ブランケット



 洋也はベッドに座り、秋良の手を取って引き寄せた。
 秋良は洋也に導かれるまま、洋也の前に立ち、彼の肩に両手を乗せる。
 洋也が座っているので、自然と秋良は洋也に見上げられるようになる。いつもとは違うその位置に、秋良はくすっと笑った。
「どうした?」
 優しく、けれど少し掠れた声に、欲情の影を感じさせる。
「たまには、こうして見下ろすのも楽しいかも」
 答える秋良の目元が朱を帯びている。
 わかっている……。
 これから行われることも、そして、自分がそれを望み、乱れることも。
「だったら秋良、キスして。秋良から」
 薄い茶色の瞳が秋良を見つめる。外ではただきつい光しか見せないその瞳は、愛する人の前では、優しく甘い色に変化する。
 キスして……、と囁かれた秋良は、頬を染め、「もう……」と言いながらも、腰を屈める。
 静かに降りてくる唇を受けながら、洋也は秋良の腰に手を回し、自分の胸に引き寄せる。
 触れるだけの口接けは、すぐに離れようとし、洋也が舌でその唇を舐めると、ぴくりと震え、また重なってきた。
 口接けが深くなるにつれ、洋也の肩に置かれるだけだった手は、愛する人の首に回されていく。
 洋也はそのまま舌を秋良の口内へと挿し入れ、秋良の舌に絡める。
 秋良の腰を抱き寄せ、背中から秋良のパジャマの中へ手を侵入させていく。
 直接肌に触れると、秋良の身体が一瞬強張る。だが、洋也の手が優しく撫でると、今度はそれを期待するように、秋良の肌はしっとりと掌に馴染んでくる。
「ん……」
 合わせた唇から秋良の吐息が漏れる。するりと離れていく二人の唇の間に、銀色の光る筋が流れ、プツリと切れる。
「あ……」
 秋良は真っ赤になり、洋也は微笑む。
「愛してるよ、秋良」
 秋良の頭を引き寄せ、頬にキスをする。
「もう……」
 秋良は照れたように笑い、洋也にキスを返す。そのキスを受けながら、洋也は秋良のパジャマのボタンを一つずつ、ことさらゆっくりと外していく。
 すべてのボタンを外し、ランニングの裾を持ち上げる。やがて現われる秋良の白い胸に、洋也はそっと大きな掌を押し当てる。
「ん……」
 舌を舐め合い、唇を吸う。唾液の混じり合う音が、秘めやかに響く。
 胸に這わせた手の指先は、秋良の小さな胸の飾りを見つける。指先でその形を確かめるように弄る。
「…や……」
 秋良の腰が震え、腕が洋也の頭を抱きこむように回される。洋也はより密着してきた秋良の胸に唇を押し当て、自分の指先でプツリと赤く色づいた小さな果実を口に含んだ。
「あ……」
 舌先に当たる小さな蕾は、甘く洋也を酔わせる。
 唇を離すと、濡れた乳首が淫靡に光る。およそ、秋良には似合わないその光景に、けれど洋也は満足そうに微笑む。
 自分だけがこの身体を開けられるのだという、強い独占欲がしめていく。
 いくら抱いても、まだ足りないと、自分の心が渇きを訴える。どうして飽きるということがないのだろうとさえ思ってしまう。
 もう一つの飾りをそんなことを考えながらも十分に味わって、洋也は秋良のパジャマのズボンに手をかける。
 ゴムに指をかけ、ズボンをずらせる。太腿を撫で下ろすようにズボンを下げると、秋良が洋也に抱きつきながら、首を振るのがわかった。
 クスリと笑みを隠し、洋也は思う。
 秋良も慣れるということがない。
 何度の夜を数えただろう。幾度肌を重ねただろう。もう数え切れない過ごした時間にも、秋良は慣れるということがないらしい。
 膝を過ぎると、パジャマズボンがすとんと床に落ちる。
 秋良の育ち始めた欲望は、自分の前を隠すブルーの薄い布を持ち上げようとしている。その形をブリーフの上から親指と人差し指ではさむように確かめる。
「ベッドに……」
 秋良の声が上から聞こえるが、洋也はそれを聞き流す。両手を脇から挿し入れ、下ろしていく。零れるように現われたそれは、勃ちあがり始めている。
 敢えてそれを無視して、洋也は下着を下ろし、パジャマのズボンごと、秋良の両足を抜いた。
 パジャマの上着の前をはだけ、ランニングを着ただけの秋良の姿は、いつもの清楚さと、艶かしさをあわせもち、洋也の欲望さえ煽りたてる。
「洋也……」
 少しずつ目の前で上を向いていくそれを愛しげに眺めていると、秋良は堪らずに恋人の名前を呼ぶ。隠そうとする手を掴み、洋也は秋良のものをその掌に包む。
 腰を抱き、洋也はそっと口に含んだ。
「嫌だ…………洋也……」
 自分は立ったまま、しかも口に飲み込まれていく自分のものが丸見えという、その体勢に秋良は、洋也の肩を押し返そうとするが、どうしてもそれはできない。
 腰から昇ってくる快感に、手の力が抜けていってしまう。
「あ、…………はぁ……」
 堪えることも出来ず、声がひっきりなしに漏れる。
 洋也は秋良の愛しい分身を唇と舌で愛撫し、そして後蕾に指を這わせる。
「洋也……、立ってられない……」
 秋良は洋也の肩にしがみつき、崩れそうになる身体を何とか支えようとする。が、既に足は震え、立っているのさえやっとだった。なのに、今も腰から足先までしびれは走り、つぷりと指が侵入してくる感触に、秋良は首を振って訴えた。
 くちゅりと洋也は口内から秋良を出し、手でそれを扱く。そして、濡れた目で自分を見下ろす秋良を見た。
 後に指を潜り込ませたまま、洋也は秋良を抱きしめ、ベッドへと倒した。そのまま上になり、秋良の分身を再び口に含む。
「あ……、洋也……」
 淡い声。
 秋良は洋也の髪に指を絡ませながら、自分の快感だけを追う。後に入れられた指は、いつの間にか増え、じわじわと圧迫感を奥へと伝えていく。
「ん、もう……」
 濡れた音がする。秋良を咥えた洋也の口からする音なのか、自分の後蕾からするものなのか、もう秋良にもわからなかった。
「もう……、イクっ! 離して……」
 それが叶えられない願いだとは知りつつ、秋良は洋也を離そうとする。
 けれどやはり、より強く吸われるだけで、秋良は恋人の口の中に、熱い精を迸らせる結果になる。
「……んぅ」
 ゴクリと、洋也の喉が上下する。唇を舐める舌が艶かしい。
 秋良は震える身体から力を抜いていく。だが、最奥に受け入れた指が、異物感と共に、それよりも大きな快感をもたらす。
「あ……、洋也……」
 熱に、いや快感に潤んだ瞳が洋也を見上げる。
「秋良……」
 にこりと微笑んで、洋也は秋良の喉に口接ける。そこに、自らの所有の印を残すため。
 再び、秋良の身体が熱くなっていく。
「秋良、……愛してるよ」
 耳に直接愛を吹き込んで、洋也は秋良の両足を抱え込んだ。
「洋也……」
 瞬間的に秋良は少し怯えた表情をする。慣れた好意であるはずなのに、どうしても最初の痛みだけには怯えを感じてしまうのだ。
「愛してる」
 秋良の唇を吸いながら、洋也は囁く。何度も、何度も甘い唇を吸い、秋良が陶酔の表情を見せ始めた時、洋也は自分を秋良の中に埋めていく。
「んんっ……」
 秋良の眉根が寄る。
「秋良、……秋良」
 頬を撫でながら、秋良の痛みを逃してやる。秋良の表情が和らぐのを待って、洋也は身を進める。
「ん……」
 侵入してくる大きな熱い塊に、秋良は息を吐いて痛みを逃そうとする。洋也の温かな大きな手を頬に感じ、秋良は摺り変わっていく快感に身を任せる。
「秋良……」
 すべてを収め終えて、洋也は秋良に口接ける。
「ん……」
 秋良は両手で洋也を抱きしめ、そのキスに酔う。愛する人と一つになれた喜びが、身体中に広がっていく。
「洋也……」
 秋良の後蕾が閉まり、洋也はゆっくりと腰を動かせ始める。
「あっ、……あっ」
 引かれ、押され、秋良は熱い嬌声を放つ。それがまた洋也の熱を煽る。
 愛してる。いくら抱いても、足りない。
 いつも秋良を求めている。もっと、もっとと求めている。
「秋良……」
「ん……、ああっ」
 呼ばれる名前に答えようとするが、口から漏れるのは、喘ぎばかりになっていく。
 そんな秋良を抱きながら、洋也の熱は荒れ狂う本流の出口を求め、激しく腰を動かす。
「あっ、……あっ、……あっ」
 秋良は熱い塊を飲みこみ、それでも足りないと飲みこみ、身体中が洋也で満たされていく。それが嬉しい。とても幸せだと思える。
「も、もう……、ひろ……や……」
 目尻に涙の粒を光らせ、秋良が洋也の名前を呼ぶ。
 愛しさが身体をかけ抜けていくのを感じながら、洋也はより一層動きを早める。熱く激しいその動きに、二人とも自分を忘れそうになる。
「は、はぁ……、ああっ……」
「ん……、秋良……」
「くる、……洋也……、早く……」
 ぱさぱさと、シーツに打ちつけられる秋良の髪。濃いブルーのシーツに浮かぶ、白い裸体。
「ああ……っ……」
 腹部に感じる熱い滑りと、きつい締め付けに洋也も同時に達する。
「んっ……」
 秋良は身体の中に熱い迸りを感じて、ぶるっと身体を震わせる。
「秋良……」
 まだ繋がったまま、洋也は秋良に口接ける。最初はまだ力が入らず、ただキスされるだけだった秋良が、おずおずと答え始めると、洋也の唇は笑みの形を作る。
「秋良、まだ熱い……」
「ん……」
 秋良のまぶたが、薄っすらと開く。琥珀色の瞳は潤み、その中に自分の姿を見つけるのは、洋也の楽しみの一つでもある。
「秋良……」
「洋也、……好き」
「僕もだよ」
 ぺろりと、愛しい唇を舐め、洋也は律動を再開し始める。
「や……、もう……」
「駄目、もう止まらない……」
 秋良は首をふって許しを請うが、洋也は酷いなと自分で思いながらも、熱くて、自分では押さえられない思いを打ちつけた。
 暖かくて柔らかい毛布は、秋良のお気に入り。
 一枚の毛布をわけあって眠るが、それはいつしか、秋良が独占することになる。
 特に寒がりでもない洋也は、寒いとは感じなかったが、毛布を抱きこむようにして眠る秋良から、無性にそれを奪いたくなる。
「秋良……」
 毛布を引っ張り、胸の中に抱きこむと、無意識なのだろうが、秋良は洋也の胸に鼻先をすりつけ、背中を腕を回して、また静かな寝息をたて始める。
 思惑が成功したからか、洋也は満足そうに微笑み、自分もまぶたを閉じた。
 あまり寝心地のいい毛布は買うものじゃないなと、思ったのはもう、眠りの中だっただろうか……。