桐野夏生 の作品
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プロフィール 石川県出身
1993年、「顔に降りかかる雨」で第39回江戸川乱歩賞を受賞
1998年、「OUT」で第51回日本推理作家協会長賞を受賞
1999年、「柔らかな頬」で第121回直木賞を受賞
2003年、「グロテスク」で第31回泉鏡花文学賞を受賞
2004年、「OUT」がエドガー賞候補に
公式HP BUBBLONIA
過去に読んだ作品 顔に降りかかる雨、天使に見捨てられた夜
おすすめの作品 OUT
 
  柔らかな頬 ★★★★☆     #第121回直木賞受賞作、 このミステリーがすごい!2000年 5位

   北海道の別荘地で突然「神隠し」のように姿を消した女の子。 警察の捜査でも誘拐なのか
  事故なのか、はっきりしないまま月日が流れる。 誰もが「もう生きていない」と考えるなか、
  母親であるカスミは「娘は生きている」と信じて探し続けていた。 ある日、TVの失踪者捜索番組に
  出演したカスミ。 ちょうどその放送を見た元刑事が「一緒に娘を探そう」と申しでてきた。 
  が、元刑事の彼は胃ガンで余命数ヶ月の命だった。

   娘がいなくなった時から自分の中の時間が止まったままのカスミ、30代でガンのために
  余命数ヶ月となった元刑事。 世間の「時間の流れ」と折り合いがつかずいる2人の葛藤と、
  自分の居場所を求めて彷徨うカスミと、自分の死に場所を求めて彷徨う元刑事の話が
  切々と綴られています。 

  #ずっしりと重い内容の直木賞受賞作品です。
 
   
  OUT ★★★★★     #このミステリーがすごい!1998年 1位

    各界から賞賛を集めたクライムノベルの傑作!
  ギャンブルに狂った夫をカッとなって殺してしまった弥生。 パート仲間の雅子に
  助けを求めると、雅子はアリバイづくりの協力を申し出た。 そのアリバイづくりとは、
  遺体をバラバラにして捨て失踪したと見せかける事。

   雅子は、寝たきりの義母の世話に追われ、娘の修学旅行費もままならないほど
  お金に困っているヨシエ、カードローンに追われ自己破産寸前の邦子、この2人の
  パート仲間を巻き込み、自宅の風呂場で遺体をバラバラに、、、、  
  ごく普通の生活を送っていた4人が、この事件をきっかけに日常からOUTしていく。

  登場するキャラクターの設定も描写も素晴らしいし、ストーリー展開も凄い。

  #後半の展開はちょっと予想できなかった。 クライムノベルの最高峰!
 
  
  玉蘭 ★★★☆

    恋人と別れ、会社を辞め、一人上海へ語学留学に来た「有子」。 
   日本から遠く離れた上海で彼女は「世界の最果て」に来てしまったようで
   眠れない夜が続いていた。

    そんなある月の明るい夜、彼女の枕もとに一人の若い男性が立っていた。 
   彼は戦時中上海で働いていたという彼女の祖父の兄「質」の幽霊。 彼もまた
   「世界の最果て」に来てしまったと感じながら、当時、上海で働いていたらしい。

    平成の時代に生きる「有子」の物語と、昭和の戦時中の生きていた「質」の物語が
   交互に繰り返され、やがてリンクしていき、「世界の最果て」で暮らしていた2人が、
   「世界の真中」で暮らせるようになるまでを描いた幻想的な作品です。
  
   
  光源 ★★ 

     とても出来の良い脚本と巡り会った映画プロデューサー優子は、人気俳優を主演に迎え、
    「この映画で絶対にプロデューサーとして成功してみせる」と心に誓う。 そして、自分のマンションを
    抵当にいれて借金をして映画の作成費を捻出し、映画制作を始めた。

     しかし、長年あたため続けた脚本を自分で監督することになり「理想を求める」新人監督と、
    「予算によっては妥協も必要だ」と割り切る映画界を知り尽くした熟練カメラマンとの葛藤、
    そして、カンヌ映画にも出演しようかという主演俳優と、ヌード写真集発売をきっかけに女優として
    のし上がろうとする元アイドルの思惑と葛藤など、さまざまな問題が起こり映画制作は難航する。
    そんな、映画制作をめぐるさまざまな人間模様を描いた作品。
    
     映画は監督が思いのままにつくるものかと思っていたけど、一部の「巨匠」と呼ばれる監督以外は
    そうはいかないみたいです。 決められた予算で撮らなければならないし、カメラマン、俳優、女優にも
    それぞれプロ根性で譲らない部分がある。 映画作りってのは思った以上に大変そうです。

    映画作りの舞台裏が見れたのは面白かったけど、本の内容はいまひとつでした。
  
   
  リアルワールド ★★★☆ 

     夏休みのある日、母親をバットで殺して逃げる男子高校生。 そして、ひょんな事から、
    その逃亡を助ける事になった4人の女子高生の話。 「難しい年頃」と呼ばれる年代の、
    それぞれの問題をかかえる5人。 「理想の世界」と「リアルな世界」との狭間にいる彼女達は
    そのギャップにとまどう者、絶望するもの、逃げ出す者、立ち向かう者といろいろ。
    そんな5人5様の心理模様を、それぞれの視点から描いた作品。

     高校時代の夏休みをふと思い出させるような、どこか共感できる懐かしさがあります。
    しかし、作家って凄いですねえ。 全然違う年代なのに、事細かに高校生の心理描写が出来る。
    「職業だから」って言われればそれまでだけど、読みながら感心してしまいました。
  
  
  残酷記 ★★★☆  

      ひとりの女性作家が1つの作品を作品を残して失踪した。 
     その作品に書かれていたのは、昔起こった小学4年生が誘拐され1年間監禁された事件の
     被害者は自分だというもの。 その中には被害者しか知り得ない情報が、、、
     1年間の監禁生活でいったい何が起こったのか?

      ある種の壮絶なサバイバル小説ですね。 物事の分別は着つくが、力ではとうてい大人には
     かなわない小学4年生の女の子。 そんな女の子が、小学4年生での100%の必死さで戦い
     いろいろな脱出方法を考えながら、1年間の監禁生活を生き延びていきます。

      しかし、監禁生活以上に大変だったは、解放されてからの周囲からの執拗な「興味」との戦い。
     事件の被害者に向けられるTV、新聞、雑誌の取材、周りの住民からの視線、噂、「事件の真相に
     迫る」という大義名分はありながらも、あまりに興味本位で容赦のない「興味」との戦い。
     被害者の受けるそんな精神的な暴力について考えさせられる作品です。