Crazy Rendezvous

      いったい何キロ出てんだ?
 深夜のドライブ。なんて言えば聞こえは良いけど、こりゃ誘拐だぜ天夜さん。
 布団に入って寝ついたかと思った矢先に枕もとの電話が鳴り響いた。携帯の方じゃなくて、俺様の部屋直通の電話が。
 こんな時間に誰だよ。しかも今日は平日だぜ。
 そう思いながら取った受話器から聞こえてきたのは、
「よっ、雨紋。ドライブ行こう」
 めちゃくちゃ明るい天夜さんの声。
 なに考えてんだよ、あンたは〜。
 大学生のあンたと違って俺様はまだ高校生なんだぜ、明日も学校があるってのにこんな時間からドライブだあ?
 ホンットあンたって、分かんない人だぜ。
「おーい、雨紋。聞いてんのか?」
 俺様の溜め息には気付かずに、あくまで明るい声がする。
「…聞いてますよ」
「なあ、ダメ?ドライブ行こう?」
 ああもうっ、そんな可愛い声でお願いされたら断れるわけないだろ。
 まったくもう、振りまわされてるよな、俺様。
 そんなわけで連れ出されたドライブは、とんでもない代物だった。
 3月に免許を取った天夜さんは、欲しい車が見付からないとかで暫くペーパードライバーしてたんだけど、漸く先日見付かったらしくてやっと納車したとか言っていた。
 やけにはしゃいだ声で、そのうち一緒にドライブに行こうっても言っていた。
 そりゃあ、OKしましたよ。しましたけどね、まさかこんな時間のドライブだとは思いもしなかったぜ。
 おまけに、可愛い外見とは裏腹に、結構なスピード狂。
 バイクの免許持ってるって聞かされたときも、どうせ原チャリかなにかだと思っていた俺様の前に持ち出したのは、なんとカワサキ「ゼファー」1100。
 べスパとかの方が似合いそうだぜ。と心底思ったね。
 そんで今度は車だ。
 もう言わずもがなで半ば諦めていた俺様は、ニコニコと見せられた車になんとも言えない溜め息をもらした。
 出された車は、「フェアレディZ」。しかもバリバリのフルチューン仕様。
 頼むから、そんなニコニコしながら走らないでくれ。
 嬉しそうにとなりでハンドルを握る天夜さんに祈るような思いで視線を注ぐ。
 俺様だってバイクに乗るからスピードには慣れてるけど、直線200はないだろう?
「どうしたの、雨紋。楽しくない?」
 黙ったまんまの俺様に、心配そうに声を掛けてくる。
「前もって予約を取りつけてあったんなら、もっと楽しかっただろうけどな」
 嫌味に聞こえないギリギリのラインで答えを返す。
 別にあンたと出かけるのがイヤなんじゃないんだぜ。
 只、時と場合を考えて欲しいんだけなんだけど、天夜さん。
「だってしょうがないだろ。さっき思いついたんだから。イヤなんだったら、戻るよ」
「えっ……うわあっ!」
 たっ…天夜さん。あンたいきなりなにしでかすんだよ。
 しょぼんとしたかと思ったら、いきなりUターンをかました。
 いくら深夜で車通りがないからって、あんまりこういうことをいないで欲しい。怖いもの知らずの俺様でもやっぱりびびっちまうぜ。
「ちょ…天夜さん」
 キキキキッ、キュルキュル。
 タイヤを鳴らしながら、半ばドリフト状態でコーナーを曲がり、40キロまで落ちたスピードをすかさず70まで加速する。
 あーあ、俺様もホント天夜さんには甘い。
「おいおい天夜さん。誰が帰りたいって言ったんだよ。どっか行く予定があったんだろ?」
 今にも泣き出しそうな顔で前を見つめながらハンドルを握っていた天夜さんが、俺様の言葉にパッと顔を輝かせると、こともあろうに手を離して抱き付いてきた。
「うわっ…天夜さん、ハンドル、ハンドル」
 あたふたと慌てる俺を尻目に、余裕の仕草でハンドルを掴んだ天夜さんは、離れ際にチュッと口唇にキスをしていった。
「やっぱり雨紋って大好き」
「……分かったから、頼むから目的地までは前向いて走ってくれ」
「うん」
 簡単に機嫌を直した天夜さんは、再びタイヤを鳴らしながらUターンをすると、一路目的地に向かって走り出した。
「……」
 段々外の景色が形にならなくなってきた。
 薄暗いのもあるんだろうけど、200を越えるスピードに、景色は絵の具を溶かしたようにぼやけて像を結ばない。
「天夜さん…飛ばしすぎじゃ…」
 言っても無駄だってことは分かっていても、やっぱり言わずにはいられない。
「えーっ、まだ200しか出てないよ。まだまだ序の口だって」
 ウソだろ。誰かウソだって言ってくれ。
 ハンドル握ると人格変わるって人がいることは知ってたけど、まさか天夜さんがそうだとは思いたくなかった…。
 がっくりと脱力する俺様を余所に、相変わらず天夜さんは楽しそうにハンドルを握っている。
「着いたよ、雨紋」
 殆ど放心状態だった一時間ちょいのドライブも、終点の目的地に着いたらしい。
「よっ…と」
 ガチガチになってるからだの筋肉を解しながら車を降りると、想像もしなかった場所に連れてこられていた。
「……」
「上見て、雨紋」
 鬱蒼と木々が生い茂る頭上を指差されて、言われた通りに上を向いた俺様は、その瞬間言葉を失った。
「……」
「……」
 二人で長いこと黙ったまま空を見上げていた。
 満天に輝く星々。
 そして、天の川。
 こんなにはっきりと天の川を見たのなんて始めてで、柄にもなく感動してしまった。
「どう…かな?」
 バカみたいに口を開けて空を見たまま動かない俺様に、覗うように天夜さんが声をかけてきた。
「あっ…良くこんなとこ知ってたな、天夜さん」
 漸く視線を戻した俺様に、にっこりと微笑んだ天夜さんが、でもまだ心配そうに口を開いた。
「今日、雨紋の誕生日だろ。去年は出会ってすぐだったからちゃんとお祝いしてあげられなかったから、始めて二人で迎える誕生日は、絶対記憶に残るものにしたかったんだ」
 恥ずかしそうにそう言って俯いた天夜さんが、物凄く愛しくて、こんな場所なのに欲しくなってしまって、俺様は唸るように声を絞り出した。
「すっげー嬉しいよ、天夜さん。こんな綺麗な天の川見たのなんて始めてだ。ありがとう、天夜さん」
 感謝の気持ちを言葉にする時って、何時ももどかしい思いを感じる。どんなに自分が嬉しいか、どんなに感動しているのか、言葉だけじゃ伝えきれない。だから抱きしめたくて腕を伸ばそうとした俺様は、その前に飛びつかれて少々面食らってしまった。
「良かったあ。雨紋が喜んでくれて。俺今スッゴイ嬉しい。どうしたらこの気持ち伝えられるんだろ」
 ぎゅうっとしがみ付いてそんなことを言う。
 俺達、同じ事考えてる。なんだかそのことが妙に嬉しかった。
「俺様も、どんくらいあンたに感謝してるか、言葉じゃ言い尽くせない位、感動してる」
 腕の中にすっぽりと納まる、俺様より一回り小さい身体を抱きしめながら、耳元に囁いた。
「うん。こういう時、言葉で伝えるの、難しいよね」
 抱き合った身体に、山の涼しい空気が心地良い。このままずっと、抱きあっていたいとさえ思えるくらい。
「誰よりも早く、雨紋に誕生日おめでとうって言いたかったんだ。だから、朝になるのが待ちきれなくて…ごめん。運転、怖かったよな?」
 言葉ではそう言いながらも、見上げてくる瞳は否定してくれることを望んでいる。けど、ここでそんなことないなんて言ったら、絶対にまたあのドライブに付き合わされる羽目になることが目に見えていたから、ここは一つ心を鬼にして俺様は口を開いた。
「法定速度で走れっては言わないけど、せめて100キロ越えない速度で走ろうぜ。天夜さん。それが守れるなら、帰りの運転も任せるけど」
 言うまでもないだろうが、免許なんかなくても車の運転くらいできる。天夜さんのあの運転で帰りも帰るくらいなら、無免許でとっ捉まる覚悟で俺様が運転するぜ。
 そんな俺様の気持ちが分かったのか、それとも少しは反省しているのか、天夜さんは素直に俺様の言葉に頷いた。
「ちゃんと安全運転で帰る」
「なら、楽しいドライブになるな」
 反省のご褒美とばかりに、今日始めてのキスをする。(俺様からのって意味で)
「来年も、こうして天夜さんに祝ってほしいな」
 ロマンチックな星空と、最高の誕生日に酔ったようになりながら、天夜さんの耳元に囁いた。
「来年は、もっと運転上手くなっておくよ」
 笑いながらそう返した天夜さんにもう一度キスをして、俺様達はレディに乗りこんだ。
 帰りの運転は、言ったことを守って大概において、安全運転だった。気を抜くとスピードがうなぎ上りになることを除けば、だか。
 行く時は散々だったドライブも、帰ってくる頃には楽しいランデブーで、家が見えてくる頃には、離れがたい気持ちで一杯だった。
「なんだか、返したくないな」
 は?
 それは俺様の台詞だぜ、天夜さん。
 ポツリとそう零した天夜さんを、俺様はマジマジと見つめてしまった。
「どうする?今日は誰もいないし、上がってくか?」
「…」
 俺様の家にくることはあんまりないが、全然来たことがないわけでもない。
 最初は親といっしょだった天夜さんも、去年の今頃から独り暮しを始めてて、それ以来結構入り浸りだったりする。
 だから、俺様の部屋にいる天夜さんってのは新鮮で、今日はなんだか来て欲しかった。
「あの…さっ、誰もいないのなら、うちに来ないか?今日は、雨紋と離れたく…ないんだ」
 恥ずかしそうに頬を染めた天夜さんがそんなことを言うから、俺様の顔まで赤くなっちまった。
 うー、恥ずかしい。
 でも、天夜さんからのこんな誘いってのは早々聞けるものじゃないから、仕様がないなって風を装って誘いに乗った。
「いいぜ、このままあンたん家まで付き合うぜ」
「うん」
 本当に嬉しそうに微笑まれて、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。
 18年間生きてきて、最高の誕生日だと思ってしまう。けど、天夜さんが傍にいてくれるなら、どんな誕生日でも最高だと思えるだろう。
 こんなとんでもないドライブから始まった誕生日を、最高だと思えるんだから。
 ずっと、あンたと年を重ねて行きたいよ、天夜さん。
 祝ってくれて、ありがとうな。
               



あううう〜、突発ですう(T-T)
雨紋くんの誕生日祝いにSSを上げたくて、
必死で頑張ったんですが、なんか
書かないほうが良かったかもな内容になっちゃいました。
なんだかHがないとオカシイって言われてしまいました。
やっぱり、そう思います??