その夏、僕は田舎へは帰らずにスナックのアルバイトをしながら、アイス・ピックで傷だらけになった左手を見ながら映画のシナリオを何度も壁にぶつかりながら書き続けた。
「あら、またアイス・ピック刺しちゃったの。なんか疲れてるみたいね。田舎に2,3日帰ってきたら?敏君」
 アイス・ピックで怪我ばかりしている僕を見てママは心配そうな顔をした。
「その方がいいわよ、敏君。そのうち、その左手穴だらけになっちゃうから」
 この店の常連で、大手出版社の編集を仕事にしている祐子さんにも冗談を言われた。
 しかし、今の僕にはここを乗り切らなければいいものは書けないと信じ込んでいたので、
「いえ、大丈夫です。今書いている映画のシナリオができるまで田舎には帰りません」
 僕はそう言いながら傷の手当をした。
「へー、敏君、映画のシナリオ書いてるの。出来上がったら私にも見せてね。今の学生さんがどんなもの書いているのか興味あるなー」
 祐子さんは少女のように瞳を輝かせて僕の顔を覗き込んだ。
 今年で27才になる美人のキャリア・ウーマンは19歳の僕にとって憧れの女性だった。初めて会った時から、その都会的センス抜群の容姿とまったく飾り気のない性格にいっぺんで参ってしまった。このアルバイトを続けているのも祐子さんがいてくれたおかげかも知れない。
「出来上がったら読んでもらえますか?本当に」
 僕は指を怪我していることも忘れて身を乗り出した。
「本当よ。是非読ませてもらいたいわ」
 祐子さんは口にしていたグラスをコースターに戻しながら答えた。
「じゃあ、できたらい
一番に見せますから感想を聞かせて下さい」
 僕は嬉しくてたまらなかった。憧れの女性編集者に自分の書いたシナリオを評価してもらえるのだ。
 僕はその日から寝る間も惜しんでシナリオを書き続けた。そして8月の終わりに『ぜっきょうみれん』のシナリオを書き上げた。
 僕はシナリオが出来上がったことを浩二に知らせようと公衆電話に走った。しかし、その日も浩二は留守だった。
 浩二は前期の試験の前くらいから大学へはまったく来なくなっていた。そしてついに前期試験も受けずに僕の前から姿を消した。アルバイト先のライブ・ハウスもやめていたし、家の人に聞いてもよく分からなかった。だから、僕がシナリオを書き始めたことも浩二は知らなかった。僕の部屋には電話がなかったので、アルバイト先のスナックの電話番号を家の人に伝えてあったがなんの音沙汰もなかった。
 僕には浩二が何故、僕の目の前から姿を消したのかまるで見当がつかなかった。しかし、それは単なる僕の思い過ごしなのかも知れなかった。新しいアルバイトが忙しくて、たまたま僕が電話したときにいなかったのかも知れないし、スナックの電話番号を忘れてしまったのかも知れない。それはともかくとして、シナリオが出来上がったことを浩二にだけは知らせたかった。
 その日の夜、僕は出来上がったシナリオを持ってアルバイトに出た。今夜、祐子さんが来るのか来ないのかは分からなかったが、とにかく早く見せたいという気持ちでいっぱいだった。
 そして時計の針が10時を回った頃、祐子さんはいつものように笑顔で店に入ってきた。
「今晩わ。今日も暑いわね。敏君、いつものやつね」
「はい、分かりました。祐子さん、シナリオ出来上がりました。ここに持ってきたんで、読んでみて下さい。字が汚いんで読み辛いかも知れませんけど……」
 僕は照れながらおしぼりと一緒に大きな封筒に入ったシナリオを手渡した。
「じゃあ、おつまみ代わりにゆっくりと拝見させていただきます」
 祐子さんは冗談のように言うと、封筒の中身を取り出した。
 僕はなんだか胸がドキドキしてきた。祐子さんが僕の書いたものをどう評価するのか期待と不安で気持ちが落ち着かなかった。そしてまた、アイス・ピックで左手を刺してしまった。
「いけね。またやっちゃった」
「敏君、今日はもう中はいいから祐子ちゃんの相手してて」
 そんな僕を見てママが呆れた顔をした。
「はい、そうさせてもらいます。どうもすいません」
 僕はバツが悪かったがママの言うとおりにした。
 僕は祐子さんの座っているカウンターの前に彼女がいつも注文するバイオレット・フィズとチーズの盛り合わせを出した。
「ありがとう」
 祐子さんはそう言ったがグラスには手をつけず、僕のシナリオを読み続けた。その目はいつもの祐子さんではなく、編集者としてのプロの目だった。
 僕はカウンターを挟んで祐子さんが自分の書いたものを読むのを黙って見ていた。
 30分ほどで僕のシナリオを読み終わると、祐子さんは顔を上げて僕の顔を見てにっこりとしてグラスを口にした。
「なかなか面白かったわ。私たちの世代にとっては……。『絶叫未練』て永山則夫の詩集でしょう。私、彼と同じ歳なのよね。でもね、もし今の私がこの中のヒロインだったとしたら、ピストルは警察に届けるわ。私たちの60年代は、1969年に安田講堂が落ちたときに終わったのよ。夢はあの時、無くなってしまったの……。分かる、今は1976年なのよ。敏君がどうして60年代に拘りたいのか何となく分かるわ。だけど、あなた達の年代の人たちにとってはピンと来ないんじゃないかしら?敏君みたいに大学当局に対する批判的考えよりも、他の学生さん達は大学生活をどうやってエンジョイできるかを考えているんじゃないの。たとえそれが飼い慣らされた羊のような学生生活でもその個人個人が楽しければそれでいいじゃない。もう思想的な連帯感を持てるような時代じゃないのよ。今は……。思想よりもファッション、流行が人を動かす時代なのよ。でも、大学が『刑務所』っていう発想は面白いわね。刑務所に殴り込みをかけるヒロインか……。私たちの時代だったらいたかも知れないわね。そういう女性闘士が……。
 祐子さんは遠くを見つめるように最後の言葉を呟いた。
 僕は複雑な気持ちで祐子さんの言葉を聞いていた。
 僕の書いたシナリオは、地方から出てきた女子大生がある日、ふとしたことからピストルを拾うところから始まって、彼女がピストルを持つことによって日頃から考えていた東京という街、学生生活、恋愛などシラケてしまった時代に対するやり場のない憤りを浮き彫りにして、同志を集めて女性闘士として『革命』じみた事件を起こしていくという内容だった。それは彼女が60年代に拘りを持つが故の行動だったという設定にしてあった。
 それは結局、輝きを放って燃えていた60年代を今の時代に戻したいという僕の心のあらわれでもあった。祐子さんが言ったとおり60年代はもう終わっているのだ。僕は60年代が終わったと認めたくなかったのだ。どこかにまだ夢の60年代があると信じていたかったのだ。それを祐子さんに面と向かって言われたのだ。60年代の当事者に終わったのだと……。
 僕の求めていたものは一体何だったのだろう?
 僕は浩二にたまらなく会いたかった。そして今の僕の気持ちを分かって欲しかった。
 僕の心が沈んでいくのを黙って見ていた祐子さんが口にしていたグラスをコースターに戻して、
「敏君、私が言ったことが気に障ったらごめんなさい。でも、君は1976年の東京で生活しているのよ。敏君にとって60年代が夢や希望に満ちたすばらしい時代だったと信じたい気持ちは分かるわ。けれど、19歳の君が昔を振り返ってみても仕方ないんじゃないの?あの頃は良かった、あの頃に戻りたいなんて考えていたら君はこれから先、一歩も前に進めないわ。それは結局、敏君が今の時代をきちんと見ようとしないで今の時代から逃げようとしている証だと思うけど、違う?」
 僕には言葉がなかった。祐子さんの言っていることはすべてその通りだった。僕が60年代に拘りや憧れを持っているのは、裏を返せば今のシラケてしまった70年代を拒絶して逃げようとしているからに他ならないことだった。僕はそれを60年代に心を戻すことで正当化しようとしていたのだ。
「敏君、君は70年代の若者なのよ。60年代の幻を追うのはもうやめたほうがいいわ。それより今の時代をきちんと真っ正面から見て、今の時代を描きなさい。敏君なりの感性で……」
 祐子さんは空になったグラスを見つめながら静かに言った。
 僕は黙ったまま頷いて、空になったグラスを下げた。
                  *            *            *
 祐子さんにシナリオを見せてから一週間ほどたってから大学の後期授業が始まった。
 僕はまだ、あのショックから立ち直っていなかったが、とにかく浩二に会いたいという一心で大学に出て来た。そして、二時限目の講義が終わった後キャンパスの芝生に白のTシャツにボロボロのジーパン姿で寝ころんでいる浩二を見つけた。
「浩二、今までどうしてたんだ。何回も連絡したんだぞ」
 僕は浩二のところまで走って大声で叫んだ。
「ああ、敏か。悪い。おまえがオレの家に遊びに来たあの後からちょっとゴタゴタしちゃって……。ごめんな」
 そう答える浩二は何となく元気が無く顔色もあまり良くなかった。
 僕は自分が落ち込
でいるのも忘れて浩二の様子を見た。
「一体何があったんだ。おまえ、顔色悪いぞ」
「顔色が悪いのは夜中に道路工事のアルバイトしてるからだよ。あんまり寝てないからな……。それにしても相変わらずつまんないところだな、ここは……」
「浩二、答えになってないぞ。何があったんだよ。話してくれよ」
 僕は浩二のクールな受け答えに苛立ちながらまた大声を出してしまった。
「それじゃまず、結論から言うよ。オレ、大学やめるよ。それで今日はここに退学届けを出しに来たんだ。それから来月、ジョンと利恵と3人でアメリカに行く……」
「アメリカ!」
 僕は思わず大声で叫んでしまった。
「ああ、アメリカだ。利恵の叔父さんのところへ行く。ジョンも軍を辞めて自分の家に帰る。オレは利恵の叔父さんの農場で働かせてもらいながら音楽の勉強をする」
「何で急にそんなことになったんだ?」
 僕は驚きを隠しきれずに浩二の次の言葉を待った。
「おまえがオレの家から帰ってからすぐに利恵のおふくろさんがが死んだんだ……。あいつは母一人、子一人の家庭だったんだ。利恵には父親も兄弟も親戚もいないんだ、日本には……。ただ、おふくろさんの荷物を勝たずけてたら、一通のエア・メールが出てきて父親のお兄さんがロスにいることが分かったんだ。それでジョンに頼んで連絡してもらったんだ。そしたら、利恵を自分のところで引き取りたいって言ってきたんだ。利恵も母親の想い出の染みついた家にはいたくないし、父親の生まれ育ったところへ行ってみたいっていうんでそういう話になったんだ。ジョンはジョンで軍を辞めて、もう一回、音楽の夢を追いかけたいって言っていたんだ、随分前から……。で、その話に俺も誘われてたし、この機会に思い切って行くことにしたんだ、アメリカへ……。それにオレは利恵を放って置けなかったんだ。この一ヶ月間、バイト以外の時間ほとんど利恵と一緒にいたんだ。今の利恵にはオレが必要だし、オレにとっても今は利恵が一番大切なんだ。向こうに行って一体何が待っているのか全然分からない。それでも利恵の側についていたいんだ。音楽のことにしたってオレにはまったく自信はない。本当に自分に才能があるのかどうかも分からないし、それを発揮できる場所があるのかどうかも分からない。それでもここにいるよりは良いと思ったんだ。敏には本当に悪いと思ってるんだけど……」
 僕はあの日の利恵の姿を思い出していた。ハーフ特有のエキゾティックな顔立ちにピッタリとフィットした白いTシャツにスリムのジーンズ。浩二は利恵を愛しているのだ。それは僕が祐子さんに抱いている淡い憧れとは違う。生身としての触れ合いや心の結びつきに裏付けされた愛情なのだ。浩二の言葉からそういうことがはっきりと伝わってくる。
「そうだったのか……。利恵ちゃんのおかあさん、死んだのか……。たいへんだったな。でも、おまえのおふくろさんやおやじさんは許してくれたのか?アメリカへ行くこと……」
「ああ、条件付きでね。渡航費用は自分で出すこと、毎月一回は連絡すること、一年に一回は日本へ帰ってくること、それさえ守れば行ってもいいって言ってくれたんだ。おまえが東京に出てきたのと大差ないだろう?それに利恵のことも全部話してあるし……。だから旅費稼ぎのために夜中の道路工事のバイトやってるんだ。それよりおまえ、映画のほうはどうなった?」
「そのことでおまえに何回も連絡しよ
と思ってたんだ。それでここに持ってきたんだ。出来上がったシナリオ、おまえに見せるために……」
 僕はバックの中からシナリオの入った封筒を浩二に手渡した。
 浩二は興味深い顔つきで僕から封筒を受け取った。僕は祐子さんにこのシナリオを見せたことは黙っていた。
「ふーん、『ぜっきょうみれん』か……」
 浩二はそう呟くとシナリオを読み始めた。
 9月の陽射しはまだ夏のものだったが風はもう秋を思わせるように心地よかった。浩二はタバコを吹かしながらシナリオを読み続けた。
 そして読み終わると寂しげな顔で原稿を封筒にしまった。
「敏、これがおまえの行き着いた先か?これがおまえの求めていた60年代か?これを映画にして一体誰に見せるつもりなんだ?元全共闘の連中なら喜んで見るかも知れないけど、オレ達の世代には『何だこれは?』って言われるのが落ちだぜ。ここの学生にしたって、心の中ではこういうことを思っているかも知れないけど、誰も動こうとしないだろう。今はそういう時代なんだよ。悲しいことだけどな……。結局60年代が残したものって、音楽と映画だけなんじゃないのかな。それも今となってはビートルズやCSN&Yもみんなクラシックなんだよ。確かにいい音楽だけど、それをいつまでも追っていたら一歩も前には進めない。それをベースにして新しいものを作っていくのがオレ達の世代の役目なんじゃないか?いくらシラケた時代って言ったって、やっている奴はやっているんだよ。60年代が夢や希望に溢れた時代じゃないことはオレの家に来たときに分かったんじゃないのか?ベトナムで死んでいった若い兵士のことを考えて見ろよ。彼らのことを批判したり罵倒したりする権利なんて誰にあるんだ?結局、60年代の日本の若者がやっていたことはただのママゴトに過ぎなかったんだよ。
んなはそれに気がついたんだよ。『革命』っていう麻薬みたいな言葉に踊らされていたことに……。だからシラケてしまったんだ……。だけどおまえはそうじゃなかった。それが良いのか悪いのかオレには分からない。でもおまえが本当の60年代も認めず70年代からも逃げようとしていることは事実なんだ。今の時代をちゃんと見ていれば映画の題材なんて容易く見つかったはずだ。自分が街というケーキに群がる蟻だと思ったことだけでも充分だったんじゃないのか?60年代に拘っていたから何も見えなかったんだ、おまえには……」
 僕は浩二の言葉を聞きながら、祐子さんに言われたことを思い返していた。
「店の常連の女の人で、雑誌の編集している人にこれを見せたら、おまえと同じこと言われたよ。自分達の60年代は安田講堂が落ちたときに終わったんだって……。今は思想的な連帯感よりもファッションが優先される時代だって……。やっぱり、おまえもそう思うか?」
「ああ、俺もそうだと思うよ。確かに面白くない時代だと思うけど、オレ達は70年代の若者なんだよ。すべてのことに乗り遅れてきた世代なんだ。それは否定できない事実だろう?思想的な連帯感なんて、安田講堂や浅間山荘見てたら持てる訳ないんだよ。もし革命が起こったら日本もベトナムと同じになるんだぞ。同じ日本人同士で血を流し合うことになるんだ……。個人主義に走るのは当たり前のことなんじゃないのか?おまえはそういうところを見ようとしないで、頭の中に自分に都合のいい『60年代』を作ってしまったんだ。音楽や映画に出てくるような60年代を……」
 僕は浩二の言葉を半分も聞いていなかった。
 僕の耳には永山則夫の『絶叫未練』を朗読する女性の声が聞こえていた。
 “私は子供だ この囚人達も
  何時の日にか 人生に目覚めて
  自分の両足で巣立っていくだろう
  ……無駄な杞憂かも知れないけれど”
 今の僕は詩の中の囚人と同じだ。時代という『監獄』に閉じこめられた……。
 僕は大声で叫びたかった。『何故あと10年早く生まれてこなかったんだ!』と。
「それより敏、これ、あんまり音は良くないけど聞いてくれないか?イーグルスの新しいアルバムのテープなんだけど……。知ってるだろう?イーグルスがCSN&Yの影響を受けているバンドだっていうことは……。このアルバムは来年あたりに日本に入ってくる予定なんだけど、ジョンがおまえに是非聞かせたいってオレに渡しておいたんだ。ジョンに言わせるとこのアルバムはウエストコースと・サウンドの最終的な形のアルバムだそうだ。たぶん70年代最高のアルバムになるだろうって……。それとこのアルバムのタイトル曲『ホテル・カリフォルニア』はサウンドも凄いけど、詞が凄いんだ。実際、これを初めて聞いたとき、背筋がゾクゾクしたよ。ジョンから詞の内容を聞いていたから余計とそう感じたのかも知れないけど……」
 そう言って、浩二はぼんやりしている僕に一本のカセット・テープをくれた。
               *           *           *
 浩二がアメリカに発ってから一週間が過ぎた。
 浩二は日本という『監獄』から抜け出したのだ。その先に何が待っているのか誰にも分からない。しかし、浩二はそれでも自分の夢を追って飛び立ったのだ。
 僕は毎日、毎日、自分の気の済むまで浩二からもらったイーグルスのテープを聴いていた。
 ジョンが何故僕にこの『ホテル・カリフォルニア』を聴かせたかったのか、浩二に詞の内容を聞いて何となく分かったような気がする。それは祐子さんや浩二に言われたことと同じで、夢の60年代はもう終わったのだとイーグルスはこの『ホテル・カリフォルニア』という曲の中で切ない思いを込めて歌っているのだ。
 僕は哀愁の漂うアコースティック・ギターのイントロから始まるこの曲を初めて聴いたとき、とてつもないショックを受けた。それは浩二の感じたものと同じだと思う。そして何回も聴くうちに、自然と60年代は終わったのだということを自分の中で納得させることができるようになっていた。僕は何人かの人の言葉より一曲の歌のほうが説得力を持つこともあるのだということを知った。
 僕は今、『ホテル・カリフォルニア』を聴きながらこの半年の間に出会った人々のことを思い返していた。浩二、ジョン、利恵ちゃん、祐子さん……。
 そして僕はこれらの若者を描いた映画を作りたいと考えていた。70年代に何かを見いだそうとして一生懸命に生きている人々の映画を……。
そして僕自身もそういう生き方をしようと思った。そのために僕は大学を辞めて映画の専門学校に転入することを決めていた。
 僕はもう『絶叫未練』の中の囚人ではないのだ。
 1976年秋、窓から見える夕陽は一生忘れられない風景として僕の心に残るだろう。
                                                     
                                                       おわり