「流されてみるのも良いんじゃない?」
チラチラと瞼の向こうに光が見える。
ふわりと、味噌汁のいい匂いがした。
もぞっと寝返りを打ったら、自分の布団の感触と違った。
ついでにタバコの匂いも微かにする。
「っんーぁあー・・・」
まだぼんやりとしか覚醒していない状態で、ゆっくりと瞼を開けて周りを見渡してみる。全然見覚えのない部屋。
あれー、ここどこだろ?
寝起きはどちらかと言えば良いほうなのに、今日はなかなか意識がはっきりしてくれない。頭の中に霞みが架っているみたいで。
なんでだろ?
頭もはっきりしないし、現状も良く理解していないけど、取り敢えず、なんでここに至ったかを思い出す方が、分からない現状に付いて思い悩むよりは建設的な気がした。
うん、その方が前向きな気がする。
で、覚えてるのは・・・。
村雨と酒を飲んだこと。
強いわけじゃないけど、昨日はなんだかお酒を飲みたい気分で。どう見たって高校生にしか見えない俺を飲みに連れて行けるような知り合いって言ったら村雨しか思い浮かばなくて、半ば無理矢理呼び出した。
ああそうだ。そんでー、村雨お薦めの白ワインをしこたま飲んで・・・。って言っても、村雨から見れば、舐めた程度くらいなんだろうけど・・・。良いんだよ、俺にして見ればいっぱい飲んだんだから。
でも、確かに自分の許容範囲から考えて見ても、あれは飲みすぎだ。
飲み心地の良さにダマされた。
何時もならグラスで3杯も飲めれば良いほうなのに、調子にのって一本開けたような・・・。
頭がはっきりしないわけが分かった。吐き気も、頭痛もしないけど、二日酔いだ。
まっ、自業自得だね。
で、あの後、店を出て。ワインで火照った体に冬の空気が冷たくて気持ち良くて、ホッとして目を閉じた・・・当たりから、記憶があやふやになってくる。多分、眠気が襲ってきたんだと思う。
・ ・・あの時、村雨がなにか言ってたような・・・。
えーっと、確かもう一件行くとかなんとか・・・。
「よっと。 これからどーっすっかなぁ? まだどっか行くか?」
「・・・おい、聞いてんのかよ。先生?」
そうそう、でも俺なんだか眠くて、村雨に寄りかかるようにして眠っちゃったんだ。立ったまま寝れるって、俺って器用。じゃなくて。
それから体がふわってした感覚を覚えてるから、多分村雨に抱えられたかおんぶされたんだと思うんだけど。賭けてもいい、絶対おんぶじゃない。だって、村雨って俺のことお姫様抱っこするの好きだもん。されるこっちがどれだけ恥ずかしいか、絶対分かっててやってるんだ、あいつは。
「って・・・寝ちまったのかよ。ちっ。あんくれェの酒で潰れちまうってのは、ちょっと不甲斐ねェんじゃねェか?先生よぉ。」
「あーあー。・・・まあ平和な顔しちまって・・・首、噛みちぎってやろうか? まったく・・・」
って言った言葉を覚えてる。首が見えるって事は、おんぶのワケなイじゃん!
あーあ、不覚。
えー・・・っと、その当たりからはもう、殆ど覚えてないな。
村雨がなんか言ってたのは聞いたような、聞いてないような・・・。なんだっけ?
「・・据え膳喰わぬはなんとやら・・・か。」
「さぁて。・・・へっ。どーすっかな・・・。」
そうそう、据え膳食うとかなんとか言ってたから、なんか食べに行ったんだっけ?
でも据え膳って・・・?
聞いたことあるけど、食ったことあるっけ?
・ ・・なーんか、嫌な予感が・・・。
すっ、据え膳って、据え膳って俺の事じゃん!うああああああっーーーーー!!
どうしよう、俺。村雨に食われちゃったのかな?
そう言えば、村雨って俺のこと好きだって言ってたよな。隙あらばキスしようとしたり、押し倒したりして来てたし。(キスはされたけど、それ以上は未遂ね)そんで、次に無防備に俺の前で寝たら食っちまうぞっても、言われた気がする。
やっぱり・・・・・・・食われちゃったんだろうか・・・・・・ひええぇぇぇぇっ。どうしよう。
否っ!
まだ食われたと決まったわけじゃない。確かめよう。今こそ自分の置かれた現状を確かめる時だ!
で、恐る恐る布団の端を捲り上げて、自分の身体を見下ろしてみた。
・ ・・・・・・・・。
・ ・・・・・・・・・・・・・。
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
イヤダァァァァァァァァッッッー――!
誰か嘘だと言ってください。
見下ろした俺の身体には、いかにも"キスマーク"といった、赤い跡が沢山着いていた。
でもっでもっ、たんにフザケテ付けただけかも・・・。そうだよ。そう思いたい。んだけど、何故か布団の中の俺の身体ってば、何も着てなかったりして。
パンツも履いてないよ・・・。
でも、お尻痛く無イから・・・大丈夫だったのかな?
あれ?
あんな所に見えるのって、もしかしなくても、キスマーク?
太腿の内側。足の付け根。臍の下の下。ナニの直ぐ側。
に、点々としてるのって、そうなのかな?そうみたいだね。
ってことはやっぱり俺。食われた?
ガーン、ガ―ン。
ナニも覚えてない初体験なんて嫌だ―っ!
じゃなくて、そうじゃないだろ、俺!
ゴメンナサイオカアサンオレハオトコトエッチシチャイマシタ。チーン♪
沈没。
撃沈。
浮上できない。かも。
なんだよー、村雨のバカーっ!
エッチってのは、合意の上じゃないと強姦になっちゃうんだぞーっ!
犯罪なんだぞ。分かってんのかよーっ!
寝こみを襲うなんて最低だ・・・。
そんなことしなくたって・・・しなくたってなんだって言うんだ俺?
今、飛んでも無いこと口走りそうになった気がする。うん、あれ以上はヤバイよな。
今更だけど、かなり錯乱してるような気がする。動揺も半端じゃないし。しかし、これからどうしたもんか?
さっきからず―っとしてる良い匂いも元って、多分朝ご飯の香りだ。この部屋が村雨の部屋だとすれば、台所に立ってるのは村雨だと思う。
彼女がいるとかって言うのは聞いたこと無いから、ご飯作りに来てるとか言うのはなさそうだし。
こういうアパートの造りっていうのは、どこも大概似たようなものだから、俺がこの部屋を出て行くには、台所でご飯を作っているだろう村雨の後ろを通り抜けなきゃならないわけで。だけど村雨が素直に俺の事通してくれるかって事になると、まず無理だと思う。窓から逃げるって手も有るけど、裸のままじゃどっちの案も却下せざる終えない。
あーあ、「酒は飲んでも飲まれるな」って、すっごく大事な教訓だよ。うん。
どうしたものかと寝返りを打った瞬間。
「おい、先生。いい加減寝たふりすんのは止めな。腹減ってねぇのか?」
気配に敏いのか、それとも俺の様子を伺っていたのか、台所と思しき当たりから村雨の声がした。
「それとも、俺に起こしてもらいてぇのか?ん?先生」
急に近くなった声にビックリして、布団の端から眼だけ出した俺は、覆い被さるようにニヤニヤ笑っている村雨の目と、ばっちり合ってしまった。
やばいっ、これじゃ逃げられない。
がっちり絡め取られた視線は、それだけで俺のからだの自由を奪ってしまえるほどに、深い色を称えて俺を見据えていた。
「俺も朝寝の方だが、あんたも大概寝汚いな」
「むっ…村雨…あの…えーっと…」
俺の顔の脇に両肘をついた村雨は、寝癖だらけの俺の髪を優しい仕種で梳き始めた。
あっ、なんか気持ち良いかも。
頭を撫でてもらうとか、髪の毛を梳いてもらうっていうのは、なんでこんなに気持ち良いんだろう。寝起きでぼうっとしているからか、ついうっとりと身を任せたくなってしまう。
「可愛いな、先生は」
なんだか似合わないくらい静かな声で囁いた村雨は、鬱陶しいくらい長い前髪を掻き上げて、露わになった額に口唇を押し当てた。そのまま閉じた瞼にキスをして、頬と鼻先にもキスをした。
「え?村雨?」
「しっ、静かにしてなって」
静かにしてなって言われても、あのーっ。
抵抗するべきか大人しくしているべきか、考えこんだのはほんの数秒だったのに、行動を起こす前に俺の口唇は、村雨の口唇によって塞がれてしまった。
「んっ?んーっ!!んんっ…」
キス!キスされてるっ!
考えてる状況じゃないと気付いた時にはもう遅かった。いくら四肢を突っぱねて見ても、上から体重を掛けて抑えつけられては、ウェイトの差で村雨に軍配が上がる。
顔を振って逃れようにも、首の後ろに差し入れられた手の平が、それすらも許してくれない。
俺、このままどうなっちゃうんだろう?
全身から血の気が引いて行くのを感じながら、往生際悪く抵抗する隙を探る。
「んっ!」
微かに一瞬村雨の力が抜けたと思った俺は、逃げようとして墓穴を掘った。首の後ろに当てられていた手の平に掬い上げられるようにして、すっぽりと村雨の腕の中に収められてしまった。しかも、その拍子に開いてしまった唇の中に、村雨の舌が進入してきたんだ。
「んっんーっ…んんっんっ…」
渾身の力を振り絞って逃げようと試みるが、こういうことに一切と言って良いほど経験の無い俺は、情けないとこに村雨のキスで腰が抜けてしまった。
ねっとりと絡みつくような濃厚な口付けは、覚醒しきっていない体にあっさりと火を着けた。
「ふうっ…んっ…」
自分でも信じられないくらい甘い声が漏れて、動揺に眩暈がしてくる。こんなの可笑しいのに、なんで俺、村雨にキスされて気持ちヨガってるんだよ。
「可愛いな、先生は。大人しくしてれば、もっと気持ち良くしてやるぜ」
もっと気持ち良いこと?
キスですらこんなに気持ち良いのに、これ以上気持ち良いことなんてあるんだろうか?何時の間にかキスで骨抜きにされてしまった俺は、もう村雨に対して抵抗しようとする意志がぼんやりと霞んで、身体中を支配し始めた快感と呼ぶには小さい心地良さに浸っていた。
「そうそう、良い子だ。そのまま大人しくしてなよ」
これからなにが起こるのかまるっきり理解していない俺を、村雨にしては優しい微笑を浮かべて俺の身体を軽々と膝の上に抱き上げてしまった。
「えっ?」
胡座を掻いた村雨の膝を跨ぐような格好にされて、俺は今更ながら自分の状況に顔を赤くした。なにせなにも来ていないのだ。こんな格好をさせられては、村雨には恥ずかしいところが全部見えてしまう。
兎に角なんとか隠そうと、村雨の肩に手を回してガッチリとしがみ付いた。これなら身体が密着しているから見えないだろう。
「おいおい、先生?そんなにくっつかれたら、なにもできねぇだろ?」
えっ?これじゃダメなのか?でも、離れたらおちんちん見えちゃうし…。どうしようか迷っている間に、村雨の手がほんの少しの隙間から滑り込んで来た。
「ひゃっ!…なに?」
俺の手より数倍でかい村雨の手の平が、腹を撫でながら胸に這い登ってきた。
くすぐったい。強く触れられるというより、確かめるように触れてくるその手の動きに、どう反応して良いかわからない。
不快ではないけれど、気持ち良いのかも良く分からない。そうこうしているうちに、村雨の指が俺の乳首に触れた。
「うわっ!…なに?なんでそんなとこっ…んっ…あっ…」
せっ…背中が、背中がゾクゾクする。村雨の指が触れるたびに、乳首を中心にジンジンとした甘い痺れが身体中に伝わって行く。
「あっ…ああっ…」
自分からは見えないけれど、触れる指の動きで乳首がプックリと立ちあがっているのが分かる。これって、村雨がしようとしてるのって、えっ…エッチ?
ガ―ン、ガ―ン、ガーン。なんで気付かなかったんだろう?キスされて押し倒された時点で普通は気付くだろう?そう思うのに、流されてしまったのは、あのキスの所為だ。あんなキスをされてしまったら、まともに考えられるはずがない。
我が物顔で胸を弄る指に、小さかった官能の火はドンドン煽られて、情けないことに俺のおちんちんは、のっぴきならない状態にまで追い込まれてしまっていた。
「ここは、良いみたいだな?」
もう恥ずかしくて隠すように村雨の肩に顔を埋めていた俺の耳元に、低い、今気付いたけどめちゃめちゃセクシーな声が囁いた。
「ちがっ…あ…いっ」
指の腹で押しつぶすように乳首の先を転がされて、チクッとした痛みが走った。
「感じすぎて敏感になってるだけだ。大丈夫だって、俺に任せときな、先生」
任せとけって、このまま抵抗しないで村雨に抱かれろってこと?そんなーっ。でも、身体はすっかり熱くなっていて、今ここで止められたら、それはそれでキツイものがある。
「村雨」
自分ではどうして良いのか分からなくて、困ったように名前を呼んで見上げた先で、俺は村雨の瞳に映る自分の姿を見てしまった。
恥ずかしいくらいにトロリとした顔。なにかを欲しがってる様に薄っすら開いた唇。俺って、こんなやらしい顔して村雨の事見てたの?
「イヤなら、止めてやるぜ。と言ってやりたいところだが、俺もここまで結構我慢してたんでな。許してやるわけにはいかねぇな」
ニヤリと口元が笑みの形に歪められて、俺を映したままの瞳がスッと細められた。その瞬間俺は、村雨の中で獣が目を覚ました咆哮を聞いたような気がした。
逃げられない。視線に縛られたように身体が動かない。重なってくる村雨の口唇に、意識が甘く包まれて行く。
「ここまでは、イヤじゃなかったんだろ?てこたぁ、これから先も大丈夫さ。痛い事はしねぇよ」
背中を抱いていた手が、あやす様にれの髪を優しく撫でてくれた。その仕種に安心してしまうのは何故だろう?このまま、流されても良いような気がしてくる。
「あんたの息子は、気持ち良いって言ってるぜ?」
「ふあっ…」
すっかり身体から力が抜けていた俺の下肢に滑り降りてきた村雨の手が、臨戦状態になっていたおちんちんをやんわりと握りこんだ。
「んっ…」
そんなところに始めて他人の手を感じた俺は、腰から這い上がる痺れる様なゾクゾク感に、背中を仰け反らせて声を漏らしてしまった。
「あっ…あっ…」
俺のおちんちんを弄くる村雨の指は巧みで、ほんの時たまする自慰とは比べ物にならないくらい気持ち良かった。抑えようとしても押さえきれない声が、切れ切れに口唇から零れ落ちる。
「もうすっかりぐちょぐちょたぜ、先生。気持ち良いんだろ?良いって言ってみな。そしたら、天国を味わわせてやるよ」
「てん…ごく…?」
村雨の手淫で良いように喘がされた俺は、気持ち良くなることしか考えられなくて、天国と言うその言葉の響きに誘われるように問い返した。
「そうだ、先生。泣き叫んじまうくらい気持ち良くしてやるよ。もっと気持ち良くして、って言ってみな」
「…もっと?…もっと気持ち良いこと……あるの?」
これ以上の快楽と囁く村雨の言葉に逆らいきれずに、俺は促されるままに言葉を口にした。
「もっと…俺のこと、もっと気持ち良く…して…村雨」
言い終えたのが合図のように、じれったいような愛撫しかくれなかった村雨の指が、激しく上下に動き出した。
「ひあっ…あっ…ああっ…」
痛みを感じる直前まできつくした指の動きに、俺はあっけなく絶頂まで追い上げられた。
「まだだぜ、先生」
「えっ?…うそっ…やめっ…うあああっ…」
頭が、熔ける。
パフッと俺の上体をベッドに倒した村雨は、なんの躊躇いもなく俺のおちんちんを咥えてしまった。
生暖かい口腔は、ねっとりと絡みついてくる舌と一緒に、俺の限界を催促してくる。
「だめーっ…うあっ…あっ…でっ…でるっ…ダメだって、村雨っ!っうあっああっ…」
ダメだって言ったのに、なに考えてんだよ村雨のバカっ。
絡みつく舌が根元から先端までをつつっと辿っただけで、泣きたくなるくらいあっさりと俺は精を吐き出させられた。しかも、ダメだって言ったのに、頭を引き剥がそうとしたのに、村雨は俺が出したモノをコクリと喉を鳴らして飲んでしまった。
恥ずかしくて顔が見れない。
交差させた腕で顔を隠していると、伸び上がってきた村雨の手が、俺の腕を掴んで退けさせてしまった。
「最高に気持ち良かっただろ?」
羞恥で涙目になっている俺に、酷く楽しげな笑顔を浮かべた村雨が囁いた。濡れた口元を指先で拭う仕種が卑猥だ。
「ダメだって言っただろっ!出るって言ったのに!なんで…」
「おいおい、落ち着けって先生。なんだぁ?気持ちよくなかったのか?」
闇雲に拳を打ちつける俺をぎゅっと抱き締めると、困ったように顎を掻いた。
そりゃ、気持ち良かったけど…。そんなこと言えるかっ!
「おっ、満更でもなかったみてぇな顔だな。恥ずかしさの方が勝って、素直に言えねぇって所か?」
相変わらずニヤニヤとしたまま村雨が顔を覗きこんでくる。俺が言い返せないのを、分かってて言ってるんだ。
「うー…」
悔しさに噛み締めた口唇の間から唸り声が漏れた。
「こっから先は、恥ずかしいなんて言ってられねぇくらい気持ち良いぜ」
「ううっ…」
気持ち良いことに興味も好奇心もあるけど、村雨の言葉を信じるととんでもないことになりそうな気がする。だってこっから先って、ナニするわけだろ?本当にこのまま流されちゃって良いのかな?
今日何度目かの同じ疑問を頭に浮かべながら、疑心の目で村雨を見上げる。
「先生のココだって、まだ満足してねぇってよ?」
嬉しそうに笑った村雨が、達したばかりのおちんちんに指を絡めてきた。
止めろっ、ダメだっ…。
「ふああっ…」
何時の間にか俺の良い処を知り尽くしてしまった村雨の指に、抗えるはずもなく俺はなし崩しに嬌声を上げさせられた。
「良い顔だ、夕べよりずっと良い顔だぜ」
鎖骨に口付ける直前に囁いた村雨の言葉に、俺の身体がビクリと強張った。
夕べって事は、やっぱり俺、村雨に食われちゃったんだ。だから俺の気持ち良いトコ、みんな知ってるんだ。
そう思うと、今更抵抗するのも可笑しいような気がしてきた。昨日一回しちゃってるんだったら、一回も2回も同じかな?それに、昨日のことなんてなんにも覚えてないし、知らないままって言うのも、もったいないような。
再び弄くられる快感に霞みがかった頭では、まともなことなんか考えられるはずもなく、既に一回しちゃってるんだから、その事が俺の抵抗を封じ込めてしまっていた。
「うっ…うあっ…ああっ…」
身体中を這い回る熱い舌と、意外なくらい繊細な指の動きに翻弄されてしまう。痺れた身体は知ったばかりの快楽をもっとと欲しがって、シーツの上で淫らに蠢いた。
「先生、力抜きな」
「えっ?なにっ…ああっ…うっ…うあああっ…」
ぬるま湯に浸かっていたような快感の中、突然灼熱の太い塊が俺の中に押し入ってきた。
「ひっ…ひいっ…うああっ…あっ…」
真っ二つに身体が裂けてしまいそうな痛みと、それを打ち消すくらいに強烈な快感が、村雨と繋がった処から這い上がってくる。
「うっ…ううっ…んっ…はぁっ…」
ドロドロに熔けてしまう熱を逃がす術も分からなくて、只シーツを必死に掻き毟った。
突き入れられる瞬間の激しい快感に、背中は弓なりに反り返って汗が飛び散って行く。
「うっ…うあああっ…わかんないよ…村雨…わかんなっ…ああああっー――」
どうして良いのか分からなくて、枕に噛みついて激情をやり過ごそうとした俺の腰に、一際荒々しく村雨の腰が突き入れられた。
「あっ……あ…あ…」
俺の中で弾けるように熱いマグマが放出され、その熱に俺も堪えていた熱を吐き出した。
「はぁ…はっ…はぁ…」
2度目の吐精にぐったりとする身体をベッドに投げ出して、あとはもう混沌とする意識に全てを手放した。
村雨の大きな手が、優しく髪を撫でてくれたのを薄っすらと感じながら。
チラチラと瞼の向こうに光が見える。
ふわりと、味噌汁のいい匂いがした。
もぞっと寝返りを打ったら、
「痛っ!」
腰が痛かった。
なんで?なんで腰なんか痛いんだよ。それに腰って言うよりも、腰よりもうちょっと下の……が痛いような気がする。
身体もだるい。思いっきり運動した後の、だるさに似た、けれどそれとも違うだるさに頭を捻りつつ、当たりを見渡して見る。
「あー…この部屋、前にも見たような気が…する…って、同じシチュエーションで前も目覚めたような……」
事ここに至ってやっと俺は現状を把握した。
俺ってば、村雨と犯ったゃったんだ。
今度は、イヤになるくらいはっきり覚えてる。このベッドの上で、散々あーんなこととか、こーんなこととか、されちゃったんだ…。
もう、言い逃れできません。気のせいにもできません。どうしよう。
俺ってば、ホモになっちゃったんだろうか?うえーん、そんなー。
自分の心境の変化に思い当たる節もなくて、うあーっとうめきながら髪を掻き毟っていると、側に人の気配がした。
「なにしてんだ?先生」
「むっむっむむむむむむむむ村雨っ!!!!!!いてーっ…」
「そんなに叫ばなくても聞こえるって……おい、大丈夫か?」
叫ぶついでに村雨から遠ざかろうと動いた俺は、その拍子に腰に走った激痛に再び絶叫を上げる羽目になった。
「痛いっ…」
くっと息を詰めて痛みが通り過ぎるのを待つ。その間村雨はクツクツと笑いを噛み殺しながら、小刻みに震える腰を擦ってくれた。
「悪ィな先生。手加減したつもりだったんだが」
どこまで本心か分からない口調でそう言うと、おもむろに俺の身体をシーツで包んで抱き上げた。
「飯が先か?それとも、風呂が先か?」
後始末は一応しといたんだぜ。と続けたから、俺は鳴りっぱなしの腹の虫を納める為に、先にご飯を要求した。
「んぐっ、んぐんぐ…ごくっ…あーん…」
腕を動かすのも億劫だった俺は、シーツに包まったまま村雨の膝に座って、ご飯を食わせてもらっていた。
「これ…んぐんぐ…村雨が作ったのか?あーん…」
真っ白なご飯と、焼き魚、厚焼き玉子に、ワカメのお味噌汁。立派な朝の食事に、俺は当然とも言える疑問を口にした。
「美味い物を食うのは好きなんでな。ほらっ、これで最後だ」
3杯ご飯をお代わりして、最後の卵焼きを口に放りこまれた俺は、んぐんぐとそれを飲み下して再び口を開いた。
「ふーん、村雨が料理できたなんて以外。嫁の来手がなくても心配ないね」
「そうだな。あんたが料理できなくても心配ねぇぜ。だから安心して嫁に来な」
きーっ、嫌味のつもりで言ったのに、なんでそこで俺が料理できるできないの話になるんだよ。それに、なんで俺が嫁に来なきゃなんないんだよ。
「なんだ?不服か?料理は美味い、身体の相性は良い。しかも、最高の強運の持ち主だぜ。問題ねぇだろ?」
「だからなんで俺がお前の嫁になんなきゃなんないんだよっ!」
一息に言いきって、キッと村雨を睨みつけてやる。
「婚前交渉しただろ?あれだけ気持ち良さそうにヨガっておいて、今更流されたんだってのは、言い逃れにもなんねぇぜ」
「うっ…」
でも流されたんだもん。とは、やっぱり言えなかった。何故なら、流されたんだって、イヤなら殴ってでも逃げられた筈たから。逃げなかったって事は、イヤじゃなかったって事…なのかな?
自分の事なのに、良く分からない。
「まっいいさ。取り敢えず第一関門は突破したわけだし、これから少しづつアンタを本気にさせれば良いわけだろ?」
えっ?そう言うことなの?
どう反応して良いか分からないでいるうちに、村雨の口唇に口唇が塞がれていた。
「んっ…」
ヤバイ。このキスはヤバイんだって。また、流され…る。
優しく身体を包む村雨の腕と、頭の芯が痺れてしまうキスに、またしても俺は流されてしまいそうな気配を感じていた。けれどそれがイヤだとは思えないあたり、俺も終わっている気がする。
深くなっていくキスに諦めの溜め息を吐きつつ、酒を飲んで寝てしまった自分の不覚さを呪った。
2度と村雨とは酒なんか飲むもんか。と誓った誓いは、直ぐ破られることになってしまったのは、俺の意志の弱さかも知れない。
ああ、不幸な俺に愛の手を…。合掌。
終り。
ってな訳で、流されちゃう主人公くんでした(笑)
桜太さん、300番GETありがとうございました(^^)
課題クリアできてると嬉しいです。
ちょっとうちの天夜くんとは違った感じの主人公ですが、
書いてる本人は結構楽しかったです(^-^)
今回はHもソフトに演出して見たのですが、どんなもんでしょう?
ゴーイングマイウェイな村雨さんが、今回のお気に入りです(^^)
2000.2.1 蒼一郎