「チョコと、キスと、お饅頭」
ほんの数秒前までは息をしていた目の前の物体が、完全にモノになったのを確認して、壬生は抑えていた息を吐き出した。
とその途端、胸に仕舞っていた携帯電話が、激しく震え出した。仕事の最中は音を切っておい手正解だったと思いながらも、余りのタイミングの良さに、思わず身構えてしまう。
当たりを油断なく伺いながら、ゆっくりと携帯を取り出し相手の名前を確認する。
「天夜…?」
その名前の表示に、背筋をイヤな汗がつつっと流れていくのを感じた。
通話ボタンを押す前に、人気の無い場所から大通りへと移り、人の波に紛れこむ。人を隠すには人の中だ。
「はい…」
「遅い!遅い!遅―い!なにしてんだよ!ず―っとコールしてたんだぞ!」
受話器から聞こえてきた余りの大音量に、思わず携帯を耳から遠ざけてしまう。それでもまだ声が聞こえる。
「仕事はもう終ったんだろ?鳴滝さんには俺から連絡しとくから、今すぐ来いよ!良いな、今すぐだからなっ!絶対だぞ!!」
プツッ、ツーツーツー…。
一方的に言うだけ言って切れてしまった電話に、知らず溜め息が漏れる。仕事が終ったばかりで、出きることなら家へ帰って休みたかったのに、相手が天夜では無視することもできない。
表裏の相手である可愛い弟は、放っておけば手が付けられないほどに我侭になるのだ。馬鹿な子ほど可愛い。手が掛かる子ほど可愛い。そう諦めの溜め息を吐きながら、壬生は新宿へと足を向けた。
「で?なにをそんなに怒っているんだい?」
あの後、直ぐにタクシーを拾って駆けつけた壬生の、天夜のマンションまでの所要時間は約20分。それでも、開口一番天夜は「遅い」を繰り返した。
なにに対してこんなに怒っているのかは分からないが、ドンドン一人で暴走してしまう天夜を放っておくわけにも行かず、取り敢えずソファに腰を落ち着けさせる。
大人しく座ってたのを確認すると、勝手知ったる他人の家。台所の棚から鍋を取り出し、ココアの粉末を入れる。牛乳と砂糖で味を整えて、湯気の立つそれをカップに移す。
「はい」
「ありがと…」
ホカホカと湯気の上がるカップを受け取ると、まだブスッとした表情のままでカップを睨みつけた。それでも、当り散らす相手が現れたことで、少しは落ち着いたのか、さっきよりは身に纏う気が落ち着いている。
「紅葉は、チョコ好き?」
ソファを背もたれに床に座りこんだ壬生の頭上から、拗ねたような怒ったような天夜の声が降ってきた。
一瞬、話の飛躍に付いて行けない。
「特に、好きでも嫌いでもないけど」
それでもどうにか答えを返す。
壬生の答えに満足したのかそうでないのか、天夜は「そうだよねー」と盛大な溜め息を漏らした。
「普通さっ、人がチョコ好き?って聞いたらそういう答えを返すのが普通だよねっ。ソレなのに、なんで茶箪笥の中に饅頭が入ってるから食べて良いよになるんだよ。大体、世間に疎すぎるんだよ。バレンタインにチョコ貰ったことないわけないじゃないか。あれだけモテるのにっ!」
怒りの所為か話が支離滅裂で要点を得ない。自分的にはちゃんと説明しているつもりなんだろう。どうにかして話の全てを聞き出さないことには、家へは帰れないなと壬生は天夜に見えないようにそっと溜め息を漏らした。
「ちゃんと最初っから話してごらん。最後まで聞いてあげるよ」
あやすようにポンポンと 天夜の肩を叩くと、隣に座って話し出すのを待つ。
「今日、翡翠の処へ行ったんだ。そしたら…」
ポツリ、ポツリと話し出した天夜の話を要約すると。もうすぐ世間はバレンタイン、女の子からと言うのを別にすれば、好きな相手にチョコを贈って告白する日。記念日行事が大好きな天夜としては、如月にチョコを渡したかった為、さり気なく好みを聞き出そうとしたのに、茶菓子を欲しがっていると勘違いされてしまったらしい。
聞いて見ればたったそれだけの事でも、天夜にとっては頭に来て仕方ないようだ。
「それで?」
あまりのくだらなさに頭痛を感じる頭を抱えながら、それでも壬生は笑顔で話の続きを促した。
「そう、それで、俺に饅頭の作り方、教えてくれない?」
ニッコリと笑顔でそう言われてしまうと、もうそれだけでイヤとは言えなくなってしまう。泣く子には勝てても、天夜の我侭には一度として勝てた試しがない壬生だった。
「どうしてそこで、饅頭が出てくるんだい?」
いい加減笑顔を作るのにも疲れてきた壬生が、指先でこめかみを押さえながら尋ねた。
「だってさ、甘いものが嫌いな翡翠の家に饅頭があったって事は、饅頭なら甘くても食えるって事だろ?」
そんなことも分かんないのか?と言いたげな天夜の視線に、気付かないふりをして話を進める。
「饅頭があったからと言っても、もらい物だったんだろ?それじゃあ饅頭を作っても意味がないんじゃないかい?」
なんとかチョコを買う程度で話を収めたい壬生としては、なんとしてでも天夜の思い込みを止めようと必死だ。こんな時間から饅頭の作り方をレクチャーしていたんでは、睡眠時間が無くなってしまう。少ない睡眠時間でも活動できるよに訓練はしていても、仕事の後はゆっくり休みたい。
しかし、打倒如月攻略に燃えている天夜に、そんな思いやりは望むほうが無理だ。
「大丈夫、愛しのハニーである俺が作ったんだから、食べない筈ないじゃん」
それならチョコでも良いような、とは壬生には言えなかった。それに、天夜が如月のハニーになったなんて話は、一度として聞いたことがない。天夜の口から以外は。
「如月さんも、大変だ…」
「なに?なんか言った?」
「いや、なにも。それより、材料の方は揃っているのかい?」
こうなったら、少しでも早く天夜に饅頭を作り終えてもらうしか、安息の時間はやってこない。今日何度目かの溜め息を付きながら、壬生は台所に姿を消した。
朝のさわやかな光りが、冷たく澄んだ空気を輝かせて朝の到来を告げる頃、壬生は疲れた身体をソファにぐったりと投げ出していた。
「サンキュー、紅葉。これで翡翠は俺のものさっ」
語尾にハートマークが付きそうなくらい喜びに満ちた声で宣言した天夜は、脱力しきっている壬生の前に綺麗にラッピングされた箱を差し出した。
「ありがと、紅葉。これは紅葉が作った分。あいつなら甘い物好きだから、持って行ったらきっと喜ぶよ。ラッピング感謝の印。あいつも翡翠と同じで、どっかボケてるから、早いうちに手ぇ付けとかないと、誰かに取られちゃうよ。じゃ、鍵宜しくっ」
リビングから玄関、クツを履く間。延々と言いたい放題言いつづけた天夜の姿が、やっと壬生の視界から消えた。
「本当に、好き放題言ってくれて」
憎めない天夜の笑顔に苦笑を漏らし、ほんの一時の安らぎを得る為に壬生はそっと瞼を閉じた。
片付けられないまま放置された台所が、今までの壬生の苦労を雄弁に物語っていた。
「ひーすーいー」
如月骨董品店に到着した天夜は、鍵の掛かった玄関の前で何度も声を張り上げていた。時刻はまだ朝の6時。店が開くにはかなり早い時間だ。
「いっつもこの時間には起きてるのに」
朝の早い如月の起床時間は5時。何時もと変わりなければ、当に起き出していてもおかしくない。
「まさか翡翠の身になにか…。大変だ!待ってろ、翡翠、今助けに行くからなー」
ガンガンと、鍵の掛かった戸を打ち破り、店の入り口から住居へと駆け込んだ天夜は、台所で朝食の支度をしていた如月を見つけた。
「あれっ?翡翠、いたの?なにも…ない?」
けたたましい爆音に振り返った如月が、お玉を片手に仁王立ちになっている。右手のお玉が小刻みに震えているのを見た天夜は、慌てて誤魔化すように笑って見せた。が、今更である。
「君は…一体今を何時だと思っているんだい?こんな朝早くから、大声を上げただけじゃ飽き足らず、僕の店まで壊すとは、僕になにか恨みでもあるのかい?」
ドンと目の前に立ちはだかる如月からは、目に見えそうなくらい怒りの炎が立ち上っていた。見据える目が、完全に怒りに染まっている。
「わーん、ごめん翡翠。だって翡翠が出てこないから、なにかあったのかと思ったんだよー」
なんとか許してもらおうと、目に涙を浮かべてもっともらしい泣き真似もして見せる。
「ごめん、翡翠が心配だったんだ」
神妙に上目で如月の様子を伺い見る。
「まったく、君って人は」
縋るような天夜の視線に、呆れたように溜め息を付いた如月の気が、ほんの少し和らいだ瞬間。
「翡翠―v」
「うわあっ!」
飛び掛るように天夜の腕が伸びてきて、如月に抱き付いた。体重の掛かったタックルに堪えきれず、2人揃って台所の床に倒れこんだ。
「翡翠。やっぱり俺のこと愛してるんだよね。だから…」
「死にたいのかい?天夜」
強かに打ちつけた後頭部の痛みを押し隠した如月の、冷たく光る視線が鋭く天夜を見据えていた。その如月の手には何時の間にか、鋭く尖った包丁が握られていて、ピッタリと天夜の喉を狙っている。瞬時に敵の急所を狙う当たり、さすが忍者と言うべきか。
「や…やだなぁ、翡翠ったら。冗談キツイよ」
「これが冗談に見えるかい?」
ゆっくりと覆い被さる天夜の身体を押しのけながら、それでも喉を狙った切っ先に寸分の狂いも見せずに立ち上がった。
「まったく、本当に君は油断も隙もないね」
「うー…」
蛇に睨まれたカエルのように、神妙な顔つきで正座する天夜に、もう一度冷たく一瞥をくれると、クルリと背中を向けた。
「翡翠―、怒ってるー?」
返事もしない冷たい背中へ向かって虚しく声を掛けるが、如月は知らぬ存ぜぬで朝食の支度を着々と進めている。
「翡翠ってばー…」
「…そこで煩く僕のことを呼んでる暇があるなら、ちゃぶ台を拭くとか、食器を並べ…」
「はいはいはい」
背中を向けたままではあったが、返事が返ってきたことが嬉しくて、如月の言葉が終る前に、天夜はバタバタと走り出した。
ちゃぶ台が鏡のようにピカピカになるまで磨き上げる天夜の姿に、如月はがっくりと肩を落とした。
「美味しい、翡翠のご飯って俺、好き。やっぱりお嫁さんは料理が上手くなきゃね―」
「そうだね」
天夜の言わんとしていることなど勘が鈍くても分かる程度のもので、如月にして見れば一々相手にするのも面倒くさい。適当に聞き流すように相槌を返す。
「やっぱり翡翠もそう思う?そうだよねー、翡翠って料理は上手いし、掃除洗濯も完璧だし、経済観念もしっかりしてるし、俺って幸せ者だよね―」
なにやら自分一人で納得してニヤニヤしている天夜に、食後のお茶を仕方なく出してやりながら、間違いを訂正してやる。
「君の為に身に着けたわけじゃないから君が幸せに思う必要はないよ」
「またまた、翡翠ったらテレ屋さんなんだから」
まるっきり人の話を聞いてない天夜の態度に、如月の額に細く血管が浮き出てきた。かなりお怒りのようだ。
「君は人の話を聞くくせを…」
「はい、翡翠」
手にしていた茶碗を置いて説教を始めようとしていた如月の前に、千代紙や和紙で純日本風にラッピングされた箱が差し出された。
「翡翠の為にって、わざわざ作ったんだ。開けてみて」
怒りの矛先をかわされて、拍子抜けしてしまった如月は、言われるままに目の前の箱に手を伸ばした。
「…天夜。饅頭なら茶箪笥に入ってると言っておいただろう?あの饅頭が気に入らなかったのかい?まったく、君が好きだと言うから、向こうに行く知り合いに頼んで買ってきてもらっ…っ!」
箱にぎっしりと詰められた饅頭を見たとたんに始まった如月のお小言が、突然しまったと言う風に途切れてしまった。手は、余計なことを喋ったとばかりに口元を押さえている。
「なになになになに。翡翠ってば、俺の為に饅頭買っておいてくれたのー。なんだ、やっぱり俺達ってラブラブなんだ」
こうなってもなんとか言い訳を考えている如月に、もしあるのならば千切れんばかりに尻尾を振っているだろう、喜び満面の天夜が抱き着いてきた。
「うわっ!何度同じ事を…」
「食べて、翡翠」
2度も同じ事はするまいと高を括っていた如月は、要点を押さえてのしかかってくる天夜に四肢を抑えつけられ、饅頭を口元に押し当てられた。
「だから、饅頭なら茶箪笥に入っていると言っただろう。そう2つも三つも開けたら、もったいないだろう?」
「あれは俺が責任を持って全部食べるから。翡翠はこれ食べてくれればいいの」
半ばムキになって押しつけられる饅頭に、如月は諦めたように一口だけ口にした。
「全部だってば。食べてよ、翡翠」
「んぐっ…んっ」
ほんの一口だけ齧りとられた饅頭を哀しそうに見つめた天夜は、無理矢理顎を抑えると如月の口の中に残りの饅頭を押し込んだ。
「美味しい?」
口一杯の饅頭をなんとか飲みこもうと必死になっている如月に向かって、天夜は実に嬉しそうな表情で微笑んで見せた。
「翡翠に食べて欲しくて一生懸命作ったんだ。美味しいだろ?愛が一杯詰まってるからね」
「んっ…んんっ…」
一口サイズとは言え、無理矢理押し込まれては飲み下すのも大変で、抑えこまれた仰向けの状態のまま、如月はやっとの思いで饅頭の塊を飲みこんだ。
「っぷあっ…天夜!君は僕を殺す気か!」
呼吸すらできないほどに饅頭に苦しめられた如月は、大きく息を吸いこむと吐き出す勢いに任せて大声を上げた。
「馬鹿だな翡翠は、翡翠は俺のハニーなんだから、殺すわけないだろ?それより、美味しかった?」
如月の怒りなどどこ吹く風でニコニコ笑っている天夜の態度には、流石の如月も脱力感を感じさせられる。
「美味しいもなにも、あんな風に無理矢理押し込まれたら、味なんか分かるはずないだろ」
実際飲み下すのに必死で、味など欠片も分からなかった。憮然とした表情でそう言ってやると、懲りた様子もない天夜が再び饅頭を手にしていた。
「じゃあ、今度はちゃんと味わってね」
そう言って押しつけられる饅頭。どうして食べないわけに行かないのであれば、無理矢理押し込まれるのは一度で沢山とばかりに、不承不承というのを隠しもしないで饅頭に口をつけた。
「………」
如月の口唇が緩く閉じられ、咀嚼を繰り返す間天夜はじっとその口元を見つめていた。
「天夜………これは一体…」
口の中のものを全て飲みこんだ如月の表情が、訝しげに歪められた。よほど饅頭の味が不味かったか、気に入らなかったのだろうか?
「んー?一口チョコ饅頭」
「チョコ…饅頭?」
「そう。だって今日はバレンタインだろ?俺としては愛する翡翠に愛を込めてチョコを贈りたかったのさっ」
人の上に乗っかって悦に入らないで欲しい。とは、如月の心の声で。声に出して何か言おうものなら、止めど無い反論が返ってくるのは必須だったから、賢明にも如月はグッと言葉を飲み込んで、視線だけで上から退くように要求してみる。
「やだな翡翠ったら、そんなにじっと見ないでよ。そんな熱く見つめられたら、止まらなくなるだろ?」
「なにっ!…よっ…よせっ…天夜!」
どこまでも自分に言い様に理解してしまう天夜の思考回路は、険を含んだ如月の視線も想いを込めた愛の眼差しと勘違いしてしまうらしい。抵抗する如月もなんのその、いや、それすら恥じらいと取った天夜は、強引に如月の口唇を奪おうとする。
「よせと言っているのが、聞こえないのかっ!」
もうなにを言っても聞く耳を持たない、自分にとって都合の悪い事は、良いほうに勝手に解釈してしまう天夜に、とうとう如月の堪忍袋の尾が切れた。
「えっ?…あれれ?翡翠?」
「ゼーハーゼーハー…」
それこそどこに忍ばせていたのか、我が物顔で如月の上に乗っていた天夜は、如月が手にした荒縄で、一瞬にして縛り上げられてしまった。
瞬縛、である。
「なんだよこれー、ちょっと翡翠ー」
「そこで暫く反省するといい。君はあまりにも自分勝手だよ」
圧し掛かられて乱れた着物を直し、床に転がった天夜に視線もくれずに立ち去ろうとした如月は、今日3度目のタックルを食らった。
「うわあっ!」
「翡翠ー、ごめんてばー。翡翠が照れ屋さんなのは分かったから、これ解いてよー。ちゃんとムード出すか…」
「本当に君は人の話を聞かない人だね。僕がなにに対して怒っているのか、そこでじっくり考えたまえ!」
「くっ…苦しい…」
後ろ手に縛られた身体をこれまたどこから出したのか、縄でぐるぐる捲きにすると、鴨居に縄を通して吊るし上げた。これでは、流石の天夜も手も足も出せない。
「これくらい、我慢するんだね」
にべもなく言い捨てると、喚き散らす天夜の声を完璧に無視して、如月はかなり遅くなってしまった朝食の支度に戻った。
鴨居に吊るされた天夜は、必死に許しを請うが一向に聞き入れられる様子はない。
自業自得とは言え、なんとも情けない姿だ。
「翡翠の意地悪。ちょっとくらい犯らせてくれたっていいじゃんか」
吊るされた体の下を通る如月に、聞こえよがしに言葉を投げつけると、今日一番の怒りに燃えた目に睨み付けられた。
「ほうっ、そう言うんなら、君が僕に抱かれてみるかい?」
牙があるなら喉元噛み千切ってくれる、と言わんばかりの如月の視線も天夜には通じる筈もなく。
「えっ、なんだ翡翠ったら。ホントは俺とエッチしたいんじゃん。えー、でもどうしよっかな?本当は俺が翡翠をメロメロにしてあげたいんだけど、翡翠がどうしても俺を抱きたいって言うんなら、仕方ないなー」
ポッと頬を染めて、縛られた身体をモジモジさせる天夜の姿に、これ以上ないくらいに如月はがっくりと肩を落とした。
「翡翠ったらー、俺翡翠にだったら後ろの処女上げてもいいよー。だからこれ解いてよー」
ここで口車に乗って縄を解いたら、確実に自分が襲われる。確信に近いものを感じた如月は、付けたままのレンジの火を止め。ガスの元栓を締めると、財布を持って家の戸締りを始めた。
「今日1日、ここでゆーっくり、反省するんだね」
なにが起ころうとしているのか分かっていない天夜に、にっこりと凶悪な程に綺麗に微笑んで見せると、如月はクルリときびすを返した。
「えっ、ちょっと翡翠。翡翠ってばー!待ってよー、翡翠ー!」
事ここに至ってやっと、如月が怒っていることには気付いても、如月の怒りの理由には思い至らない天夜は、無情にも去って行く如月の後姿に、虚しく声を上げ続ける。
「なんでだよー!俺の上げたチョコ食っただろー。ラブラブしようよー、翡翠ー」
ピン。
玄関の鍵が掛けられて、誰もいなくなった如月邸に、天夜の声だけが虚しく響き渡っていた。
「バレンタインなのに…」
初如×主です。
って、こんなん如×主じゃなーい!
と思われた貴方。これは如×主なんです。如×主だと思って読めば、如×主になるんです。
んー、しかしどうしてなんでしょう?最初はもっとまともなVDネタを考えていたはずなのに、
何時の間にかドンドンとギャグ化して行ってしまって、
気が付いたらこんな・・・。(^_^;;
如月ファンの方、及び壬生ファンの方、ごめんなさい。
本当はもっとカッコイイんです。今回だけなんです(多分)
でも、楽しかった(^^)
2000.2.13