俺の名前は広岡達樹。高校2年生。彼女募集中。
 俺の通っている都立美古浦高等学校には伝説の男がいる。俺の親友、二条希一だ。
 名前に一と二を持つ男と呼ばれ、成績も優秀、男の俺からはよくわからないが、女 子達はかっこいいと騒ぐのだから、見た目もいいのだろう。
 そんなだから、希一は一年生の時からもてた。一月に二度くらいのペースで女子か ら告白されていたが、どういうわけか彼の答えはすべて「ごめんなさい」だった。
 その告白のペースもクリスマス前にミス美古浦1年を振ってからは、ペースダウン した。よほど理想が高いのかと思われたのだろう。
 それからは年下でもいいわというつわもののお姉様たちもやってきたが、ことごと く玉砕。
 実は人妻と不倫しているのではないか、ゲイなのではないか、などと色んな噂が流 れていたが、俺は知っていた。
 希一は特別純情な片想いをしていたのだ。しかも片想いの相手は同じ学年の男子生 徒だ。
 だから噂の一つはまんざら嘘でもなかったことになる。
 その片想いの相手、早瀬順は今時信じられないくらいの奥手な男だった。
 何しろ希一を見ただけで隠れてしまうのだ。
 それをまた希一は、自分の顔が怖いせいだと思っているのだから、こんなに面白い 話はない。
 俺から見れば、早瀬だって希一のことを好きなのだ。ちょっと考えればわかるだろ う。好き過ぎて、相手のことをまともに見られない。目が合うだけで心拍数が上がる。 喋るなんて到底できそうにない。
 そんな気持ちが、もて男の希一にはわからないらしい。彼の周りには堂々と告白で きる女生徒ばかりだったのだから。
 だから希一は自分の態度が悪いのか、顔が怖いのかと悩んでいた。
 親友の俺は、それを訂正するつもりも、教えるつもりもなかった。
 お互い好き同士なのは、傍から見れば明らかなのだ。誰がどうもしなくても、希一 のことだから、時期が来ればなんとかしてしまうと思っていたので、それまではせい ぜい楽しませてもらおうと密かにウォッチさせてもらうことにしていた。
 ところが、早瀬順という男は、想像以上に純情で、奥手で、恥ずかしがり屋だった。
 2年生で俺を含めた、希一と早瀬の三人は一緒のクラスになったのだが、希一は話 をするきっかけさえ掴めずにいたようだった。
 二条希一という男は、そんな事でへこたれる男ではない。
 何か企んでいるんだろう?と俺が聞くと、ニヤリと笑いやがった。
 早瀬を修学旅行委員に推薦し、それを自分が手伝うという名目で、仲良くなろうと したのだ。意外とそのセコイ戦略に笑い出しそうになったが、後が怖いのでなんとか 堪えたのだが。
 それでも早瀬の殻は、とてつもなく固く、頑丈だった。
 俺から見れば、希一は敗戦寸前だった。いかに二条と言えども、もう無理だなとい う見通しのほうが強かった。
 可哀想に、想いあっているのに失恋なんだと、まぁ、ちょっぴりだけ、たまには失 恋もして見ろよと思ったのは俺だけの秘密だ。
 それがどうしたわけか、修学旅行の直前になって、二人はあっさり仲が良くなって いた。しかも、どう見ても、想いを伝え合ったようにしか見えない。
 相手は早瀬なので、イチャイチャには程遠いのだが、二人が一緒に登校したり、教 室で話すのを見ていると、首の辺りがむず痒くなって困るくらい、かわいいカップル なのだ。
 二人が出来上がったら、いっぱいからかって邪魔してやろうと思っていたのだが、 あまりに可愛いというか、子供っぽいので、冷やかしもできずにいる。
 そして……何故か、修学旅行先のホテルで、俺は二人の見ているこっちが恥ずかし いようなラブラブを見せられている。
 希一の野郎はまんまと早瀬と同じ部屋を勝ち取りやがった。もちろん、あらゆる手 を使ったに違いない。なのに早瀬には偶然のように振る舞うのだから許し難い。
 早瀬にばらせば、残りの学園生活が脅かされるので、そんな愚は犯していないが。
 二人で同じ部屋をゲットしたまではよいが、あいにくホテルは三人部屋だ。他のク ラスメイトでは、早瀬といちゃつけないと踏んだ希一に、俺は白羽の矢を立てられた。 とんだ迷惑だ。
「なぁ、ババ抜きでもしねー?」
 観光マップを広げて、明日回る名所を調べながら、楽しそうに話す二人に、同室者 の存在を思い出して欲しくて、俺はトランプを取り出す。
「明日の昼飯でも賭けるか?」
 クラス委員長様とも思えない台詞に、俺は笑いながらも同意する。
「大丈夫、大丈夫。早瀬にジョーカーが行かないようにするからさ」
 できるわけねーだろと思いつつ、どうせ早瀬が負けても希一が出すだろうからと、 俺は真剣にトランプに取り組む。
 しかし、そんな賭けをしちゃったらさ、明日の昼も早瀬とは二人きりになれねーっ て、わかってないのかね、二条様ったら。
 この二人、実はキスもまだなんじゃないだろうか。
 早瀬が相手じゃ、手を繋ぐのもやっとだろう。
 この分だと今夜はゆっくり寝れそう。
 ジョーカーをいかにして希一に掴ませようかと考えながら、俺はトランプの並べ替 えをした。



                        おわり