圧倒的な敵の強さに周平たちの一団は追い詰められていた。
深い傷を負って倒れている仲間を救いもできず、一人欠け、二人欠けしていく。
SOSコールは送ったが、すぐに駆けつけてくれる援軍はいないだろう。
どの軍もこの最終戦に賭けていたのだから。
ならばなんとしてもこの狂人的な強さの敵を倒さねばならない。
周平は身の軽さを活かして、なんとか傷を負わずにいられたが、極寒の寒さと大きな敵を相手に体力は限界に近づいてきていた。
はぁはぁと肩で息をする周平を、エンディミオンは面白そうに見下ろす。
彼が乗ってきた巨大な狼は、周平と仲間二人とで、何とか倒した。
自分の騎乗するモンスターを倒されても、エンディミオンはさして気にした様子もなく、大きな剣を鋭く振り回してくる。
「さぁ、そろそろお遊びは終わりだ」
唇の両端を引き上げて笑うが、鉄の眼光は鋭く、凶器をはらんでいて、踏ん張っている足を一歩退かせるだけの迫力がある。
ぐっと刀を握り直す。
全身の闘志をかき集め、下段に構える。
下から斜めに切り上げ、相手の足を台に宙返りし、返す刀で脇腹を狙う。
二太刀ともに軽く跳ねられ、シュッと風を切る音がして、周平は目の前に迫った大きな刃を刀を盾に両手で受けた。
その強い力に全身が軋みをあげる。
「どうした。跳ね除けてみろ」
男は笑う。
周平の刀もミシ、ミシと刃毀れしていく。
父親が進化軍に破れ、形見として譲り受けた大切な刀だ。
けれど相手の剣を跳ね返す力はなく、自分が逃げる余地ももうなく、このまま刀が折れて身体を裂かれるのだと思うと、歯が折れそうなほど悔しさを噛み締める。
それでもこの男から目を逸らすのは嫌だった。
刀が折れたら……切られても懐に飛び込んで喉を突き刺してやる。
いくら相手が進化していたとしても、喉をやられれば致命傷にはなるだろう。
そう思った周平の視界の隅を、赤いものが過ぎった。
「エンディミオンー!」
ガチンと火花が散って、周平を押しつぶそうとしていた大剣が消える。
「サリアスっ!」
周平とエンディミオンの間に、剣を構えたサリアスが立っていた。
目の端に映った赤いものはサリアスの左腕を覆う革の包帯だった。
「エンディミオン、覚悟しろ」
サリアスは静かに告げた。
「お前に俺が切れるのか?」
エンディミオンは愉しそうだ。
「切れる」
いつも余裕のあったサリアスの、落ち着いているようでありながら苦しそうな言葉に、周平はドクンと鼓動を高めた。
「サリアス、お前もエボリュータントに来い」
「断る」
「やっぱりお前は俺を裏切ったんだな、サリアス。俺をエボリュータントに差し出して、一人だけ助かったんだ」
エンディミオンの言葉に、二人が知己であったことを知り、周平は驚きに息を呑んだ。
「それは違う」
「違っていてもかまわないさ。俺は進化したことを喜んでいる。俺はお前を倒し、地球の虫けらを倒し、この星の覇者となる」
妖気のこもった瞳が光り、高らかに勝利を宣言し、笑う。
そんなエンディミオンを前に、サリアスの呟いた言葉は、傍にいた周平にしか聞こえなかった。
………………俺を逃がしてくれたのは……お前なのに……。