Call 11
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「俺......汚い?」 その言葉に胸に痛みが走る。自分の態度一つが、京にはこんなにも不安が押し寄せるのだ。それを可哀想にも思いながら、同時に嬉しくもあった。 京を支えているのは自分だという自負もある。病院で見せられた、おそらくは京の普段の無口さと、自分の前で見せる、口数は少ないが、甘えてくれる京の態度。 自分の前でだからなのだと、そう思おうとする。それでなければ、これからの京を支えていく自信が崩れそうになるのだ。 『何もかも飲みこめる男になれ。あの子の優秀さは、孤独で満たされたものだ。そんなものを羨ましいと思うな。お前がそう思えば、あの子はどうやって立ち向かって行くんだ?』 Kvの今後を考えて洋也と話し合っていたとき、時に漏れそうになる弱音を、兄はいち早く察し、そんなことを言った。 今、それを試されているのではないだろうか……? 「確かに、汚いね」 瞬間、京の顔が苦痛に歪む。京の心が閉ざされようとする瞬間、拓也は京に口接けた。 「嫌だ!」 逃げようとする京を、拓也は許さなかった。 「いや!」 「綺麗にしてあげるよ。僕の手で。口で。何もかも、僕のものに、もう一度してあげる」 拓也の強い言葉に、京は動きを止めて、恐る恐る顔を上げる。 「元通りの京にしてあげる。全部、全部、僕で満たしてあげる。嫌な思いも、出来事も、全部僕が消してあげる。この身体は僕のものだって、京に教えてあげる。全部僕にくれただろ? もう一度、最初からもらってもいいよな?」 京の目から、涙がこぼれ始める。 「二度と、自分の身体を汚いなんて言わせない。この身体は、僕のものなんだから!」 流れる涙を舌で舐め、ピアスを口に含んで、耳朶を噛む。 ぴくりと震える身体を抱きしめ、そっとベッドに横たえた。 「京……、取り戻せて良かった……」 自分の身体の下にある京の身体をゆっくり眺める。 少しも汚いなどとは思わなかった。その痣、傷、一つ一つが拓也の責任の重さだった。この傷を忘れてはいけない。京と共に、背負っていかなくてはならないものなのだ。 「拓也……さん」 眺めているだけの拓也に不安を感じたのか、京が心細そうにその名前を呼んだ。 「愛してるよ。京……」 頬に手を添え、唇を重ねた。 |
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キスは好き。 京はいつもキスをねだる。思うままに唇を与える。 だが、今夜はそれに応えようとはしない京に、拓也はそれでもかまわないと、舌を挿し入れ、ゆっくりと動かし始める。京の舌を舐め、歯の裏を撫でる。 唇をずらし、京の唇を舐め、甘く噛んだ。 胸の傷に触らないように、脇腹を手で撫で下ろしていく。腰を撫で、そっと足の間に手を動かす。 まだ京のそこは反応を示していなかった。 柔らかい部分を手で包み、刺激を送っていく。唇を吸い、こめかみにもキスをした。 唇をずらし、喉にキスを移していく。 京の腕がぴくりと動くのを感じた。 そこに痣があった。痣を舐め、強く吸う。 「ん……、拓也さん」 声がしたのと同時に、京の手が、拓也の頭を抱き寄せようとする。 手の動きに合わせて、拓也は伸びあがり、唇を合わせる。 京の舌が覗き、拓也の舌を吸おうとする。唾液を送ると、こくりと飲みこんだ。 「ん……、もっと」 少しずつ、夢中になってきているのだろう。そんな可愛い仕草に、拓也は思うままに舌を与え、反応を見せ始めた京を扱き始める。 「ん、ぁ……ぁ」 拓也が唇を離すと、悲しそうに泣く。 それでも、拓也は京の身体にキスを落としていった。 どの痣も、自分の責任で、一つ残らず、自分が作ったものに変えなくてはならない。 拓也は京の身体に残る青い痣に口接け、吸い、赤い染みを広げていく。 「拓也さん……」 自分の名前を呼ぶ声は、まだ京が忘我に達していないことを教えてくれる。 手の中ですっかり形を整えたそれを、拓也は強く擦る。 「からだの向き、変えられるか?」 拓也が京の身体を左を下に横向ける。 「痛くない?」 「……痛くない」 京の答えを聞いて、拓也は痣を変える作業を背中に移す。 「ん……、ん……」 前に手を回し、京を可愛がる作業は続けたまま、拓也は背中に何度も丁寧にキスを落とす。 「んん……」 京の背中が震える。 「も、もう……」 首を小さく振る京を、拓也は再び仰向ける。 「拓也……、拓也……」 限界が近いのだろう、京は両手を伸ばし、拓也に縋ろうとしている。 拓也はその指先にもキスをして、京を口に含んだ。 「あっ、……だめ!」 京は背中を跳ね上げ、痛みにか、快感にか、顔を歪ませる。 拓也は舌で京を舐め上げ、唇で扱いた。 「やめ、……離して、お願い、拓也っ!」 拓也の髪を両手で掴み、京は力なく、引き剥がそうとする。 拓也は漏れる唾液か、京から滲み出たものか、それともそれらが交じったものかわからない、滑ったものを京の後ろに塗りつける。 「や……、拓也……、拓也……」 どんな哀願も、今は聞きたくなかった。全部、自分のものにする。 それしかなかった。そうしなくてはならなかった。 指を挿し入れ、中を擦る。 「も、もう……ダメッ」 首を振る京の耳元で、蒼い石が一緒に揺れる。 強く吸い上げ、割れ目を舌で舐める。 「んっ!!」 京の足がシーツを蹴り、背中を撓らせた。飲み込ませた指がきつく締められる。 口の中に広がる、ほろ苦い液を、拓也は迷わず飲み込んだ。 「や、……だ」 両腕で顔を隠す京の、その腕を剥がす。 「愛してる。京。辛くなったら、言えよ」 軽くキスをして、拓也は指を引き抜き、熱い身体の中へ、自分を埋め込んでいった。 |
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それは息の詰まるほどの質量と痛みを伴い、京の中へとゆっくりと侵入してゆく。 全身を襲う痛みに加えて、局部に受ける新たな身を裂くような痛みを必死で逃す様に京は浅い息を繰り返している。 欲して止まなかった愛しい者のぬくもりと匂いである筈なのに、何故かいつもと違う感じがすると、京は攫われそうになる意識の中で思っていた。 恐らく身体が発熱しているのだろう、過去受け入れた時は灼熱と思えた塊が僅かに冷えて感じるのだ。 それは、まるで自分の穢れを洗い流してくれるようなそんな不思議な感覚。 「京……キツ……イ……」 吐息に溶けるような拓也の声に京の肌が朱に染まる。 「拓・也・・さ……」 潤んだ眼差しで見上げると、辛そうに表情を歪めた拓也が視界に入った。 そんな顔をしないで欲しいと京は願う。自分はこんなに幸せなのだから。と。 「も・・と……き.て……」 拓也は京の言葉に奪う様に唇を重ねた。 「………………っ……くぁ……っ!」 抱きしめた愛しい身体が放つ悲鳴を全て唇で吸い取り、痛みに強張る身体に目をつぶると拓也は一気に根元まで腰を進めた。 「……京……京……熱い……」 額に架かった髪をかきあげてやると泣き濡れた瞳があらわれた。高熱のためか肌は乾いているのに、額にはうっすらと汗が浮いている。紅く火照る身体とは裏腹に貧血の為か顔色が恐ろしく悪い。 「……………………痛い?」 黙ったままぎこちなく否定の意を示す。痛くない訳はない。現に、京の指先は爪が白くなるほど拓也の腕に食い込み、言葉も成せぬほど呼吸が荒いのだから。 京の欲しいものは解っている。だから、今がどんなに辛くても止めてはやらない。どんな事になろうとも、今、これがお互いに必要なことなのだから。 「動くよ……」 微かに肯くのを確認し、言葉通りにゆっくりと腰を引きぬく。 熱い粘膜が離れがたいと引き戻し、それでも去ろうとする拓也に必死で追いすがってくるのが解かる。 熱が再び押し入ると、まるで歓喜を表わすかのように京の内部が拓也を呑み込み、うねりながら細かく震えた。 「京…………京…………そんなにしたら……」 拓也が苦し気に頭を2.3度振って快感を逃す。 「拓也……き・・て……」 熱に浮かされ掠れた声が拓也を呼ぶ。 潤みきった瞳が、濡れた唇が拓也を誘う。 「……京……!」 |
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拓也は深く京を貫き、そして離れるかと思うほどに己を引く。 その度に、京の胸が上下する。傷を覆うガーゼは、滲み出た血と、汗とで、じっとりと濡れている。わかっている。こんな酷いことはない。 京の身体は限界なのに。 それでも、京の精神を救う為、自分たちのこれからを守る為、それを止めることは出来ない……。 「京……」 激しく繰り返される注挿に、京の顔が苦痛に歪む。 「もっ……、と……」 それでも京の求める声は、やまない。 「京、見て。京に、酷いことをしている、男を見るんだ」 涙に濡れた目が薄っすらと開く。 「拓也さん」 ぽろぽろと涙が溢れ出す。 「愛してるよ。もう絶対、二度と離さない」 嗚咽と共に京が頷こうとする。 けれど、拓也に深く穿たれ、京の白い喉が反り返る。 「……っん! あっ、ああっ!」 忘れるな、これを。深い傷を与えるのも、それを癒すのも、自分だけ。 拓也は深く腰を進め、激しく京を求めた。 どこまでが自分のものなのか、京の身体の内部なのか、どろどろに溶け合ったような感覚が襲う。 「ああっ、あんっ……、あっ…………」 京の喘ぐ声も限界に近いことを教えている。 「京……、京……」 「たく……や、……いく……」 「京……!」 大きく身を沈め、拓也は灼熱の中に、自分が完全に溶け込むのを感じた。 「ああー!」 京がか細い叫び声を上げる。一つに溶け合い、交じり合ったような感覚。 荒い息をしながら、拓也は自分の身体の下で涙を流す京を見下ろす。 「拓也さん……」 汗に濡れた拓也の前髪が、いつもとは違う野性的な印象を与える。そんな表情も、京は好きだった。 「全部、貰ったよ。この身体は、全部、僕のものだからね」 優しい微笑み。 その微笑みを、涙を流しながらも京は微笑んで見上げる。 そして、そのまま目を閉じて、眠りに落ちていく……。 すぅ……と、疲れが、京を深い眠りに誘い込んでしまう。 「ずっと傍にいるから、何も考えずに……、眠るんだよ」 拓也はベッドを下り、熱く絞ったタオルで京の身体をもう一度拭いてやる。 それでも京は起きなかった。毛布を引き上げ、包んでやる。 まだ熱があるのか、京の身体は熱い。 「んん……」 何か夢を見ているのか、京のまぶたが震える。 「大丈夫。もう終わったよ」 髪を撫でていると、すぐに安らかな吐息に変わる。 「大丈夫、二度と、こんな目には遭わせない」 それは、拓也自身の誓いでもあった。 ベッドサイドには京から貰ったプレゼントがあった。 銀細工の瀟洒な造りの箱を開けると、中から青い光を放つ美しい石が現われる。 ライティングを絞った室内に、その光はぼんやりと反射して、さながら、二人は夜の海の底で眠っているようだった。 奇しくも拓也が選んだ石が、京に貰ったプレゼントの欠片のように思える。 静かな、聖夜が更けていく。 どうぞ、今宵のように、静かに二人、いつまでも幸せでありますように……。 拓也はその愛しい身体を抱きしめ、自分も目を閉じた。 |
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