俺が生まれて





     おかァ、今日めずらしく
     アパ−トに遊びに来た子がいたよ

     アルバムを見たがったので
     久しぶりに引っぱり出した
     子供の頃のもあるから
     おかァも写ってるよ
     その子がな
     「お母さん、キレイだね」
       って言ってた

     俺が小学生の時だから、何年前なんだろ
     俺も可能性だけは目一杯あった頃だ
     きっと、おかァもそう思っていたはずだ
     俺もそう信じていた


     そんな俺がこんな歳になったから
     おかァも写真のままじゃない
     だから去年、何年ぶりかで帰り
     道から物干しにいた、おかァが見えたとき
     俺は茫然と
     老人の歩き方
     そんなふうに思った

     こんなんじゃなかったって
     家を出る前のおかァじゃないって
     残酷にそう思った


     もちろん急にそうなったわけじゃない
     電話もせず、思い出しもせず
     かかってくる電話をうっとうしいと思い
     子供と思われるのが嫌で
     離れたくて帰りたくなくて仕方なかった
     そんな一日一日の間に
     おかァの歩き方は変わっていったんだ


     また盆は帰らなかったけど
     待ってたんか?
     近所に帰ってきた家の子を見て
     かかってくるはずのない電話、
     待ってたんか?

     小さい頃、おかァの言ってたような大人にはなれなかった
     望んでいたことのひとつもやってない


     俺が嫌になる
     俺だということが嫌になる
     俺が息子で悪かったと

     俺が生まれて悪かったと
     違う奴の方が、おかァは幸せだったんじゃないかって
     俺じゃなければよかったと
     夜中、布団の中で考えてる




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