ノルマとして課せられた三人目をかろうじて倒した。
 はぁはぁと肩で息をしながら振り返ると、剣を鞘に納めた剣士は「よくやったな」と誉めてくれた。
 金色の瞳が凄惨な現場にありながら、優しい色で周平を見ていた。
「あとは一人で大丈夫か?」
 周平は慌てて首を振る。
「エマージェンシーコールを持っていないのか?」
 そうではない。
 連邦軍の各部隊は戦地に赴く際、戦地指令とは別に、必ず付録されるもう一枚の特別指令書を持たされるのだ。
 曰く、
『戦地で遭遇した場合、連邦軍への帰還を説得すること』
 と…………。
 金色の長い髪に金色の瞳で、戦士には見えにくい繊細な美しい若者の顔写真が載っていた。
 目の前にいる人は、ばっさりと美しかった髪を切っているが、その顔は見間違えようもないほどの美男子だ。
 そして左腕の赤い革。
「あの……あの、サリアス大尉殿ですよね」
 周平がかしこまって尋ねると、サリアスは苦く笑った。
「是非とも連邦軍にお戻りください。海江田総督がお待ちです!」
 美貌の剣士は仕方なさそうに笑った。
「海江田さん、今は総督になったんだ?」
「は、はい! 半年前の赤道上の戦乱で、進化軍を一掃されましたので」
 連邦軍の戦況は全く聞いていないのだろうか。
「んじゃあ、海江田さんが連邦軍を辞めたら、戻るって伝えておいてよ」
「えっ!?」
 周平が驚いているうちに、サリアスは身を翻した。
「サリアス大尉!」
「もう連邦軍は辞めちゃったんだ。だからサリアスでいいよ。また会えたらだけどね!」
 瓦礫の向こうに止めていたのだろうか、オフロードバイクの音がする。
 道に鉄の馬が飛び出してきたと思ったら、爆音を響かせて、彼の姿があっという間に遠ざかる。
 作戦失敗。
 周平は一人取り残された悲惨な戦場に今さらながら気づき、救助を求めるために通信機を取り出した。
 SOSを出すためだけの小さな通信機だ。
 サリアスのことは作戦が失敗したとしても、上に報告しなければならない。
 彼の足跡を辿り、次に現われそうな地域を予測し、説得とは名ばかりの捕獲作戦を練るためだ。
 隕石の影響を受けながら、変化しなかった戦士。けれど身体的能力だけが進化人類並みに伸びた。
 勢力を広げつつある進化軍に対抗できるのは、もはや彼だけなのだ。
 同時に何故変化しなかったのか、身体能力だけが伸びたのは何故か、それを研究するのが本当の目的なのかもしれない。
 彼と同じ能力の人間を作り出せたら、連邦軍の勝利の確立は跳ね上がるのだ。