文月小夜&SELENE




 互いの唇に、愛しい者の名をそそぎあう。
 少し強めのアルコールが、頭の芯を鈍らせているのかもしれない。
 京の心にある、拓也を欲しがる気持ちが、いつもより強く表に顕われてしまう。
 恥ずかしい気持ちは確かにあるというのに、抱きしめてくれる腕がたまらく嬉しくて、もっと欲しいと、京自ら驚くほど貪欲に唇をねだった。
 そんな京の姿に、拓也もまた欲情を煽られ、欲しがるよりも多くを与えようと愛を紡いだ。
 絡めあう舌は溢れる唾液を零し、透明な筋が京の細い首筋を伝い落ちてゆく。
「たく……や……」
 いつのまにか開かれたシャツは白い肌を晒し、拓也の口接けを誘うように、浅く緩やかに上下する。
「ん……っ」
 浮き出た細い鎖骨に、噛み付くようなキスをされ、押し殺せない欲情に満ちた声が、部屋に甘く響いた。
 酔いに支配された頭は、余分なものを殺ぎ落とし、京を拓也だけを求める生き物に作り変えてゆく。
 陶酔を呼び起こす幻惑に、京の縋りつく腕から力が抜けていった。
「あ……拓也……っもう……」
 崩れそうな身体が力を振り絞り、愛しい人の名を呼ぶ。
 応えるように、全てを解ってくれる力強い腕が、頼りない身体をしっかりと抱きとめた。
 こんな所が、たまらなく好きだと京は思う。
 離せない。一生この人の傍に居たい。
 京の願いはただそれだけだった。
「京…………愛している」
 拓也は軽々と京を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。そのまま自分も乗り上げ、再び唇を重ねあった。
 深く舌を絡めあいながら、拓也は京の身体を隠す全てを取り払ってゆく。
 されるがままにその身を預けながら、京は焦れるような不思議な感覚に囚われていた。
 京の細い指先が、何かを奏でるように、拓也の肩を幾度も往復する。
 今日は拓也の誕生日なのに……。
 その想いが、だんだんと強くなってゆく。
「拓也……」

 

「京」
 拓也は名前を呼ばれ、微笑んで愛しい名前を囁いた。
 京の指先が伸びてくるのに、それを見詰め、悪戯を思いついたように、その先を口で咥える。
「あ……」
 驚いて手を引っ込めようとするのを許さぬように、拓也は口に含んだ指先を痛くないように軽く歯を立てた。
 薄く開いた唇に自分の細い指が侵入し、拓也の白い歯が覗いている。
 ちろりと動くのは拓也の舌。それが京の指を舐めている。
 そんな悪戯を仕掛ながら、拓也は自分の服を脱いでいく。
 噛まれていない手を伸ばして、京は拓也のファスナーに触れる。
 拓也は驚いたように京を見詰め、そして嬉しそうに笑った。
 スラックスを脱ぐのは京に任せ、拓也はくわえた京の手首を掴み、掌を舐める。
「やめ……、拓也……」
 指の間や爪の形を確かめるように、拓也は舌を這わせる。
「ん……」
 つい疎かになりながら、京は懸命に拓也のズボンを脱がせていく。
 ベルトとファスナーを外すと、拓也は協力的に、足を抜いてくれた。
「手……お願い。や……」
 無理に手を引くと、拓也は惜しそうに、京の手を離してくれた。
 そのまま京にかぶさってこようとするのを、京は両手で突っぱねて、自分も起き上がった。
「京……?」
 京は小さく震える手を拓也の肩に置き、そっと口接ける。
 そのまま抱きつき、そして、ゆっくりと京は顔を下へずらしていった。

 鋭利な頬の輪郭から滑らかな首筋へ。京はゆっくりと口接けを落としながら、拓也の身体を下へ下へと辿ってゆく。
 美しい胸に頬を寄せ、躊躇いながら胸の飾りにも小さくキスをした。
 驚いたような拓也の声に俯いて見える京の角度でも、耳が紅く染まったのが解る。
 そのまま京は動きを止めず、まだ下着に隠されたままの愛しい熱に指を添えた。
「京……」
 今にも顔を出しそうな程育った拓也の分身を、細い指が窮屈な場所から取り出す。
 目の前に出てきた時点で、ぐんと一回りは大きくなったような気がするのは、錯覚だけではない筈だ。
 京は愛しげに両手でそれを包み込むと、先端の部分に小さくキスを落とし、その先端に、赤い舌をチロチロと擽るようにして舐める。
 トロリと馴染んだのは、京の唾液だけではないだろう。
 先端の括れだけを口に含み唇で刺激しながら、脈打つ枝の部分は焦らすように指で摩る。
「京……」
 名を呼ばれ、うっとりと顔を上げると、そこには拓也の美しい顔があった。
 手を伸ばされ抱き寄せられると解った京は、逃れるように愛しい熱を、唇の奥深くへと飲み込んだ。
「……んっ」
 拓也の艶やかな声が微かに響いた。
 長い指が、さらさらと手触りの良い、真っ直ぐな黒髪を撫でる。
 拓也の脚の間に蹲る白く細い体は、懸命に、だが焦らすようゆっくりと頭を動かしている。薄い舌は繊細に這い回る動きで、拓也のくびれを筋を刺激し、持ち主の欲情を限りなく育てていった。
「京……気持ちいい」
「……」
 京から子猫が鳴くような、甘えた声の返事が返ってきた。
「もう……」
 充分だと言う拓也の声は、耳に入っているはずなのに、京は奉仕を一向に止める気配は無い。

「出して……いいの?」
 耳を撫でられながらの問いに、京は拓也を咥えたまま、こくんと頷く。
 拓也は愛しそうに京を見て微笑んだ。
「京……」
 名前を呼ばれる度、まだ触れられていない自分が大きくなる。
 思わず揺れる腰の動きを見詰め、温かな口内でちろちろと動く舌に昂められ、拓也は熱い息を吐く。
「ん……」
 鼻にかかった拓也の声に京が顔を上げた時、ドクンと口の中のものが弾けた。
「あ……」
 口から溢れるものを拓也は手で受けてくれた。枕元にあったティッシュでそれを拭い、京の口も拭こうとしたのか手が伸びてくる。
「……や」
「京?」
 京はそれを嫌がり首を左右に振る。絹糸のような髪が、サラサラと揺れる。
 身体を起こした京は拓也の目の前で唇を舌で舐めた。
 塗れた唇に赤い舌が辿り、拓也の胸がドクンと鳴る。
 京の白い肌が薄いピンク色に染まり、情欲さえ感じないと思うような美しい容姿を穢しているという倒錯感。
 拓也は京の頬を挟み、唇を舐める舌に噛みつくようなキスをした。
「ん……」
「……ぁ」
 二人の息が交じり合う。もう、相手が欲しいということしか考えられない。いや、それさえもわからない。ただ相手が欲しい。それだけが渦巻く。
 縺れ込むようにベッドに転がる。
 もどかしく拓也は着ているものを脱ぎ捨てる。
「あ……、……ん」
「京…………」
 言葉さえ、喘ぎさえ、もどかしかった。
「きて……拓也」
「まだ……無理だよ」
「やぁー」
 唇に吸いつきながら、京はいやいやと首を振る。早く欲しい。
「京……」
 早く京の中に入りたい。そう思うのは拓也も同じだけれど、だからこそ、まだ無理なのだ。
 ジェルをいつもより多めに掌に出す。
「たくや……」
 潤んだ黒い瞳に見つめられ、拓也は目を閉じて大きく息を吸う。自戒のために。まだ無理だと言い聞かせ、ジェルを京の後に塗り込める。
「んっ」
 体温の上がった肌に冷たかったのか、それだけでも刺激になったのか、京は息をつめる。
「やぁ……」
「我慢して……」
 京がぎゅっと目を閉じるのに、拓也は指を慎重に潜り込ませる。
「たく……や……」
 肩にしがみつく愛しい手にキスをして指を増やす。そして固く反った京にも手を添える。
「あ……ああ……ん」
 先から涙を零すように、愛撫を待つ京を大切に大切に扱く。そして跳ねあがる腰に、指を更に増やす。
「もう……きて。……ねぇ」
 拓也は可愛くねだる京の口にキスをして、指を抜く。
 猛る己をその入口に押し当てると、京は拓也の口の中に舌を滑り込ませてきた。
「うっ……」
 ぐいと拓也は京の熱い体内に自分を埋め込んでいった。

 拓也に満たされてゆくと同時に放たれる京の声は、甘く擦れ、耳に心地良く響く。
「たく……や……」
 細い腰をぎこちなく揺らし、京はしなやかな脚を拓也の腰に廻した。
 いつにない積極的な京の姿態に、拓也もまた煽られてゆく。
「京……」
「ん……っ」
 グ……と中の敏感な部分を押され、京の薄い胸が綺麗に撓る。
 反らされた喉に、胸に、拓也はゆっくりと熱い口接けを落としていった。
 緩やかに腰を動かすと、それに追い縋る様に京の腰が付いてくる。
 動きにあわせて、濡れた音が部屋に大きく響き、二人を尚煽っていった。
 拓也は両手で京の膝裏を掴むと、大きく割り開き身を起こす。
 妖しく濡れた部分を見下ろす形で、大きく腰を引き抜くと、熱く震える熟れた内側から、己の分身が出てくる。
 濡れた内襞が絡みつき、離れがたいと蠢くその様は、拓也の熱を限りなく求めているように見えた。
 快感の象徴である京の中心から、止め処も無く蜜がこぼれ出る。
 拓也が再び彼の中へと埋め込んでゆくと、可愛い声が泣き声を含んで自分の名を呼び続けた。
 同じ動きを幾度も繰り返し、拓也はじっくりと、だが逃れられない様、京を追いつめてゆく。
 奥深くまで収め、華奢な腰をゆっくりと揺すってやると、彼の先端から小さく白濁の飛沫が上がった。
「ぃ……ぁっ……!」
「京……イってるの?」
「あ……いや……見ない……で」
 突く度に京の欲情の先端から、白いものがトクントクンと零れ落ち、二人が結合している場所へと染み込んでゆく。
 細かい波を呼び起こす焦らすような絶頂に、限りなく翻弄された身体が、見る間に朱に染まっていった。
「気持ち良い?」
「ん……ん……」
 幼く見えるほど素直に、京が何度も頷く。
「綺麗……京」
「イヤ……」
 黒髪が左右にパサパサと音を立て揺れる。
「ね、京?どうして欲しい?」
「あ……」
 拓也の声に、涙に濡れた黒い瞳が、縋るように拓也を見つめた。
「京の好きなことしてあげる」
「……キ……ス……」
「いいよ」
 拓也は京の脚を高く持ち上げると、そのまま覆い被さるように、京の唇を奪った。
「は……ぁん!」
 深い結合に、あからさまな嬌声が上がる。
 京のこんな声は、拓也でも始めて聞く。
「京……京……可愛い……」

 京の唇を吸いながら、拓也は京のものを包み込む。
「ふ……んっ」
 しっとり濡れた分身は扱くだけでもう飛沫を上げる。
「あっ」
 もっとキスしてやりたいけれど、拓也も限界が近かった。
「京……」
 愛しいものを愛撫しつつ、高く上げた京の脚にキスをしながら、拓也は腰を押しつけ、ギリギリまで抜く。
「やっ!」
 ぐっと押しつけると、熱い襞が絡まり、拓也を捕らえる。それは極上の快感だった。
「あっ……、んっ……」
 堪えきれない嬌声が上がる。その声が更に拓也を煽る。
「京……、愛してる……、京」
 激しくなる注挿に、京は衝撃に耐えるように指を噛む。が、その手を優しく取り上げられる。
「傷つけないで……、この手も……、僕のものだから。…………噛むなら、これにして」
 拓也の指が京の唇に押し当てられる。
 その指を噛むことは出来ずに、京は口に含み、舌でぺろりと舐める。
「ん……」
「京……、あいしてる」
 くちゅ、くちゅと淫猥な音が響く。それすらも二人を昂める。
「たく…や……、あ……、もう」
「京……、僕も……、いくっ」
「…………拓也っ!」
 身体の奥に熱いものが弾ける。それを感じると同時に、京も拓也の掌に放っていた。
 熱い息を唇に感じ、京が薄く目を開けると、拓也の顔が焦点を結べないほど間近にあった。そのまま口接けられる。
 喉の渇きを潤すように、京は拓也の唇を求めた。
「京……」
 愛しい名前を呼び、拓也はぎゅっと京を抱きしめた。
「拓也さん、誕生日、おめでとう……」
 逞しい腕に抱かれながら、京は、この日をかみしめる。
 生まれてきてくれて、ありがとう。
 その言葉の代わりに、おめでとうを言おう。
「京、ありがとう」
 そうすれば、優しい笑みと共に、甘いキスをしてもらえる。
 クリスマスの夜景は、まるで二人のためというように、窓の外に煌いていた。

  Fin?  to rev…………  

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