2000/08/16
「Alaipayuthey」についての補足更新
ふだんタミル映画もろくにみない私が、メシがうまいらしいとの理由だけで 南インド旅行を決めた。「わなっかむ」だけじゃやっぱりさみしい。 そんな私がタミル語とほんのひととき格闘した記録をご紹介します。
テキストを本棚から引っ張り出すよりも前に、 ビデオレンタル屋(食材店)のお兄さん(スリランカ人) に雰囲気だけ教えてもらった。 文字は読めないそうだけどタミルはちょっとわかるらしい。 ちなみに彼の母語はシンハラ語という。これもまた文字がぐるぐるしている。
聞きとったママ音の表記 | |
Thank you | ナンリィ |
元気ですか | スガマー (ワナッカム スガマー) |
No | イッラィ |
いくらですか | イドゥ(this) イブラウ(how mach) |
値段 | ウィレイ |
bas (enough, もう十分) | ポードゥン |
私の名前は〜です。 | ィエン(my) ペール(name) 〜 |
あなたの名前はなんですか | ウンガル(your,敬) ペール(name) ィエンネ(what) |
これが欲しい | イドゥ(this) イナク(to me) ウェヌン(want) |
欲しくない | ウェダン(don't want) |
どこ | エンガ |
マドゥライに行きたい | イェナク マドゥライ ポーハ(カ) ウェドゥン |
わたしはシムランが好きです | イェナク ウルポマーヌ シムラン |
I love you | ナーン(I) ウンネ(you) カーダリキュレン |
数字は割愛 |
意識して聞いた初めてのタミル語だったせいもあり、 なんと書き綴るのがよいかわかりませんでした。 つづりを見ての表記とは結構異なります。 ちなみに「私の」はエン、「名前」はペヤールがただしいようです。 他に「欲しい」は「ウェ(ン)ドゥン」、 「欲しくない」は「ウェ(ン)ダン」のようにつづられていました。
結局テキストは全然手付かずのまま。 出発直前になって、 ビデオ屋で聞き逃していたことを motoさんに質問しました。 南メシ情報も教えていただいて、丁寧な回答に感謝。
>ヒンディー語のアッチャーとバスに対応するタミル語は何て言うんでしょうか。 >メシ系統で「おいしい」と「もういい」くらいは知っておいて損はないかと。 美味しい or よい(アッチャー) ナッラー 不味い or よくない(ハラーヴ) ケッタ OK(アッチャー) サリ 充分 or いらない(バス) ポードゥマー(ナ)or イッライ 少しだけ or 少なく(トラトラ) コンジャン イエス(ハーン) アーマン ノー(ナヒーン) イッライ あっちへ行け(チャロー) ポー あっちへ行って下さい(チャリエー) ポーンマー 「コンジャン テリヤードゥ」で「ちょっと分かる」って意味。 「タミル語話せる?」なんて聞かれて答えると、ウケもよい(笑)。
「『あ』で始まるタイトルのマニラトナム映画のCD買ってきて」 ってTamamiさんに頼まれたけど、 現地に降り立ってもそのタイトルは不明のままだった。 街中で看板を見かけても読みはわかんないし、 映画館でローマ字表記を見かけても 「alaipayuthey」なんてどう発音すればよいのか。 Advance Bookingのチケットを買う列に並びながら、 「『この』映画のタイトルの意味は?」 と後ろのあんちゃんに聞いてみたけど困った顔をしていた。謎は深まるばかり。 うーん困った。
その日の夜におつかいで日本語ペラペラな現地の方にお会いした。 発音は「アライ パーユデイ」。意味はしばし悩んだ末「波が押し寄せる、かなぁ」。 どうも「パーユデイ」を日本語にするのが難しかったようだ ※1。 結局、これをきっかけにこのタイトルは、今回の旅行中でもっともたくさん見かけ、 そして問題なく読めるようになった唯一のタミル文字列となった。
ケララのバックウォーターツアーのボートでいっしょになった、 タミル人のグループ旅行集団。 ナンリーとか言ってウケをとって仲間に入れてもらい、 朝っぱらからビールをご馳走になった。 アラビア海がうんぬん、という話になったので、 「海はカダルでしょ、でピャール(愛)はカーダル」 と口走ったら、発音を直されるはめに。 いわく「カーダルのルは舌をどこにもつけず、 『ゥル』と発音する。おまえのはLにuの母音がついているからダメ。」 まったくうるさく、だけど陽気な奴らだ。
こいつら、ヨーロピアンの迷惑そうな顔も顧みず、カセットで音楽を流し始めた。 「お、ジーンズの曲じゃん、日本で見たよ。」と言ったら、 「俺は見てないぞ、おまえ日本人のくせに」と感心された。 同じくらいの年齢の輩だが、音楽はきいていても映画は全然見ないようで、 映画の話は盛り上がらなかった。そんなもんだろうけど。
後日、チェンナイのCD屋で「カーダル・デサムのCDない?」ってふつうに話したら、 十分に通じた。あれは何だったんだろう。
インド大陸の南の端、カーニャクマリ。 ばくぜんとチェンナイ行きのチケットを申し込んだあとで、 どこに行こうか迷いつづけた。 予備知識はなかったけど、 地図を見ていると行きたくなった。 ケララ行きを決めたのもここに近いから、が理由だった。
ここは聖地であり、インド中から人が集まる。加えて夏休み。 南インドを中心としてか、遊びにくる人がやたらたくさんいる。 バラナシのような敬虔さは感じられず、 お寺の付近はすっかり浅草の仲見世状態。 ヒンディーはほとんど聞こえてこないことからも南の人が多いようである。
ここで聞き取れた唯一の言葉。「ワー(=come)」 家族連れのおかあさんが子供に対して、「はい、こっちへきなさい、はぐれるよ」 みたいな感じのところで「ワー」といっていた。 「いる、ある」を表す動詞「イル」の変化形も聞こえてきたが、 しょせん何を言っているかわからない。 「ポー(go)」と「ワー(come)」の原形しか覚えてなくて、 活用形はまったく覚えられてないのだけど、 雰囲気がわかっただけでも嬉しかった。
ところでカーニャクマリの人ごみの中にいて感じたこと。 「こいつらの巻き舌は筋金入り」
タミル語にはR,Lが5音ある。Nも3音あってわけがわかんないが、 とにかく巻き舌は圧巻だった。 「インド人英語は巻き舌で聞き取りにくい」などとよく言うが、 こいつらが元凶なのかと疑いたくもなる。 おまけに早口ときている。 タミルの道は遠い。
聞いたかんじ(TamilBook 2000より) | ||
R | いわゆるR音の暗さは感じられず。 舌を震わせて強めにラ行を発音(巻き舌)。 | |
L | いわゆるL音。ふつうのラ行。 ならばカーダルのルはふつうのLでよいのでは?、 でも指摘されたんだからしかたない。 | |
zh | タミル(tamizh)のL。ちょっと暗ーく「うル」と 発音。舌を口蓋にちょっとつけるかつけないか。 | |
LL | ちょっと乾燥したかんじのL音。 | |
RR | はげしく巻き舌。舌を震わせる練習が必要?。 |
行く前に付け焼刃でたたきこんでいった、ひとこと表現であったが、 まったくと言っていいほど出番はなかった。「ナンリー」と「ウェンダン」 「ポー」は使ってみたけど、肝心の「ワナッカム」さえもあまり言わなかった。 チェンナイって都会だから意味なく知らない人と会話することもなくて...。
それでも少しぐらいは、と道を聞くときにわざと 「〜 エンゲ」と言ってみたりした。 近いかどうか、分かれ道をどっちに行けばいいかわかればよかっただけなので、 タミル語で答えられても全然困らなかった。英語もいちおう通じるし。 あまりにも困らなかったので結局、なにも覚えなかった。 そう言えば、「ザラ スニエ(ちょっとすみませんが;ヒンディー語)」 に対応する言葉って何だろうかと思いながらも「Excuse me」 で済ませていたし。
前述のTamamiさんはケララマニアということで、 旅行前にケララ情報を教えてもらった。
ぜんぜん知らなかった。でナンニィって何?
「ご存じかもしれませんが、マラヤーラム語で挨拶するだけで、かなりウケます。 ナマスカーラム、ナンニィだけで十分いけます。」
出発前にマラヤーラムのキーワードでWeb検索してみたけれど、これ、 というのもなく、結局よくわからないままとなった。
コーチンの空港から街へ向かうタクシーの中。 タミル語で「Thank you」は「ナンリィ」なので、ナンニィは「Thank you」 に違いない。と、使ってみたら正解だった。
そのケララ、本屋でマラヤーラム語のテキストを探したけど、 あるのは「Learn Malayalam through Tamil」だけ。 タミル語で解説したマラヤーラム語のテキスト。冗談じゃない、 と買わなかった。
コーチン(フォートコーチン)の浜辺にいた、大学の助手+生徒のような 集団からは数字などを教えてもらった。どうせ覚えられはしないのだけど、 聞いておいて損はない。タミル語の数字も結局覚えられなかったけど、 タミル語とほとんど同じだ、ということは理解できた。 コヴァラムの食堂ボーイに聞いた文とあわせて書いておきます。
聞きとったママ音の表記 | |
Yes | アーディ |
No | イッラ |
あなたの名前はなんですか | ニンレ(your) ペーランダ(name) グンヌ(what is) |
I love you | ナーン(I) ニンネ(you) セヒキュンヌ |
(子供など)かわいい | ファギー (鼻濁音) |
美しい | スンドゥリ(sundri)(※ヒンディーはスンダル) |
行け(go) | ポーラ |
良い(good,アッチャー) | コルラム |
better | ナーラドゥ |
美味しい | ナーラルジ(ナーラ=good, ルジ=taste) |
bas(enough, もう十分) | マーディ |
Thank you very much | ワーラレィ(very much, bahut) ナンニィ (waalarreiと発音していた) |
同じドラヴィダ系なのに何ゆえこんなに言語があるのか。 文字まで変えやがって。
ボートツアーでいっしょだったタミルオヤジは、「同じドラヴィダだから タミル語でじゅうぶん通じるんだ」と開き直っていた。 一方、コーチンで出会った学生達はマラヤーラムに加えて、 タミル、ヒンディー、英語くらいを当たり前にこなしているようであった。
トリヴァンドラムからカーニャクマリを往復したが、 途中でケーララ州からタミルナードゥ州へと州がかわる。 バスに乗っていると看板の文字が変わるので、それとわかる。 ほんとうに言葉が変わるのだろうかと旅行中はとても不思議な気分だった。 以前の旅行では何語圏かなんて気にしたことがなく、「言語の境界」 を意識したのがはじめてだったせいもあったかもしれない。
ちなみに、あとでいろいろ文献を立ち読みしたところでは、もともとはタミル の西部地方の方言がもとになっている、 サンスクリット系その他の言葉の流入があり言語としてまとまった、 などのような記述が。 これらの二つの言葉を分けて考えないほうがよさそう、ということのようだ。 メモしたマラヤーラム語の表、タミル語の表もたまたまそう教えられただけ、 ということであり、どちらでも通じるかもしれない。
文字についても、 マラヤーラムの文字はタミル文字と全然違う、と旅行中は思っていたのだが、 形が違うだけで文字の構成(子音+母音)は同じようなものらしい。 そういう予備知識を入れて文字を眺めてみると、 宇宙文字みたいでマラヤーラム独自だと思っていた文字が タミル文字の変形だろうと思えてきた。
トリヴァンドラムの公園で声をかけてきた学生風の連中は コンピュータ関係の専門学校の入学願書をもっていて、 これから提出しにいくところだという。 就職先はあるのか、と尋ねたら、「いくらでもある。ドバイとか、アメリカとか。」 うーん、さすが大陸的発想。「お前のとこは雇ってくれないかな」 なんて言われたけど、あいにくただのEmployeeだし、 日本にはインド人まだまだ少ないよ、といっておいた。
それはさておき、マラヤーラム語で聞き忘れていたことが一つあった。
「ヒンディーのパーガル(=mad, crazy)に対応する言葉は何て言うの?」
「ぷら−んどぅ」
「え!(絶句)」
そう、あの映画で木に縛られた主人公を指さして「女王様」が言ったセリフ。 あのシーンがくっきりと浮かんできた。全く予期してなかっただけに、 懐かしいものに再会したような、不思議な気分になった。
絶句とともにしばし感動し、彼にはお礼代わりに「アホ」を教えておきました。 ちなみにタミル語では「パィティヤム」とのことでした。 そういえば日本におけるアホ系統の言葉の古語もP(H)音ではじまります。 (※2)。
「旅行は英語で事足りる。」事実なんだけど、
やっぱりわかるに越したことはない。
ただでさえ実用レベルでないんでヒンディー語を使うことも少なかったけど、
英語で話しかけられて、他愛のない会話が始まり、
「インド人の女性をどう思う?」
「うーん...アッチャー」
「アッチャー? お前ヒンディーわかるんか」
「トラトラ」
なんてやっているのは楽しいし、インド人のなまりだらけの英語発音よりは
わかりやすいときもあった。
もっとも上の会話はケララ青年やグジャラート一家を相手にしての話なので、
タミルでこれをやってウケるかどうかは知りません。
チェンナイに向かう、うだるように暑いバスのなかで、 歯の抜けたおっちゃんが精一杯のよそ行き言葉で話しかけてきた 「パニ、パニ(おまえ水持ってないか)」 が理解できなかったのは申し訳なかったけど、それを通訳した隣の青年の 「ワラ、ワラ(water)」もわからなかった。 ヒンディーしゃべるなんて思ってなかったんだもん。 ジェスチャーしてくれなきゃ。 (※3)
そんなわけでほんのひとときのタミル、マラヤーラム体験は終わりました。 タミル映画のVCDをみて「こんじゃん」「ぽー???」って言ってるなーとか 思うくらいにはなりましたがタミルの道はきびしいです。 日本語テキストの登場が待ち遠しいです。
Simple Tamil 「ISBN-981-3019-88-3」: タミル語の入門としては最適のような気がする。 シンガポールの出版社が発行。シンガポール、マレーシアで購入可能 (KLの空港売店にあり)。 カセット付きで約50USDくらい(だと思う)。 全体的にわかりやすいがとりわけ文字の書き方に感心した。秀逸である。
Tamil in 30 days: チェンナイの出版社が出している。結構クセがある。 これだけで一から勉強、というのはちょっとつらいと思う。
Learning Tamil through Internet: ここにある内容を勉強しておけばかなり上達するんだろうけど、 いかんせん気力がわかない。
出発直前にMiki♪さんからお借りしたアガタさん所有の「Simple Tamil」 が一番わかりやすい教科書だったけど、 慌ただしさにまぎれてキー表現を眺めただけに終わりました。 いちおうコピーを旅行にもっていったけど、 旅行中ってのはなぜか教科書は読めないようです。
※1 帰国後にビデオ屋でpayutheyの意味をきいたら、 「jumping, movingという意味だ」とのことでした。 さらに後日、タミル人に聞くと「slashing」と言っていたような (聞きとりにくい英語でした)。波頭がはじけているイメージでしょうか。 タイトルにこめられた意味については Miki♪さんによる解釈をご覧ください。 (戻る )
※2 「全国アホバカ分布考(松本修; 新潮文庫)」による。 おもしろいのでぜひ一読を。
で、調子にのってスリランカ(シンハラ語)は、 と聞くと「モレア」だそうで。p音は思い過ごしのようです。 それよりもそもそも「pagal」がほんとうに「バカ」か、 という大問題を感じます。英語で「mad」「crazy」と訳されるけど、 親しみをこめた意味か、それとも悪い意味の蔑称として使われるのか。 その辺から調べるべき問題なので、軽ーく読み流してくださいな。 (戻る)
以上は5月くらいに書いたあと、バカ調査、 不明なままのマラヤーラム語など、 挫折要素がたくさんあったため放置していたものです。 けっきょく公開しましたが、 タミル語の辞書をもっているわけでもなく、 正確さに欠けるので内容についてはあまり信じないでください。 写真はないですが、いちおう旅行記のつもりです。 もちろん、ウソの指摘、補足、ウンチクなどは大歓迎です。