周平は日本の北端にある砦の防衛隊へ回された。
それは日本軍としては危険な戦場として噂されるところで、どうやら剣士の説得を失敗したことによる更迭に近かった。
事の顛末を報告すると、どうしてサリアス発見と同時に信号を送らなかったのかと酷く叱責を受けたのだ。
あの時はもう自分の生死しか考えられず、そのほかに何か考えられる余裕など微塵もなかった。
ここは任地としてはかなり危険ではあるが、その分、隕石落下地点にも近く、防衛の重要な砦でもある。
敵が攻めてくれば功績を挙げることも不可能ではない。
砦の城壁の上で、周平はこの前見たサリアスの闘い方の真似をしていた。
ジャンプして攻撃、着地と同時に次のジャンプで攻撃。
しかもジャンプの時には身体を回転させなくてはならない。そうでないと敵が見えなくなり、攻撃を当てられない。
一見簡単なようでいて、攻撃まで組み入れるとなると、バランスをとるのが非常に難しかった。
しかも実践ではこの攻撃で敵を切る衝撃が加わるのだ。
おとなしく切られてくれる獣はいない。こちらの攻撃が外れれば反撃してくれるだろうし、攻撃が当たれば痛みで暴れるだろう。
どちらも非常に危険だ。
それをサリアスは、まるでダンスのステップを踏むように軽くこなし、剣の重さも感じさせず、獣の間を優雅に飛び回っていた。
なるべく彼を思い浮かべ、あの戦いをトレースするようにジャンプしようとした。しかしジャンプして回転を加えたまでは良かったが、勢いをつけすぎて城門の壁にぶつかって派手に転んでしまった。
「いってー……」
尻餅をついて痛みに顔をゆがめた時、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
「だっ誰だっ」
握っていた剣を両手でしっかりと持って、飛び起きた。
「俺」
城壁の端に座って足を組んだ男は、楽しそうに笑って周平を見下ろしていた。
「あっ、……さっ、サリアス……」
「しーっ!!!」
サリアスは慌てて周平の口を押さえた。
「こんなところで騒いだら煩いのが来るだろう?」
大声を出すなよと言われ、周平はうんうんと頷いた。
「どうしてここに?」
「たまたま通りがかって」
たまたま通りがかれるような場所ではないし、ここまで来るのにも何人も警備兵がいたはずだ。
どうしよう、やはり非常事態だと告げるべきだろうか、いや、この人には連邦軍に戻って欲しくないようにも思う。
周平の葛藤などお見通しのように笑い、サリアスは楽しそうに話しかけてきた。
「お前さ、着地とジャンプの間にワンステップ挟んでみたら? そうすればバランスをとりやすくなるから」
「み、見ていたんですか?」
恥ずかしさに顔が真っ赤になる。一体いつから見られていたのだろう。全く気づかなかった。
「お前、素質ありそうだよ。すぐに途中の一歩を省けるようになると思うぞ」
「ほ、本当ですか?」
嬉しさのあまり、他の事は一切吹き飛んでしまった。
星の救世主と言われる剣士に誉められたのだ。嬉しくないわけがない。
周平は徐々に力をつけていき、その後もサリアスとの遭遇を繰り返しながら、進化軍の中枢へと近づいていく。
その過程でサリアスにまつわる悲しい過去を知ることになっていく。
何故サリアスが連邦軍から出て行ったのか。
何故隕石の影響を受けたのか。
何故、隕石変化をしなかったのか。
…………何故復隊の要請を蹴り続けるのか……。