文月小夜

KISS−KISS





あまり言葉は多くないけれど、思いの外、その目が告げていることを、この年下の恋人は気づいているだろうか。
弟の同級生……。
いや、同級生というようなものではなく、親友と言った方がいいだろう。
実は、その事実は、拓也の中で、小さな刺となって疼き続ける。
自分には、親友と呼べる友人は存在しない。
正也が……、生まれる前から、何もかもを分け合ってきた双子の片身がいれば、それで良いと思ってきた。
けれど、最近になって気づく。
親友という存在は、ある意味、恋人よりも重いのではないだろうか。

人ごみは好きではないらしい。
どんな場所にいても、恋人の表情を読み誤ることは決してしない。
だから、自分が探したスポットに、京を連れてきて、ホッとした和やかな表情をされると、それだけで嬉しくなる。
ニッコリ微笑みかけると、京は頬を染め、視線を逸らせる。
だから……、それがつい憎らしくなって、責める気持ちではないけれど、自分に向かせたくて、キスをする。


「...拓也さん」
「ん?なに?」
「...キス。上手すぎ」

もしかして、妬いてくれたのだろうかと思う。

「駄目?」
「そうじゃ...なくて...」

何かを追及されれば、自分の中にある、冷たい物や、疼く物を見透かされるような気がして、つい話を逸らせてしまう。
勝也のことはまだいい。
どれだけ、自分の気持ちの中でしこりになろうとも、京にとって勝也がどれほど大きな存在なのかは、理解できるから。
けれど、自分の中の冷たい物。それを知られたくはなかった。
キスが上手いとか、多分、セックスが初めてではないこともばれているだろうと思う。
それを……。言い訳はしないだろう。
事実として、過去にはあったのだから。
けれど、それらは心を伴ったものではなかった。
ただの、遊びだったと言ってもいいような、軽い意味のない、行為だった。相手ももしかしたら、拓也でも正也でも、どちらでもよかったのだろうと思う。
そんな中で、冷静に、その行為に慣れたとしても、意味などない様に思う。
いいわけでしかないだろうが……。

 

自分を、自分だけを見つめてくれた相手と、はじめて交わしたキスは、甘いと感じた。
はじめて心の中が熱くなったキスだった。
夢中になって、何もかもを奪い尽くしかねない想いだった。
急いでは駄目だと、自分を抑えたのも、はじめてだった。
「好きだよ……」
「ん……、俺も……」
だから、聞かないで。
何も見ないで。
僕の後ろにあるものは。
君が見ているものだけを、どうか信じて……。

奪うだけのキスはしない。
与えよう、この想いを。
なくならない、この想いを。

抱きしめる身体は、愛しい温もりと、重さ……。

END






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