「企業承継に伴う会社法上の諸問題」


 法学研究科で書いた修士論文です。実務上、高齢の経営者が次の世代に経営権をバトンタッチすることがあったので、このテ−マを選択してみました。しかしながら、会社法の視点からこのようなテ−マで研究された方は少なく、核となる書籍を探すことに苦労しました。幸い、酒巻教授から指南を受けまして、筑波大学の大野正道教授がこのテ−マに関する研究をされていると聞き、「企業承継法の研究」という核となる書籍を得ることとなりました。

第1章 序論
第2章 企業承継により移転するもの
第3章 株式・持分の相続準共有と権利行使者
第4章 定款による株式・持分の相続規制
第5章 一人会社の企業承継
第6章 自己株式取得と企業承継
第7章 会社分割と企業承継
第8章 特殊形態〜医療法人の企業承継〜
第9章 結論

 第2章では、株式・有限・合名合資会社に分けて、承継により移転する物・権利を解説している。
 第3章では、株式会社に絞って、承継の際に発生する株式移転とその権利行使について解説している。農地相続の問題から、その方面の法制は早くに進んだものの、会社に関してはそのような想定がされていなかったことから、対応が後手に回ってしまった。
 相続が開始しても、すぐに確定しないため、民法による準共有関係が発生する。しかし、それでは会社に重大決議事項が発生した場合に株主権利の行使ができないため、商法で権利行使者を1名定めることを要求している。ところが、これを定めるのにあたり、「全員一致説」「過半数説」「折衷説」が存在している。しかし、相続人全員の意見一致を望めるとは限らす、迅速な意思決定には影響を及ぼすと考えられ、私見では過半数説が妥当と考える。一方、ドイツ法では基本的に全員一致を求めている。
 第4章では、昭和61年5月の法務省民事局参事官室発表の商法・有限会社法改正試案に触れ、株式・持分の相続制限を定款で規定できるかについて検討している。これは相続法との関わりもあって、なかなか難しい。ドイツ法においては、解釈論の問題になっている。
 補償事項の問題もある。通常の相続で得られなかった部分については補償されるのが当然であるが、その評価決定にも諸説が存在する。また、遺言についての比較もここで検討している。
 第5章では、平成2年の商法改正で認められた一人会社の承継に触れている。
 第6章では、自己株式取得と企業承継の関係を解説している。平成6年の商法改正で自己株式取得が緩和され、相続税の支払いに困った相続人の資金確保に光が射したといえる。尚、平成13年の商法改正によって、いわゆる金庫株が解禁され、自己株式の保有がさらに容易となった。
 第7章では、平成12年創設の会社分割による企業承継に触れている。会社の体力・相続人の意思に応じてそれに見合った形式を探ることができるほか(新設・吸収等)、営業譲渡等に比べると手続きや費用面でも低くて済むため、メリットが大きい。

 ざっと触れてみたが、会社法の整備がここへきて急速に進もうとしており、これまで改善されなかった相続による企業承継についてもメスが入ることを期待したい。


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