を啄ばむように口付けながら囁かれる甘い誘いに、龍麻はこっくりと頷きを返した。
「じゃあ、いつ頃がイイかな。あんまり寒いとバイクじゃ大変だしね」
ニコニコと笑う龍麻が可愛くて、雨紋は心の赴くままに赤く染まった唇に唇を重ねた。
「んっんんん」
さっき放ったばかりの下肢が再び熱くなっていく感覚に、雨紋はヤバイと思いながらも、内に渦巻く熱い欲望には勝てなかった。
納まりかけた淫靡な炎に再び火を点けるかのような雨紋の口付けに、龍麻は抗うことも出来ずに、重なってくる背中に手を回した。
「ごめん龍麻さん、もう一回」
「…バカ…」
誘ってくる問には答えずに、龍麻は雨紋の背中に回した手に力をこめた。
覚えたばかりの甘い蜜の味は、蕩かすように二人を包んでいく。
更けて行く夜の闇の中に、二人の熱い吐息だけがこだましていた。
END