■十二国記のお題■

No.15>>今は亡き者□

 

『悧角!』  『六太!』

 あの時、あの瞬間の呼び声がすべてを決めた。

 尚隆は生を得て、斡由は沈んだ。

 俺は尚隆を助けるために使令を呼んだ。

 そして更夜は……、自分でも答えの見つからぬ思いのまま、養い親を……止めた。

 更夜の叫び声が聞こえた時、俺は更夜が斡由を助けるために天犬をけしかけたのだと思ったのだ。そして、悧角は過たず斡由を倒したとしても、六太までを仕留められるとは思えなかった。

 

 俺は尚隆が斡由に背を向けた瞬間から、言いようのない不安に取りつかれていた。

 ひんやりとした何かが背中を伝った。

 いいんだろうか。そんなことをして。尚隆……。

 不安は的中し、斡由が剣を持った瞬間、俺は叫んでいた。

『悧角!』

 そして、横から聞こえた叫び声。

『六太!』

 俺は恐怖と共に振り返った。

 ……やめてくれ、更夜。そいつを行かせないでくれ。

 恐怖のあまり、次の使令を呼ぶこともできずにいた俺の目に映ったものは……。

 六太を止めていた更夜の姿だった。

「更夜……」

 俺の声は更夜に届いただろうか……。

 更夜はただ深く、六太の身体に身体を寄せていた。

「今、楽にしてやる」

 尚隆の声に、細い肩が震えた。

 

 あれから……。

 指一本が百年の単位で数えるようになった今でも、俺はあの日の事を思い出す。

 雁の国は豊かになった。

 ……けれど、更夜は雁に帰ってこない。

 もちろん、更夜には更夜の役割があって、彼は好き好んで、黄海に生きている……と思う。

 

 でも……、でも。

 どれだけ尚隆を信用していても、尚隆のすることに間違いはなかったのだと思っていても、ただ一つの疑問が、俺の心に去来する。

 きっと、……更夜もその疑問を胸に抱えている。だから、彼は、俺たちの国に来ない。

 

 尚隆。……お前、あの時、わざと斡由に背中を向けた?

 尚隆……。お前、あの時、背中を向けることで斡由を試しただろう?

 俺が使令を使ってでも、お前を守ることを知っていて。

 そして、多分……、更夜があの妖魔を止めるだろう事も見越して。

 

 俺はそれを確かめられずにいる。

 尚隆は屈託なく、むしろ人を食ったような笑みを浮かべて、俺の問を肯定するだろう。

 

 斡由があの時、自分の中の何かを認めていれば、尚隆は彼を国の要に置いただろう。

 つまり斡由は自ら、生を捨ててしまった。

 

 斡由だって、雁の国民だったのに……。

 彼だって、……正しく望めば、尚隆はそれを手渡しただろう。

 

 

 俺にそう思わせる尚隆が……俺は大嫌いだ。

 けれど、それが国を治めるということ……。

 

 

 


 

絶対わざとだ。と私は思うわけです。

 

 

お題を戴きました。
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