サリアスとエンディミオンの一騎打ちは熾烈を極めた。
 激しく刀がぶつかり合う。
 状況はエンディミオンに有利に見えた。
 周平たちは周りのモンスターを倒し、残すところはエンディミオンただ一人となったのだが、激しい戦いに、サリアスの補助もできないありさまだった。
 サリアスが地を蹴る度に雪煙が舞い、刀がぶつかるとフラッシュのように眩しく光る。
 サリアスの表情が険しくなっているのは、劣勢なのが理由ではないように思えた。
 エンディミオンに向けて剣を振り下ろすたびに、綺麗な顔が歪み、時に泣き出しそうになっている。
「裏切り者め」
 エンディミオンの言葉に傷つく戦士。
 周平はどうすることもできずに、ただ見守るしかできない己が悔しかった。
「ぐっ!」
 エンディミオンの刃がサリアスの肩を引き裂いた。
「サリアス!」
 周平が駆け寄り、刀を構えてサリアスをかばう。
「そいつは俺が倒す」
「させるかっ!」
「止めろ……周平」
 サリアスは剣を杖にして立ち上がり、覚悟を決めたように左腕の赤い革を外していく。
「サリアス……」
 しゅるしゅると腕から離れ、白い雪の中に血のように赤い塊を作る。
 現れた腕には縦に太い傷跡があった。
 傷跡はぎざぎざに盛りあがり、まだ痛みに疼いているように見える。
「サリアス、なにをっ…」
 その傷跡に剣を滑らせて、開いていくサリアスを、周平はあわてて止める。
「いいから。大丈夫だから」
 流れ出る血を剣に塗りつけて、サリアスは刃先をエンディミオンに向けた。
「何のつもりだ」
 エンディミオンはとうとう狂ったのかと、サリアスをあざ笑う。
「思い出せ、エンディミオン。この傷の意味を。この血の誓いを!」
 サリアスは剣を振るう。
 その剣先から血が迸った。
「ぐっあぁぁぁ」
 その血がついたエンディミオンの身体から、シュウシュウと赤い蒸気が噴き出してくる。
「な、何が……」
 驚きに瞠目する周平たち。
 サリアスは悲痛な表情で、苦しむエンディミオンの肩を、血が滴る左手で掴む。
 エンディミオンは更に苦痛に倒れこんだ。
「サ……サリアス……」
 顔を歪めながら、エンディミオンがサリアスを見上げた。
「楽にしてやる。…………お前を……人間に戻してやる」
 ぽた、ぽたと落ちる血を、エンディミオンの唇に塗る。
 エンディミオンの表情から、苦しみは変わらないながらも、狂気が消えていく。
「サリアス……」
 微笑さえ浮かべたエンディミオンは、サリアスを見上げた。
「サリアス……。髪を、……切ったのか」
 紅い涙を流し、エンディミオンは目を閉じた。
 その胸に、サリアスは自分の剣を突き立てた。